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空白の時間【桜井 洋一編】 ( No.125 )
日時: 2013/08/20 18:16
名前: ゴマ猫 (ID: QXDbI9Wp)

目を開けると、そこは知らない天井。仰向けで寝ていた俺の周りには、同じような真っ白なベッドがいくつも並んでいて、開いた窓からは外から入ってくる風でカーテンがバタバタと揺れていた。

「……どこだここ?」

頭がズキズキと痛む。手で触れてみると、何やら包帯がぐるぐると自分の頭に巻きつけられているようだった。
——俺はケガでもしたのか? どうやらここは病院みたいだ。

「おっ!! やっと目を覚ましたか!!」

入口の引き戸を開く音とともに、色黒で活発そうな男性が入ってきた。
見た感じ、俺よりひとまわりくらいは年上なんじゃないだろうか。

「お前、自分の名前とか、家とかわかるか? 身分証みたいなもん、なーんも持ってなかったからよ」

かなり大きい声でそう俺に尋ねてくる色黒の男性。頭にひびくので、少し声のボリュームを抑えてほしい。

「……いえ」

考えてみたが、自分の家も、自分の名前もわからない。なぜ俺がここにいるのかさえも。

「うーむ、やっぱり医者が言うように倒れた時に頭うって記憶喪失になったのか」

「……記憶喪失?」

「あぁ。お前、この近くの歩道で倒れてたんだよ。感謝しろ〜あのままだったら干物になってたぞ」

快活な笑い声で俺の背中をバンバンと叩く色黒の男性。
何でこうなったか、よくわからないけど、この人が俺の事を助けてくれたみたいだな。

「ありがとうございます」

ベッドに座ったままの体勢で、深く頭を下げる。

「別にお礼なんて言われる事してねーよ。困った時ってのは助け合うもんだしな。それに俺、どーも感謝とかされっと背中が痒くなっちまうんだよ」

一点の曇りもないような笑顔でそんな事を言う男性を見て、俺はカッコいい人だなと思ってしまった。

「ところでお前、帰る家とかわからないんだろ? 良かったら俺ん家に来るか?」

「えっ?」

唐突な提案に困惑してしまう俺。
しかし、帰る家どころか自分の名前すらわからないのも事実。ここはご厚意にありがたく甘えさせてもらう事にした。

「……ご迷惑でなければ、お願いします」

「ハハッ、迷惑だったら誘わねーから安心しろ。つかそんなに気を遣うな」

竹を割ったような性格ってこういう人の事を言うんだろうな。やっぱりカッコいい人だなこの人。

————

この親切な色黒の男性の名前は、大垣 竜さんというらしい。
身長は俺と同じくらいで、茶髪のツンツン頭に、アロハシャツに短パンという南国チックな格好とあいまって、より快活な印象をうける。

「しかしアレだな。頭の傷自体は大した事なくて良かったよな」

「はい」

頭部というのは人間にとって大事な部分であるし、うちどころが悪かったら最悪のケースもあったかもしれない。

「まっ、今はゆっくり休んどけよ」

そう言って、竜さんと俺は車に乗り込んだ。
竜さんはエンジンをかけると、ギアを入れて車のアクセルを勢いよく踏み込む。車の名前はわからないが、青く流れるようなボディのスポーツタイプの車はグングンと加速していく。

目的地に着くまで、俺は窓から流れる景色をずっと眺めていた。