コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 君はまだ愛を知らないでいる【短編集】 ( No.6 )
- 日時: 2013/05/19 10:37
- 名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)
episode1 「宝物」
彼女が亡くなりました。
癌でした。
18歳の若さでした。
世界で一番大切な人でした。
「……優和君。陽菜はこれを残したの」
「……え?」
そう言って陽菜の母に見せられたのはノートパソコンだった。
「あの子、優和君はいないときはいつもこれを触っていたの。随分真剣な顔して……亡くなる前に言われたの。『優和に見せたほしい』って」
パソコンを開き、画面を指を指した。ワープロ原稿のページだった。
「ほら、ここに『優和へ』って書かれているでしょう?」
そこには、僕の名前が書かれたファイルがあった。
クリックしてみると、パスワード認証のページが出た。
「パスワード?」
「そうなのよ……優和君、もしよかったら考えてみてくれないかしら? あなたに残した最後の陽菜のメッセージだから」
必死で笑顔を見せてくれていることが分かった。
「分かりました……ありがとうございます」
陽菜の部屋に一人きりにしてもらった。
誕生日、西暦など、色々試してみたが開くことはなかった。
「あとパスワードってなんだ……?」
どうしても開きたかった。
最期に残した陽菜の僕へのメッセージならなおさらだ。
僕は必死で陽菜との会話の数々を思い出そうとした。
その中で、「宝物」についての話を思い出した。
『——陽菜の宝物ってあるのか?』
『あるけど……当ててみる?』
『え——お気に入りの本とか?』
『違うよ——うーんとね、宝物って言い方じゃ駄目かもしれないなぁ』
『何だよ、それ』
『でも、それ以上の宝物なんて思いつかないんだよ。いつも私を笑顔にしてくれるの』
「いつも私を笑顔にしてくれる」?
もしかしたら……人の名前……?
僕は大慌てでパソコンの画面を見つめなおす。
陽菜の母親の名前を入れたが違った。その時、もう間違われないことを知った。
パスワードを間違いすぎたせいだ。もう一度でも間違えたら一生開けないことになってしまう。
僕は名前を入れた。
yuuwa asakura
つまり、僕の名前だ。
『パスワードが認証されました』
その文字が出て、文章が出てきた。
僕は唾を飲み込み、陽菜のメッセージを見つめた。
優和へ
パスワード分かったんだね。
それだけで嬉しいよ。
今、貴方がこれを読んでいる時、私はもう貴方の隣にはいません。
もういないんだったら、何でも書こうと思うんだ。
私、いつも死ぬのが怖かったの。
笑顔で頑張ってた。お母さん達を不安にさせてくなかった。
でも、怖かった。
夜は眠れなかった。目を瞑ってしまったら、もう二度と開けることはできないんじゃないかって思ってた。
でも、優和がお見舞いに来てくれたときだけは笑顔でいられたよ。優和に笑ってほしかったのもあるけど……。
幸せだったんだよ。
ありがとう、ごめんね優和。
また逢う日まで。
さよなら、私の愛する人。
陽菜
「何でだよ……何でだよ……!」
何で陽菜が死ななきゃならねえんだよ。
あんな笑顔でいてくれたのに。
辛い時も僕達の為に……。
僕は駄目な人間だ。
陽菜に気を遣わせてばかりだった。
その時、下に何かの文字があるのが分かった。
自分は駄目な人間、とか思ったら許さないからね?
私はいつも優和に笑顔でいてほしいから。
「……陽菜っ……ごめん、ごめん……」
ただただ涙が溢れてくるだけだった。
だけど、その後には笑顔が待っているんだ。。
……いや、そのことが陽菜の願いだと思う。
未熟な僕は、今、陽菜の本当の願いを知れたと思うんだ。
登場人物
朝倉 優和 yuuwa asakura
南 陽菜 hina minami