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日常の変化【40】 ( No.109 )
日時: 2013/08/11 11:15
名前: ゴマ猫 (ID: 2qC9xcD7)


「好きです。俺と付き合ってください」

夕闇に染まる空が見守る中、屋上で俺は彼女に自分の気持ちを簡潔な言葉で伝えた。

「ふぇ!? さささ、桜井君!?」

突然の告白に頬を真っ赤に染めて驚く彼女。
——そう、その相手とは橘さんだ。
俺の記憶が全てなくなってしまう前に、この気持ちだけは伝えたかった。

「かっこいい台詞とか、気の利いた台詞は言えないけど、俺の素直な気持ちです」

「…………はい。こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします!!」

少しの沈黙の後、橘さんはそう言うと勢いよく頭を下げた。
——驚いた。
まさか受け入れてくれるなんて思ってなくて、告白が成功した時の事なんて全然考えてなかった。

「……えっと、桜井君?」

俺が何も言わないでいたのが気になったのか、不安そうな表情で覗き込んでくる橘さん。

「へっ!? あっ、ごめん。まさかOKしてくれるなんて思わなくて」

慌てて正直な気持ちを話す。すると橘さんは俯いたまま、小さな声で呟いた。

「……だ、だって、わ、私も桜井君の事、す、好きだもん。だから、嬉しい」

——て、照れる。
こんな事を言われて嬉しくない男が居るだろうか? いや、居ない。これは断言できる。

「えっと、じゃあこれからよろしくね」

思わずその場で小躍りしたくなる気持ちを抑えて、俺がそう言うと、橘さんも頬を真っ赤に染めたまま頷いてくれた。

——この時、俺はまだ心のどこかで記憶の事を楽観視してたのかもしれない。『大丈夫、なんとかなる』っと。
そして、それはすぐに自分の考えの甘さに気付く事になるのに時間はかからなかった。