コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 俺と彼女の距離【10】 ( No.15 )
- 日時: 2013/05/09 00:02
- 名前: ゴマ猫 (ID: QXDbI9Wp)
その日の自宅。
リビングのテーブルには、色とりどりの野菜やおかずが並んでいた。
夕食は必ず家族揃って食べる。
それが家の数少ないルールだったりする。
うちは俺と杏と父さんと母さんで4人家族だ。
食事をしながらの団らんが終わると、俺は部屋に戻った。
「今日もダメだったな」
ベッドに寝っ転がりながら今日の出来事を思い返していた。
どうすれば警戒されずに話せるのだろう?
やっぱり女の子の気持ちは女の子に聞くべきか。
そう思った俺は杏の部屋に行く事にした。
——コンコンコン——
「杏〜。ちょっといいか?」
——ガチャッ——
「なんだ、洋一か。何か用?」
「ちょっと、相談があるんだけど良いか?」
杏は一瞬だけ嫌そうな顔したが、しぶしぶ頷いてくれた。
部屋の中に入ると、アロマの甘い香りがしてきた。
杏は趣味でアロマグッズを色々集めているらしい。
「それで、相談って?」
杏は淡いピンクの座椅子に座りながら、聞いてくる。
俺は適当な場所に座り、相談内容を話しだした。
「なぁ、女の子と仲良くなるにはどうしたら良いんだ?」
「はい? 何でそんな事聞くの?」
杏は、「意味わからないんだけど」っと言わんばかりの顔で俺を見てくる。
「理由は言えないんだけど、ある女の子と仲良くならないと俺、死んでしまうかもしれないんだ」
羊の事は言えない。
というか、言っても信じてもらえないだろうし。
記憶が無くなったら、どうなるか想像もつかないけど、それは俺であって俺じゃないんだと思う。
だが、杏はものすごい勢いでドン引きしていた。
「……洋一。愛が重いよ……」
「いやいや!! 愛とかそういうんじゃなくて、単純に仲良くなりたいっていうか、話せるようになりたいんだよ」
言い方を間違えてしまったみたいだ。
そりゃ、仲良くなれなきゃ死んでしまうとか、相談がヘビー過ぎるよな。
必死に弁明はしたが、杏は終始引いていた。
「ふぅ、どうでも良いけど犯罪的なのはやめてよね」
「そんな事しないから!! 普段の俺を見てればわかるだろ」
杏はうーん、と少し考える仕草した後で小さく頷いた。
「まっ、寝るのが趣味な洋一がそこまでする訳ないか」
「そうだよ。それでどうしたら良いと思う?」
「そうだな〜……まず顔のパーツを全部取り替えて、出身地を変えれば仲良くなれると思うよ」
杏は猛毒を吐いてきた。
それ、全否定じゃん!!
ってか、それもう俺じゃないよね?
「杏……お前が俺の事を嫌いなのは、よーくわかったよ」
俺じゃなかったら、精神的ショック受けて泣いてるよ?
そんな俺を見て、杏は慌ててフォローしてくる。
「いやいや、冗談だって!! そんな真に受けないでよ」
「杏のは、冗談に聞こえないんだよ」
「まぁまぁ。そうだな〜、うーん、仲良くなるのなんてフィーリングだし。こうすれば仲良くなれる!! ってのはないと思うよ?」
まぁ、確かに杏の言う事も一理ある。
人付き合いは、数学のように絶対の正解はないのだ。
だけど、それじゃ問題の解決にはならない。
「何かヒントをくれ」
「よっぽど好きな人なんだね。うーん、月並みだけど相手の気持ちを考える……事かな?」
杏の言葉に少しハッとした。
俺は自分の事ばかり考えていた気がする。
呪いを解くため。俺にとっては確かに大事な事だけど、橘さんはそんな事情は知らないし、関係ない。
親しくもない男がいきなり言い寄ってきたらそれは驚くだろう。
まずは……今までの事を謝る事かな。
「ありがとう。少しわかったかも」
そう言って立ち上がり、部屋を出ようとすると、後ろから声がかかる。
「洋一!! えへへっ、お礼はジュース1本でいいよっ」
まったく抜け目がないやつ。
「覚えてたらな」
そう言って俺は部屋を出た。