コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.79 )
日時: 2013/06/15 08:55
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「おっと!綾川と枝下遅刻って記しつけるところだったぞ」
「すみません」「ごめんなさい」
「まぁ、間に合ったから、咎めはしないけどな。よし、座れ」

30代前半のまだ若い担任が、笑いながら言う。
ルックスは普通なのだが、笑顔が爽やか、ということで既に女子からの支持を多く獲得している先生でもある。

「はーい、分かりました」

美樹は緩く返事して、自分の席へと戻って行った。
私もそれに倣うが、心の中では

先生は目上の存在なのに、どうしてあんな言葉遣いをしたのか分からない。

と一人で悶々と考え続けていた。

「…というわけで、今日はこれでLHRは終了だ。4時30分からの委員会に遅れないように。それじゃあ、日直さんよろしく」
「起立。礼!」
「さようなら」「さようなら」

生徒と先生の声が重なる。

「帰る奴は寄り道せずに帰れよー?部活ある奴は頑張れ」

そう言って、先生は教室を去っていく。
私と美樹はそんな先生を笑顔で見送った。

「やっぱ、日野先生爽やかだー!」

美樹が幸せそうに言う。

「あはは、そうだね。爽やかだね」

私もそれに笑いながら答える。
すると、私達の会話を聞いていたのか、凜が途中参加してきた。

「あいつのどこが爽やかなんだ?」
「ちょっと、浅井!何それー?もしかして日野先生に嫉妬しちゃってますか?」
「んなわけねーだろ!」

そう言って、罰が悪そうに目を逸らす凜。
それを見て、美樹は可笑しそうにしながらも「ごめんごめん」と謝った。
そんなところへ、さらに状況をややこしくする者が現れた。
そう、その人とは——

「やぁ、凜。今日も不機嫌だね。ライバルが多いってことに今さら気が付いたのかな?」

逢坂くんだ。

「徹!てめぇ、いつも思うけど、俺のことを馬鹿にしてるだろ!?」
「んー、そんなことは、ないと思うけどね」
「どうして言葉に詰まるんだよ!その時点で怪しいだろ!」
「俺のどこが怪しいの?あ、そうだ!クラスの女子に聞いて回ろうじゃないか」

そう言って、まだ教室に残っている女子に片っ端から「俺って怪しい?」と尋ねて回る逢坂くん。
勿論返事は「NO」。
というか、それ以前にクラスの女子は、逢坂くんに話しかけられた、ということで「期待」と「幸せ」を兼ね合わせた蕩ける様な表情をしている。

本当、逢坂くんってばモテるんだから。

そんなクラスの女子の表情を見ながら嫉妬する私。

私も話しかけて欲しかったのだろうか?

心に問いかけてみる。
しかし、返事は返ってこない。

嫌な感じ。何だかもやもやする…。

そんなことを思っていると、逢坂くんがいつの間にか目の前に…。

「どう思う?綾川さん」
「へ?何が?」
「俺のコト」
「え…?」

何それ?告白ですか?
まさか!
こんな所で告白するわけがないじゃない!
それじゃあ、何?
あ!そういえば、さっき皆にも「俺って怪しい?」って聞いて回ってたからそれを短縮して「どう思う?」になったんだ!
「How about you?」の意味だったのよ!
もう、何勘違いしてるの、私!

一人で勘違いして、悩んで恥ずかしくなった私。
そんな私の様子に気づかれないように

「別に怪しくは…ないと思うけどなぁ」

と答えると、逢坂くんは嬉しそうに

「本当!?ありがとう!これで凜を説得できる!」

と言って、凜の席へと戻って行った。

「ねぇ、凜!綾川さんが、あの綾川さんが俺のことは怪しくない、って言ったんだよ?だから俺は怪しくないよね?」
「あの、お前さ…本当に学年主席か?怪しいの意味を取り違えるなんて…。どう考えたって俺が言った”怪しい”の意味は”逢坂が俺のことを馬鹿にしているようにしか思えない”っていう意味だったろ?それがどうして、外見の話になるんだよ。お前、やっぱズレてるな」
「ははは」
「何が可笑しい?」
「そんなこと知ってたよ」
「何だと?」
「俺はただね……たかっただけだよ」

肝心な部分を凜に耳打ちされたため、聞こえなかった。

一体何がしたかったんだろう?逢坂くんは。

「…お前!俺のコト、利用しやがったな!」
「ごめんって。だけど、俺の腹の中、案外黒いからねー。気を付けて」

そう言ってから「じゃあ、委員会行ってくるー」と言って去っていった逢坂くん。
そんな彼を悔しそうに凜は見つめていた。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.80 )
日時: 2013/06/15 23:38
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

そんなこんなであっという間に期末テストも終了し、7月に突入。
そしていよいよ待ち侘びていた修学旅行当日となった。

「えー、皆さん、おはようございます。朝7時に集まってもらったので皆さん眠たいかと思いますが、しっかりと話を聞いてくださいね」

若い女の先生がマイクを使って笑顔で言う。

偉く楽しそうですね、先生。
彼氏でもできたんですか?

