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- 空白の時間【橘 菜々編】 ( No.119 )
- 日時: 2013/08/16 00:25
- 名前: ゴマ猫 (ID: S9l7KOjJ)
長い石段をあがりきると、見えてきた神社。
私は子供の頃に一度だけこの神社に来た事がある。お父さんとお母さんがケンカをした日の夜、悲しくて着の身着のまま走ってたどり着いた先がこの神社だった。
「……やっぱり」
——不思議な羊さんに出会った場所。そして、いつか私が困った時に助けてくれると言ってくれた。
幼い頃の記憶がつながっていく。
……羊の神様。
後でわかったのだけど、私が出会った羊さんは神様なんだと、その当時の近所に住むおじいさんが教えてくれた。
「……どうか、桜井君の居場所を教えて下さい……私の……大事な人を……助けて下さい」
両手を合わせて祈る。
すると、なぜか急激な睡魔が襲ってきた。
その場に倒れ込むように崩れ落ち、意識が暗闇へと沈んでいく。
————
「すまないな。そなたと話すにはこうするしかなくてな」
暗闇の中に佇む、白い羊は私が小さい時に見た羊さんと同じ姿だった。
「ううん、そんな事より助けてほしいの!! 桜井君を……桜井君の居場所を教えて!!」
「……知ってどうする? あの少年は今やそなたの事すら覚えていないのだぞ?」
「……どうしてそんな事がわかるの?」
私は震える声で羊さんに問いかける。
「私があの少年に3ヶ月で全ての記憶が消える呪いをかけたからだ」
「そんなっ!? どうしてそんな事を!?」
「罪を償うための約束をしたのだ。その約束を果たせたら呪いは解いてやると」
その言葉を聞いた途端、私はやりきれない気持ちで胸の中がいっぱいになった。
あんなに優しい桜井君が……そんな呪いをかけられるほど悪い事なんてする訳がない。
いつも私に優しくしてくれて……いつの間にか、毎日が、桜井君に早く会いたい気持ちでいっぱいになってた。
「……わ、私は……桜井君に意地悪するようなら……神様だって許せないよ!! どうして……? 羊さんは桜井君の何を知ってるの? あんなに優しい人なんて他に居ないんだから。私の……大好きな人を取らないでよう……」
瞳から涙がとめどなく流れ落ちて、真っ暗闇の空間にシミができていく。
「……そうか。結果的にそなたを苦しめる事になってしまったようだな……」
しばしの沈黙の後、羊さんはそう言った。
すると、泣き崩れる私の目の前に1枚の白い紙が落ちてきた。
「……そこに少年の居場所が書いてある。そなたが望むなら行ってみるといい」
羊さんのその言葉と同時に意識が急速に浮上する。
気がつくと、私は夢の中から現実の世界に戻ってきていた。1枚の紙とともに。