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空白の時間【桜井 洋一編】 ( No.123 )
日時: 2013/08/20 22:25
名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)

「ただいま」

「お帰り、今日は遅かったね。お父さん、もう帰ってきてるよ」

学校から自宅へ帰ると、栗色ショートカットの女の子が俺を出迎えてくれた。

…………誰だ?

頭の中にそんな疑問が浮かぶ。けっして忘れてはいけない人物のはずなのに、名前が出てこない。
いや、それだけではなく、この女の子と俺がどんな関係なのかすら思い出せない。自宅に居るっという事は、家族……またはそれに近い親しい人物のはずだ。

「……どうしたの? そんな難しい顔して」

「……あぁ、いや、何でもないんだ」

訝しむように俺を見て、問いかけてくる女の子にとりあえず対応。
こんなその場しのぎが、いつまでも通じるとは思っていない。
——だから。

午前2時、こっそりと家を抜け出してやって来たのは、羊神社。
俺は羊に最後のお願いをしにきた。もちろん、記憶を元に戻してなどと言うつもりではない。

「お前の方からやって来るとは珍しい事もあるものだな。……今日は何の用だ?」

相変わらず大仰な口調で話す羊。しかし、もう喋る羊を見ても、最初の頃のように驚いたりはしない。
人の気配がまったくしない、静寂に包まれた境内で俺と羊はこれで何度目かという会話をする。

「……頼みがある」

「お前の言いたい事は、おおよそ見当がついている。しかし、それで本当に良いのか? 諦めるにはいささか早いと思うが」

「諦めたんじゃない。みんなを……俺の大事な、大切な人達を傷つかせないためだ」

「……そうか。ではお前の望みを叶えてやろう」

その瞬間、あたりは白い霧につつまれていった。