と聞きたくなるほど、上機嫌だ。
ちなみに、この先生は笹原水奈と言って、隣のクラス(1-C)担任の34歳独身だ。

「はい!マイク変わりました!日野です。皆さん、修学旅行、楽しいものにしましょうね!それでは、さっそくバスへと乗り込んでいきましょう!」

朝から女子の黄色い歓声が鳴りやまない。

モテるって大変なのね…。

と改めて感じる。

「それでは、A組から移動です」

日野先生の言葉を合図に、A組の子がぞろぞろとバス停へと向かい始めた。
その後に続いて私達、B組もバス停へと向かう。

「バス座席、お前ってどこに座ってんだ?」

凜が振り向き様に言う。

「えーっとね、私は…一番後ろの列から3番目だったと思う」
「隣は?」
「美樹だけど…どしたの?」
「いいや、なんでもない」
「ふーん?」

凜は聞きたいことを聞き終えたからか、それから私の方へと振り向くことは無かった。
そして、バス停へ到着し、キャリーバックを積み込んだ後に、バスへと乗車していく生徒達。
勿論、私もそのうちの一人だ。

「真奈ー、待って待って!」

私より名簿が後ろなため、少し遅れてやってきた美樹。
軽く息切れを起こしているので、”順番抜かし”をやってきたのだろう。

「私はどこにもいかないから、そんなに慌てなくてもいいのに」
「いやー、それがさー」

と言って、美樹が照れ始めた。
美樹が照れるなんて滅多にない。

これは明日、雨が降るぞ…。

なんて失礼なことを考えながら次の言葉を待っていると、バスに先に乗車した生徒から「早く、真奈と美樹乗って!」と言われたので、会話の続きはバスに乗車してから、ということになった。
そして、バスに乗り込んだのは良い物の…

「え?…え?…えぇ!?」

私は思わず叫んでしまった。
周りから一斉に怪訝な目で見られたので、口を押えて大人しく自分の席に座る。
一体、私の席の近くに誰が居たのかというと、なんと逢坂くんが居たのだ。
しかも、通路を挟んですぐの隣、ということで、声も行動も何もかもを見ることが出来た。

どうしよう!?沖縄の修学旅行中、ずっとこの座席だよね?嬉しさと恥ずかしさで今の私の心、ぐちゃぐちゃ!

一人で悶えていると、美樹はいつもの爆笑を。

「あはは、真奈!そんなに悩む必要ないって!もしなにかあったら、あたしに良いなよ?なんとかするしさ!」

そう言って、溌剌と笑った美樹。

本当に、頼りになる友人だ。

そう感じた今日この頃。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.81 )
日時: 2013/06/16 10:50
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「それではバス、出発いたします」

ガイドさんの声でバスは出発した。

「今日、ガイドを務めさせていただく、黒川と申します。どうぞ、よろしくお願いします」

そう言ってお辞儀する黒川さんに皆が一斉に拍手をする。

「ありがとうございます。さて、皆様は今日、沖縄へ向かわれるとのことですが…」

こうして、ガイドさんとの談笑は終わり、持参のお菓子を食べても良い時間となった。
生徒の中にはお菓子を食べながら、トランプやUNOをしている人もいた。
そして、私と美樹、逢坂くんと凜もその一人だった…。

