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空白の時間【桜井 洋一編】 ( No.124 )
日時: 2013/08/20 17:43
名前: ゴマ猫 (ID: ugb3drlO)


俺はこれからどこへ行くのだろう。

羊に俺が望んだ事。
それは、俺とかかわった全ての人の俺という存在の記憶を消す事。

つまり、最初から『桜井 洋一』という人間はこの世に存在してなかった事になる。
これ以上、記憶がなくなって俺の大事な人達に心配させて悲しい顔なんてさせたくなかった。
——とくに橘さんには。家族の名前すら思い出せなくなった時に限界を感じた。『もう無理だ』と……正直言ってショックだった。友達の、家族の名前すら思い出せない俺。
今まで考えないように、考えないようにしてた事が目の前で起こる現実。誰と話しているのかわからない状況で、どんな表情をすればいい? 唯一覚えている橘さんですらもうじき忘れてしまう。

でも、周りが俺自身を忘れてしまえば悲しみはない。だって最初から何もなかった事になるんだから。俺自身の記憶も、もうじき全てなくなる。そしたらこの不安な気持ちも、悲しいと思う気持ちも全てなくなる。

「……暗いな」

俺はどこともわからない道をひとり歩いていく。
真っ暗闇の知らない道を歩いていると、まるで世界中から自分がひとり取り残された気分になり、心細くなる。

「……橘さん……きっと幸せになるよな」

俺とかかわった記憶を消してくれと言った中に、橘さんも入ってる事は言うまでもない。
俺が居ない場所でも彼女が笑顔でいてくれたら俺はそれだけで幸せだ。

そのまま暗闇の中を歩き続け、何度も日が昇り、そして沈む。
何度目かの朝日を見た時に、俺は意識がもうろうとして崩れ落ちるように地面へと倒れた。