コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 君はまだ愛を知らないでいる【短編集】更新! ( No.13 )
日時: 2013/05/06 19:52
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

 episode3 「アヤメ」

 手紙が、来ていた。
 送り主の名前は書いていなかった。
 不安になりながらも封を切った。

 中には結婚式の招待状が入っていた。大方、高校や大学の時の同級生が送ってきたのだろう、と思ったが一つ不審に思った。
 招待状を普通に送れば良いものを、わざわざ茶封筒に入れて届けるだろうか?

「気味悪い……」
  
 そう呟きながら何気なく招待状を見た。送り主を確認するために。結婚するのは私の高校の教師だった。

「加賀……先生……?」

 加賀正先生。
 私の初恋の人で、私の大好きだった人。
 きっぱり、振られてしまったけれど。
 
 手が震えはじめた。もう忘れようと思っていた人から手紙が届いたから。

 封筒には招待状だけではなく、便箋も入っていた。
 ゆっくりと開く。

 ——安部へ
  
 やっと、俺も一人身から解放されるよ。
 手紙なんて書く必要ないと思ったけど、やっぱり安部には書いておくべきだと思い直したんだ。
 高校の時、俺を好きでいてくれてありがとう。
 安部は大事な生徒でそれ以上でもそれ以下でもない。
 だけど、『大事な生徒』だから忘れられない。
 お前も、俺のこと忘れるなよ?


「……なにこれ」

 意味が分からない手紙を読んでつい、その言葉が口に出ていた。
 私はそっと手紙を机に置き、庭に咲いているアヤメを見た。今の現状にぴったりの花だと思う。
 
「……おめでと、先生」

 貴方の結婚式では、笑顔でいられますように。
 
 目を瞑って、そう願った。


 
 アヤメ 花言葉……「良き便り」
 
 登場人物
  安部野々 nono abe
  加賀正  sei kaga