「…はい、上がり!俺の勝ちだね」
「また〜?逢坂強すぎ〜!」

美樹が不満そうにしながら、賭けていたお菓子を渋々差し出す。

「ありがとう〜、枝下さん!」

満面の笑みでそれを受け取る逢坂くん。

「美樹でいいわよ」
「じゃあ、美樹。ありがとう」

逢坂くんは早速美樹からもらったお菓子の袋を開けている。
私と凜も賭けていたお菓子を逢坂くんに差し出す。

「綾川さんも凜もありがと〜」

嬉しそうにしながら逢坂くんは私たちが差し出したお菓子を受け取る。

「いやー、俺、お菓子あんまり持ってきてなかったからさ。助かったよ」
「お蔭でこっちはほとんど何も残ってねーよ」

逢坂くんの隣の席の凜は、窓を見ながら不機嫌そうに言う。

「そんなことで不機嫌にならないでよ〜。俺のお菓子あげるからさ」
「何で俺があげたお菓子を俺が貰わないといけないんだよ!新種のいじめか?いじめなのか?」
「そんなことないよ。俺はただ凜の悔しさ滲み出た表情が見たいだけで…」
「それがいじめだよ!」
「これをいじめと言うのかい?いや、知らなかったなー」
「最後、棒読みだぞ!」
「そうだったかなー」

いつもの口喧嘩が始まった。
これはもう日常茶飯事であり、担任である日野先生も咎めるつもりはないらしい。
というか、日野先生は女子に囲まれて大変なことになっている。

「先生!私のも受け取ってください!」
「先生!口開けてください!私があーんしてあげますから!」
「あはは、気持ちは嬉しいんだけど…ここバスだからね?一端席に着こうか。もうすぐ高速道路に入るわけだし…」
「嫌です!先生がお菓子を受け取ってくれるまで、私、座りません!」
「私も嫌です!先生にあーんしてからじゃないと、死んでも死にきれません!」
「そうは言われてもねぇ…」

日野先生は困った顔で苦笑い。

女子の皆さん、沖縄に着いてからでも全然問題ないじゃないですか。
今、ここでやらなくてはいけないことでもないでしょうに…。

と一人冷静に考えていると、学級委員が立ち上がった。

「ちょっと、あなたたち、席に戻りなさい!」
「でも、委員長…!」
「そんなの、飛行機の中でも沖縄でもできるでしょ!今、やる必要性を私は感じないわ!」

学級委員長である花澤さんの眼鏡がきらりと光った。
花澤さんの眼鏡がきらりと光ると、激怒の前触れ、ということを既に承知している女子らは、「はーい」と肩を落としながら自席に戻って行った。
そんな様子にガイドさんは苦笑い。
日野先生も苦笑い。
私も苦笑い。

…でも、何やかんやで楽しい修学旅行のスタートを切れたようだ。





Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.82 )
日時: 2013/06/16 20:36
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

——数時間後

「那覇空港、到着だぜー!」
「ついに沖縄、来たぁ————!」

口々に感動を声に出しながら、那覇空港に到着した。
キャリーバックはというと、直接宿泊先のホテルへと輸送されている。

「はいはい、他のお客様に迷惑が掛かりますので、もう少し静かに」

日野先生が真面目な顔でそう言うと、女子も真剣な顔つきになった。

あれ…?
女子ってこんな単純な生き物でしたっけ?

「それでは、今からバスに乗りますよー。A組から着いてきてください」

A組の担任の先生が日野先生に代わって、先頭を申し出た。
その様子に、A組の女子は肩を落としていたが。

「あはは〜、皆可愛いね〜」

美樹が私の後ろで爆笑している。

ん?私の後ろ…?

「って、何で美樹がここに居るの!?」
「今更ですか」
「え?」
「大分前から居ましたけど?」
「え!?でも、石島くんは?」
「ふふふ。そこ、聞いちゃいます?」

怪しげな笑みを浮かべた美樹。
これは危険信号だ。
触れないでおこう。

「そういえば、美樹は…」

私は言葉を一度そこで区切り、前の人物を指差す。

「好きなんだよね?」

私の行動に少し動揺しながらも、美樹は茹蛸みたいに顔を真っ赤にしながらコクコクと頷く。

「じゃあ、私、順番変わるよ」

そう言って、私は美樹の後ろに並ぶ。

「え!?でも、それは駄目でしょ。仮にも名簿順なわけだし…」
「15番も順番抜かししてる美樹に言われても説得力ありません。そういうわけだから、美樹の位置はそこね!」

私は強引に美樹を私の前に留まらせた。

「絶対先生にバレルよ…」
「大丈夫だよ。日野先生に言っとくから」
「真奈さん、それだけはやめてください」
「…ふふふ、何それー」
「そっちこそ!」

こうして笑い合っていると、次はB組の移動となった。

「お!もう移動じゃん!」

美樹は凜が前に入るからか、少し上擦った声で嬉しそうに言う。
私もそんな美樹を見ているのが幸せで、自然と笑みが零れてしまう。

「ほらほら、真奈!早くいくよ!」

美樹が私の手を引いて歩き出す。
一瞬手を握られたことに嫌悪感を感じたが、美樹が私の手を握っているのは、なぜか許せてしまった。

今までは、凜でさえも握られたら嫌だったのに…

私は自分に疑問を感じながらも、手を握り返す。
すると、私が握り返したのに気が付いたのか、前を向いて歩いていた美樹がこちらを振り向いて笑っていった。

「大丈夫!あたしはここにいるからね!」

この瞬間に私は初めて”記憶の続き”を見た。
あの桜並木で交わした約束の続きを…。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.83 )
日時: 2013/08/02 18:39
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

