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空白の時間【桜井 洋一編】 ( No.126 )
日時: 2013/08/20 22:10
名前: ゴマ猫 (ID: diC/OxdM)


竜さんの自宅は意外(と言っては失礼かもしれないが)にもどこにでもありそうな普通の一軒家だった。
とはいえ2階建てだし、1人で住むには広すぎる。さっきのスポーツカーといい、かなりお金持ちの方なんだろうか?
それと気になったのが、家の中に物がほとんど置かれていない事だ。生活感がないというか、必要最低限以外の物はない。

「ハハッ、殺風景な部屋だろ? 仕事で家に居ない事が多いからよ。必要な物以外は置いてねーんだ」

「そうなんですか」

何の仕事してるんだろう? すごく気になるが、聞いていいものかどうかわからない。

「さてと、さっそくだが、俺は出かけてくる。家の中にある物は好きに使ってくれ」

「えっ、ちょっと!?」

「鍵は玄関の靴箱の上に置いてあっから。あっ、外出ても良いけど、迷子になんなよ」

それだけ言い残すと、竜さんは玄関の扉を開けて出ていってしまった。
せわしない人だな。今帰ってきたばかりだというのに……でも、それは助けてもらった俺が言うセリフじゃないか。

「……しかし、どうしようか」

他に同居人とか、ご家族が居る感じではないし、知らない家にひとりというのもなんとなく居心地が悪い。
居候させてもらうわけだし、掃除や料理くらいは俺がやっておこう。

——15分後——

なんとなく掃除は終わったのだが、(物がほとんどないし、散らかってもないので床を拭いて終わった)料理は何を作ったらいいのかわからないな。
というか、料理ってどうやるんだ? 記憶がなくなる前の俺は料理とかできたんだろうか?

「うーん」

考えても仕方ないので、本屋に行って料理本でも見てくるか。
そう思い、俺は玄関を開けて外へ出る事にした。

「あっ……」

とくに何も考えずに外へ出たけど、本屋やスーパーってどこにあるんだ? やっぱり、こういう時は誰かに聞いてみるのが一番か。
俺は近くに居た女の子に尋ねてみる事にした。

「すいませーん。この近くに本屋とかスーパーってありますか?」

「す、すいません。私も初めてここに……さ、桜井……くん」

女の子は心底驚いたような表情で俺を見つめている。
フワフワしたショートカットの黒髪に小柄な体はまるで小動物のような愛らしさがある。 
桜井? 何を言っているんだろう?

「さ……桜井君!! どうして勝手にどっか行っちゃったの!? 本当に……本当に心配したんだから」

女の子は目に涙をいっぱいためて俺に抱きついてきた。
何だ……? この子? ちょっと危ない子なのかな? そう思った俺は女の子を自分の体から引き離す。

「……えっと、初対面ですよね? もしかしたら誰かと間違えてます?」

俺がそう言うと、女の子は涙を流したまま、とても悲しそうな表情に変わった。先ほどは泣いていたけど、どこか安堵感が混じったような表情だったのに。

「……そ、そうですよね。あ、あはは、わ、私ったら勘違いしちゃったみたい」

寂しそうな表情をしながら両手で流れる涙を拭う女の子。その表情が、なんだか気になった俺は何があったのか尋ねてみる事にした。