コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 君はまだ愛を知らないでいる【短編集】7/20更新 ( No.77 )
- 日時: 2013/07/21 21:49
- 名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)
episode13 「スノードロップ」
好き、だ。
直感的にそう感じた。初恋だった。
そう感じて以来、見つめることしか出来なくなった。
恋をすると、ため息ばかり多くなる。
——という言葉を私は創作してみた。
放課後、一人教室に残り、自分の席が窓際なのが幸運だったが、彼がいるサッカー部の練習を見つめる。
でも、彼の姿はなかった。
なんでだろう、と思う。今日は休みかもしれない、そう思いながらも馬鹿みたいに私は練習を見続けた。
その時、教室の扉が開いた。
「あれ、藤塚?」
「え……塩谷君?!」
そこに現れたのは私の好きな人、塩谷君だった。
「なにやってんだよ、そんなとこで……」
そう言いながら、塩谷君は窓の方を見る。
「……サッカー部に好きな奴でもいるのか?」
「え、なんで……」
「だって、ここから見えるのなんてサッカーのグラウンドぐらいじゃん。それとも何? 通行人でも見つめてんの?」
「ち、違う……あ、あのスノードロップを見てたの!」
私は指を指す。
それは、グラウンドの片隅に咲いているスノードロップ。
「ああ、あの花スノードロップっていうんだ?」
私が指した方を向き、塩谷君は笑う。そんなことだけで嬉しくなる。
「毎回、あの花を見ると『先輩の卒業』って思うんだよなあ……まあ、今年は俺らが卒業なんだけど」
そう。高校3年生の私達はあと2ヶ月程で卒業する。
「……塩谷君は雪が溶けると何になると思う?」
「は? そんなの、水に決まってんじゃん」
「違うよ……春になるんだよ」
春は出会いの季節でもあり、別れの季節でもある。
ずっと、この雪が溶けなければいいのに。そう思った。
「へー……藤塚って案外ロマンチストなんだな」
「そうかな……」
「うん、あ、もう俺、練習戻るな。タオル取りに来ただけだから」
そう言い、足早に戻って行った。
雪が溶けて、春になる前に。
スノードロップが見れなくなる前に。
奇跡を、どうか、奇跡を。
スノードロップ 花言葉……「希望」「初恋のため息」「慰め」「楽しい予感」
登場人物
藤塚恵美 emi hujitsuka
塩谷啓太 keita shioya