『兄さん!もうここを離れるから戻ってきなさいって母さんが言ってる!』

私と同い年くらいの男の子がずっと先の方で誰かを呼んでいる。

『うん。分かった!今行くよ』

私の隣で笑っていた男の子が、声を掛けてきた男の子——弟の方を振り返りながら叫ぶ。
そして、また私の方へと向き直ると、先程までの笑顔はどこへやら、すっかり寂しそうな顔をしている。

『どうしたの?どこか行くの?』

私は不安げな顔で、彼に尋ねる。

『うん…。ちょっと遠いところ』

少し遠い目をして答える彼。

『また会える?』
『たぶん、10年くらいしたら会えるよ』
『じゅうねんって長いの?』

まだ幼かった私は”10年”がどれほど長いのかを知らずにいた。

『長いよ。でも、僕は絶対君を迎えに来るよ』
『本当?』
『本当さ。それじゃあ、印をつけておこうよ』

そう言って、彼が地面に落ちていた適当な石を拾い上げて、一番近くにあった木の幹に刻む。

”じゅうねんたったらあおうね”

『これでOKだね』
『うん』
『でも、この木の場所、私、忘れちゃうかも…』
『えーっと、それじゃあ、何か目印になるものを覚えておこう。えーっと…』

彼は辺りを見渡す。
そして、ある1つのものを見付ける。

『あ!あれだ!』

私に指差して見せたのは、”アニマルホスピタル”と書かれた動物病院だった。
動物がたくさん描かれた壁が今でも印象に残っている。

『あれを覚えておけばいいのね。分かった!』
『それじゃあ、また10年後だね』
『うん』
『バイバイ』

そう言って歩き出した彼。
そして途中まで坂を上った後、突然振り返った。

『君の名前は?』
『マナ』
『そっか。ありがとう』

こうして私達は契りを交わした。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.84 )
日時: 2013/06/17 15:55
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「…な!真奈!」
「…ん?」

美樹の荒々しい声で気が付いた。

「…美樹?」
「あ、もう良かったぁ〜。さっきから話しかけてるのに、ずっと上の空でさ〜、どうしたのかと思ったよ」

そう言って、心底安心したように笑う美樹。
私はそんな美樹に対して謝ると、辺りを見渡した。

…もうバスの中、なんだね。

全く気が付かなかった。
記憶の中に入り込んでいたような感覚が今でも残っている。

…あの子の名前、聞くの忘れたなぁ。

先程の記憶をもう一度思い返しながら思う。

そういえば、”兄さん”って呼ばれてたよね。
お兄ちゃんだったんだね。
もしかすると、あの子の弟さんは私と同い年かもしれないなぁ。
だって、あの子は私より2・3歳年上みたいだったし…。

考えを巡らせていると、またしても美樹の声が聞こえてきた。
今度は先程のような不安げな顔ではなく、”呆れ”と言った方が正しい顔をしていた。

「どうしたの?」
「どうしたの、じゃないわよ。もう…。本当、さっきから何考えてんのよ?」
「んー、昔の思い出を振り返ってた」
「昔の思い出?」
「うん」
「何で今更?」
「わかんない」

そう、そこが疑問なのだ。

美樹に手を握られて、笑顔で何か言われた後に、フラッシュバックのように記憶の続きが鮮明に思い出された。
だが、私が先程見た記憶の中にはそれらしい仕草は全くなかった。

