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空白の時間【橘 菜々編】 ( No.110 )
日時: 2013/08/13 23:36
名前: ゴマ猫 (ID: 2qC9xcD7)


放課後、学校帰りに駅前で待ち合わせをしている私は時計を見ながらソワソワしていた。

「……そろそろかな」

「やぁ、菜々。待たせちゃったかな?」

「ううん、全然待ってないよ」

紺色のスーツに身を包んだ男性は、私が今、一番会いたかった人物だった。
挨拶もそこそこに、駅前の通りにあるカフェに入り、ドリンクの注文を済ませると、柔和な顔立ちの男性は私に話しかける。

「久しぶりだね、菜々。本当に大きくなった」

「そ、そうかな? 背はあまりのびてないけど」

「はっはっは。それでも大きくなったよ。本当なら、もう会えないと思ってたんだがね」

あごに手をやり、嬉しそうに微笑む男性。

「お待たせいたしました」

店員さんが運んできてくれたコーヒーをひと口飲むと、男性は真剣な表情に変わり、話しを切り出す。

「……菜々、学校はどうだ? 楽しいか?」

「うん。お友達もできたし、最近はすごく楽しいよ」

よっちゃんや、青山さん、ちょっと怖いけど葉田君。——それに、桜井君。

「そうか。菜々が楽しそうにしてくれているのが一番嬉しいよ」

「えへへ、私も久しぶりにお父さんに会えて嬉しい」

——お父さん。
私が小さい頃にお母さんと離婚して離れて暮らすようになったけど、こうしてまた会えて本当に嬉しい。

——数日前、学校から帰る途中、校門前に立つお父さんの姿を見つけた時には本当に驚いてしまった。小さい頃の、記憶にあったお父さんのままだったから。
『今度ゆっくり話したいから』と言って、その時は連絡先だけ教えてもらって帰った。でもお父さん、私の学校よくわかったなぁ。やっぱり調べたのかな?

「なぁ、菜々……また、一緒に暮らさないか?」

「へっ?」

突然の言葉に一瞬戸惑ってしまうが、お父さんとまた一緒に、家族3人で暮らせるなんて、こんなに嬉しい事はない。

「また3人で一緒に暮らせるの?」

「あぁ、菜々と母さんさえ良ければなんだがな」

「いいに決まってるよ!! お母さんだって本当は寂しがってたと思うし」

口ではそんな事は言わないけれど、お母さんだって寂しかったに違いない。

「待たせてしまったね……菜々。お母さんとは、お父さんの方からあらためて話してみるから」

「……うん。お帰り、お父さん」

お父さんに頭を優しく撫でてもらうと、昔を思い出してあたたかい気持ちになる。
想いをよせていた人と恋人になれて、大好きだったお父さんも帰ってきてくれた。私は……今、凄く幸せだ。