…ということは、この記憶にはまだ続きがあるってことなのかな。

「まぁ、そんなことよりさ、せっかく沖縄なんだし楽しもうよ」

逢坂くんが、話題を断つように笑いながら言う。
美樹もそれに賛同した。

「そうよ。昔の思い出を思い出すなんて向こうに帰ってからでも全然できるじゃない!ね?」
「そうだね。そうだよね。沖縄、せっかく来たんだものね」

私は半ば自分に言い聞かせるように言う。

「そうよ!そういう訳で…先程逢坂にあげたお菓子、奪還作戦を決行する!」
「なんだそれ?」

凜が美樹の話に食いつく。
というか、美樹が凜のこと好きって聞いてから、2人が話しているのを見ていると、どうしてもニヤニヤしてしまう…。

「ちょっと、真奈!何二ヤついてるの?」

自分で言って、数秒後理由に気付いた美樹。
顔を真っ赤にして

「ぜ、前言撤回!そ、そういえばさっき浅井、あたしに何か質問してなかった!?」

と言って、逃げた。
しかし、まぁ、”凜”からは逃げられてはいないのだが。

「おう、聞いたぜ?お菓子奪還作戦って何するんだって」
「あ、ああ!そのことね!それなら簡単よ。…もう一度逢坂と勝負するの」
「へ〜。面白そうじゃん」

逢坂くんも勝つ気満々でその話に乗る。

「で?今度は何するの?」
「さっきはババ抜きだったから…今度はUNOをやるのよ!」
「UNOでも俺は一緒だと思うが」

凜は横目で逢坂くんを睨みながら言う。
しかし、それに対して美樹は不敵な笑顔を浮かべながら言う。

「あたしがどれだけUNOが強いか…教えてあげようじゃない」
「それじゃあ、お手合わせ願おうかな。美樹師匠?」

逢坂くんも挑発したような笑みを浮かべる。
美樹もそれに乗る。

「いいわよ。その師匠って呼び方、この試合が終わる頃には冗談で呼べなくなってると思うけど?」

こうして、なぜか私まで巻き添えを食らって、お菓子を掛けてUNOが始まった。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.85 )
日時: 2013/06/17 23:14
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「UNO!」
「は!?美樹、マジかよ!」

逢坂くんが驚いた声を上げる。
私だって驚いた。
なぜなら、開始数分で、美樹の手札があと1枚になったからだ。

「ふふ〜ん!だから言ったでしょ。あたし、UNOだけは負けたことないから」
「こっから巻き返す」

逢坂くんが本気モードに入ったようだ。
…しかし数秒後。

「あっがり〜!お菓子奪還作戦成功〜!てなわけで、逢坂。返して」

美樹は逢坂に満々の笑みを浮かべながら手を差し出す。
逢坂くんは苦笑いしながら、先程貰ったばかりのお菓子を差し出す。

「美樹、本当に強いなぁ〜。何か手品でもあるの?」
「それ、俺も聞きてー」
「私も気になる」

私達3人の興味津々、と言うような目を見て美樹は少し身動ぎする。
しかし、すぐにポーカフェイスに戻って

「教えな〜い。というか、手品なんてないよ〜?勘ってやつ?」

なんて適当な事を言っている。

「教えてくれたっていいじゃないか」
「嫌だね。教えた瞬間、もう一回決闘を申し込まれそうだし」
「勿論さ」
「尚更無理ね」

そんな会話に笑い合っていると、ガイドさんの声が聞こえてきた。

「間もなく、ホテルに到着いたします。お荷物をおまとめください」
「わー、もうホテルに着くの?早いね〜」

美樹はお菓子が返ってきたからか、鼻歌を歌うような勢いで荷物をまとめ始める。
私達、他3人もそれにならって、荷物をまとめる。

「いやー、バスの中だけでかなり波乱の修学旅行を過ごした気がするよ」

逢坂くんが名残惜しそうに、美樹の手のひらに収まっているお菓子を見つめながら言う。
そんな逢坂くんの視線に気づいてか、気付かずか、美樹がお菓子をひらひらと周りに見せびらかすような動きを見せながらゆっくりとリュックへと終う。

「それは徹って言うより、お菓子の方が波乱だったろ」

凜がまともな突込みを挿む。

「確かに、そう言われればそうだね」

私はそれに賛同し、クスクスと先ほどのことも思い浮かべながら笑う。

「お菓子に感情はないじゃない」

そして何よりも現実な事を言う美樹。

「感情はないけど、比喩ってもんだよ」

前言撤回。
もっと現実的な人がいました。

「まぁ、そうだけどね!?」

そう言って、リュックを背に背負う美樹。
それと同時にバスが停車する。

「ホテルに到着いたしました。皆さん、足元に気を付けて下車してください」

ガイドさんの声と共に、バスの扉が開き、皆が一斉に降車し始める。
私達もその流れに乗って、バスの外へと出た。
そして、その第一声が…

「あっつ!!」

だった。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.86 )
日時: 2013/06/19 00:27
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「何これ!?カンカン照りじゃないですか!もう夕方の5時なのに!」

美樹が頭を抱えながら叫ぶ。
私もそうしたい気持ちは十分わかるが、

ホテルまでの距離は数十メートルなわけだし、そこまで走ればいいじゃない。

と考えている自分がいるため、美樹と同じような行動はとらない。

「はい、バス降りた人からすぐにホテル行って、下村先生から部屋のカギを部屋長が受け取るように〜」

日野先生の声に皆が——否、女子が首が捥ぎれるのではないか、と思えるくらいに縦に振る。
そんな様子に私と美紀は苦笑いしながらも、足をホテルへと向かわせた。

「…うわぁ〜!すんごい綺麗なんですけど!」

美樹が感動しながら、ホテル内の装飾を見渡す。
リゾートホテルとは聞いていたが、ここまで綺麗だとは思ってもみなかった。

「これは、部屋も期待できるね」

私が笑顔で美樹に言うと、

「そうだね!」

と笑顔で返してくれた。
これが、なんだか新鮮だ。

今までは、こんな会話をするのは凜だけだったからなのかな?

そんなことを思いながらも、階段を上り、下村先生が待っている場所へ向かう。
途中、キャリーバックを受け取るため、荷物は増えてしまったが、なんとか下村先生の所へまでは無事に到着した。
そして部屋長である私は部屋の鍵を貰って、早速階段を上って部屋へと向かう。
私たちの部屋は5階にあるようだ。
私の掌に収まっている鍵には”504”と表示されている。
ちなみに、部屋のメンバーは私と美樹、部活が同じ優那ちゃんと、優那ちゃんと仲が良い涼香(りょうか)ちゃんだ。

「はい、504の人〜!行くよ〜!」

私がほかのお客さんに迷惑が掛からない程度に声を張り上げると、人波を掻き分けてやって来る2つの姿が見えた。
人と人との間から見えるその顔は、紛れもなく優那ちゃんと涼香ちゃんだった。

「やっと着いた〜」

涼香ちゃんが、最後の人波を掻き分けて私と美樹の前に現れた。
その後に続いて涼香ちゃんも到着。

「よし、全員揃ったことだし、階段上がろう!」

私の掛け声とともに階段を上がり、部屋へと到着した私達。

「部屋、開けま〜す」

ガチャリ、という音と共に開いた扉。
扉の向こうには見晴の良いバルコニー付きの部屋が広がっていた。

「広〜い!」
「綺麗!」
「リゾット!」
「リゾートの間違いね」

そんな声が飛び交う。

あぁ、これが修学旅行なんだね。

そんなことを改めて思う。
中学時代にも修学旅行へは行ったが、地元中学校に通っていたため、話が噛みあわず、幾度となく衝突してしまった。
そのためつまらなかった、という印象しか残っていない。

「あ、そーだ!夕食までには時間があるわけだし…」

そう言って、美樹はニヤリと笑う。

嫌な予感がするのは私だけですか?

「恋話しよ!」

予感は的中してしまった。


Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.87 )
日時: 2013/06/20 19:09
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「いいね!」
「やろうやろう!情報屋もいることだしね!」

涼香ちゃんと優那ちゃんは大賛成。
私はただ一人

「やっぱり、恋話は夕食の後でも…」

反抗中。
しかし、その努力も儚く散って消えた。

「駄目だよ、真奈ちゃん。夕食前に聞いて、夕食後にさらに考えるの。
女子の常識だよ?修学旅行って言ったらこうでしょ!」

なんて優那ちゃんに押されて、折れてしまった。

「わかったよぉ…。ちょっとだけだからね」

私が拗ねたように言うと、美樹が笑いながら「ちょっとあれば十分」と言った。
そして、そんなこんなで皆がベットに座り、スタンバイ出来たところで、恋話が始まった。
司会は勿論…

「はいはーい!では、まず好きな人がいる人手を挙げて!」

美樹である。

「じ、実は…」
「あたしも…」

そう言いながら、優奈ちゃんと涼香ちゃんが恥ずかしそうにしながら手を挙げる。
それを見て、私も勇気を出して手を挙げた。
美樹も私と同じタイミングで手を挙げた。

「おっと!?これは皆好きな人がいるパターンですね!ではでは公表しちゃいましょ〜!勿論、このことはこのメンバー以外に口外禁止だよ!?」
「それでも公表はちょっと…」
「うんうん。優那の言うとおり、それは少し恥ずかしいよ」

優那ちゃんと涼香ちゃんが真っ向から否定。
しかし、今日の美樹は粘り強い。

「駄目だよ〜!そりゃあ、あたしだって恥ずかしいけど公表するんだから、2人とも公表しなくちゃいけないよ!?」
「え!?あの美樹が公表してくれんの!?」

涼香ちゃんが目を見開いて、心底驚いた、というような顔をする。

「失礼ね。あの美樹って何よ…」

美樹が怪訝そうな顔で聞き返す。

「いや、その、悪い意味ではなくて、自分のことを一切語らないってい有名な情報屋さんが凄い大胆な事を言い出すな、と思って…」

涼香ちゃんがそう言って目を逸らす。
それに対して美樹は溜め息を吐いて「何だ、そのこと?」と返した。

「そのこと、って結構大きいよ?」

優那ちゃんも参戦。

「んー、あたしだって人間なわけだし?女子なわけだし?たまにはそういうのもいいかなって思うわけじゃん?何か問題が?」

段々と喧嘩腰の口調になって行く美樹。
すこし疎外感を感じているのだろう。

「ううん、そんなことない!美樹のコト聞かせてもらえるなんてみんなに自慢でき…」

優那ちゃんがそう言った瞬間、美樹が冷たい声で

「口外は禁止、だからね?」

と釘をさすように遮った。
そのあまりの迫力に優那ちゃんも

「はい、すいません」

なんて素直に謝っている。

「って、こんなことしてる場合じゃないじゃない!それじゃあ、公表してくよ〜!?じゃあ、まずあたしから!」

そう言って、深呼吸する美樹。
一気に場の緊張感が高まる。
そして美樹が口を開いた。

「あたしの好きな人は…浅井凜です」

暫くの沈黙の後、優那ちゃんと涼香ちゃんが「信じられない!」と叫びだした。

「確かにいつも仲が良いな〜、とは思っていたけど、それは中学の時からだったし、そんな素振りも全くなかったじゃん!」
「優那の言うとおり!全くそんな噂、聞いたことなかった!ねぇ、いつから好きなの!?」
「え…?いつって聞かれてもなぁ〜。多分、一目惚れだけど、これが恋ってのを自覚したのは中2の秋かな?文化祭の時に色々あって…」
「うっそー!?何があったの!?その文化祭で!」

涼香ちゃんが身を乗り出して聞いている。
ベッドから転げ落ちそうだ。

「はい、これ以上は言わなーい!」
「え〜!?」
「涼香、文句言わない!全員の好きな人聞き終えてから答えるから」
「本当!?それじゃあ、次はあたしね!…あたしの好きな人は、C組の篠田斗真(しのだとうま)くんです!」
「やっぱりね〜」

美樹はうんうんと頷きながら聞く。

「え!?美樹、知ってたの!?」
「そりゃあ、このあたしは桜田高校一の情報屋ですから」
「そうだった!それじゃあ、優那の好きな人も知ってる?」
「大体は。でも、あたしの中では候補が3人いるから断定はできない。でも最近はこの人かなって思う人はいるよ」
「え〜?そんなこと言われたら、言うの恥ずかしくなってくるじゃん!」

優那ちゃんが赤くなった方を両手で押さえながら俯く。

「自分だけ逃げるのは無しだぞ〜?あたしだって篠田くんのこと、白状したんだから」
「は〜い。…私の好きな人は、B組の石島くんです!」
「石島くん!?」

私は驚きを隠せずに叫んだ。
すると、優那ちゃんは俯きながら小さく頷いた。

「確かに面白いし、ルックスも成績も普通だけど…。優那ならもっと上の方、狙えたんじゃない?」

美樹が腕を組みながらそう言う。
すると、涼香ちゃんがそれに対して口を挿んだ。

「あたしも初めて優那からそれ聞いた時ね、美樹と同じこと思った!でもさ、優那から色々話聞いてると、優那にとっては、石島は全然違う視点から見えるんだよ。きっと優那にしか見つけられない石島の良い所を、優那は把握してるの。だから、お似合いカップルだとあたしは最近思うようになったね〜」
「まぁ、そうだね。恋の形は色々だし」

美樹も納得したように頷く。
そして、話が途切れた瞬間、一斉にみんなが私の方を向いた。

「な、何…?」

冷や汗を掻いてきた。

「何、じゃないよ?真奈ちゃんも白状しなきゃ」

優那ちゃんが言う。
それに涼香ちゃんも便乗してきた。

「そうだよ。あたしだって白状したわけだしさ。ていうか、天下の美少女の好きな人って一体どんな人なのか気になる!」

興味津々、と言った目で2人に見詰められる中、私は白状することになった。

「…白状します〜。私の好きな人は…逢坂徹くん」

美樹の時と同様、暫くの沈黙の後、なぜか喜び合う2人の姿が目に映った。

「やったー!これってさ、世紀の美男美女カップル誕生ってことだよね!?」
「うん、そういうことだよ!涼香!早く見たいねー!」
「ちょ、ちょっと待って!まだカップルとかじゃないし、気が早いよ…」

私の声も興奮状態の2人の耳には聞こえない。
ふと時間を見ると、夕食時間まであと10分だった。
「あと10分で夕食だから行こうよ」と私が言うも、それも彼女らの耳には届かず、仕方がないので私と美樹は2人を放って置いて、先に夕食会場へと向かった。
その後、2人は十分騒ぎまくった後、夕食時間まであと5分ということに気付き、慌てて用意をして夕食会場に向かったことは言うまでもない。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.88 )
日時: 2013/06/20 20:01
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

散々夕食中に、私と美樹は優那ちゃんと涼香ちゃんに咎められた。
が、しかし不思議なものだ。
夕食を終えると、2人ともすぐに怒るのをやめた。

どうしたんだろう?

と先程のことを思い出して身震いしながら考えていると、私の視界にふと入ったものがあった。

篠田くんと石島くんだ…。

私の予想では、この2人は内部生だ。
そして、中学時代からの親友とも言えるだろう。
食堂でよく一緒に昼食を取っている姿をよく目にする。

「何?あたし達お邪魔虫ですか?それじゃあ、あたし達、どっか行こうか!」

美樹が場の空気を読んで、私の手を握って、真っ先にエレベーターへと向かい始めた。

「あ、ちょっと!美樹!?」

涼香ちゃんが慌てたように、私の肩を掴もうとするが、私もその場の雰囲気を読んで、思わず避けてしまった。
そんなことに罪悪感を感じながらも、そのまま歩みを進める私達。
暫くしてエレベーターが見えたところで振り返ってみたが、追いかけてくる様子はない。
どうやら、あの2人に話しかけることを決意したようだ。

「…なんか進展、あるといいよね」

美樹が下向きの矢印のボタンを押しながら呟く。
私もそれに賛同した。

「そうだね。優那ちゃんにも涼香ちゃんにも幸せになってほしいもん」
「本当に、真奈ってふわふわしてるよねー」
「私が?どこが?」
「もう全て。昔からそんなんだったの?」
「昔…?」

私は過去を振り返ってみた。

特に今とは変わらない気がす…。

否、昔の私はもう少し活発だった。
でもある時を境に私は支えを失ったかのように人見知りになってしまったんだ。
ある時?
それはいつ?

思い出そうとすればするほど、記憶に靄がかかって見えない。

なんだっけ?
とっても大事なことを忘れてる気がするの。

そんな時に思い浮かんだのは、あどけない笑顔を惜しみなく向けてくれる”彼”の顔。

あの子…。
私と恋をするって言ってた子だっけ?
でも、何で今更思い出すの?

一人悶々と考え続けていると、いつの間にかエレベータ—が到着していたようだ。
先に美樹が乗り込んで不思議そうに私を見つめている。

「ごめん!」

私は慌ててエレベーターに乗り込む。

「大丈夫?さっきからずっと頭抱えてたけど…。なんかあたし、不味いこと言った?」
「ううん」
「そっか」

そう言って、それ以上は深入りしようとしない美樹。
ここに、彼女の優しさが感じられる。

美樹を、信じてみようかな?

そう思って私は口を開いた。

「実はね…」

私はこうして美樹に私の過去を打ち明けた。
全てを包み隠さずに。
その時の美樹の反応は、いつもと変わらなかった。

「あはは!すっごい過去の持ち主ね!真奈って!そんなの、少女漫画とかにしかないと思ってた!」
「ば、馬鹿にしないでよ…」
「馬鹿になんかしてないわよ。素直に感動してるの!」

美樹はエレベーターの中で笑い続けた。
そして美樹の笑いが止む頃に、長く感じられたエレベーターでの降下も終わりを告げた。

「これから部屋に帰って〜お風呂入って〜恋話だね〜!真奈!」
「私は最後のは要らないと思うけどなぁ」
「まあまあ、そう言わずに。ていうか、この後の恋話は主に優那と涼香にさっきのこと喋ってもらうんだからね〜」

なんて楽しそうにしながら美樹は部屋へと入って行った。