コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 帰り道【16】 ( No.23 )
- 日時: 2013/05/18 21:28
- 名前: ゴマ猫 (ID: vysrM5Zy)
「や、やっぱり、ご迷惑ですか?」
「いや、そんな事ないよ。嫌がられると思ってたから驚いただけ」
じゃあ何で言ったんだ? って言われるかもしれないけど、断るだろうって思ってたから仕方ない。
「で、では、お、お願いします」
「う、うん」
ちょっと緊張気味の女の子の声に、つられて声がうわずってしまう。
俺がぎこちなくしゃがむと、背中にあたたかい感覚が伝わってきた。
慣れない事をしてかなり心臓がバクバクだけど……ここは明鏡止水の心でいこう。
「そういえば、名前なんて言うの?」
ウチの制服だから同じ学校だろうけど、さすがに名前くらい聞くのは礼儀かと思い尋ねてみた。
「えっと、1年の、青山 美晴です。……せ、先輩の名前は?」
「先輩じゃないよ、俺も1年生だし。俺は、桜井 洋一」
年上に見られてたのか。
俺が1年だとわかると、彼女の口調がガラリと変わる。
「なんだー。先輩かと思って緊張したよ!! 早く言ってよ洋平くん」
「洋一ね。ってかさっきと全然雰囲気違うね」
声とか、声とか、声が。
おぶってるから表情は見えないけど、マジメそうな声から、活発な明るい声になっていた。
「そりゃ、やっぱり先輩に失礼がないようにね!! 洋介くんがちょっと老け……いや、大人っぽく見えたからさ」
「洋一だから。ワザとでしょ? しかも老けてるとか、ちょっとグサッとくるよソレ」
俺の顔は自分では一般的だと思ってるし、老けてるとかそんな事は言われた事がない。
ってか、青山さんさっきの人と別人なんじゃないの? ってくらい変わりすぎだ。
「ゴメン、ゴメン。えーっと、洋ナシくんだよね?」
「人じゃなくなっちゃったよ……もう、好きに呼んで」
「あははっ、おもしろいなぁ〜洋くんは」
何ていうか、青山さんはとても人懐っこい印象だった。
しかもいきなり下の名前で呼ぶとか外人なの?
「あのー、足痛いんだよね? 全然そんな風に見えないんだけど、良くなったなら降りる?」
「……あ、痛たたっ……これは無理だなぁ……やっぱり家まで送ってもらわないと」
青山さんは、思い出したかのように痛がる。
なんていうウソくささ!!
「…………」
「な、なによ〜? 本当に痛いの。あっ、私の家、羊神社の近くだから」
仕方ない……乗りかかった船だし、最後までちゃんとやるか。
「ところでさ、洋くんってどこに住んでるの?」
「俺も羊神社の近くだよ。あそこから5分くらいのとこ」
黄昏に染まる街を歩きながらそんな会話は続く。
「ふーん、家近いんだ。それじゃさ、羊神社の噂って知ってる?」
「えっ? いやぁ、知らないなぁ」
一瞬その話題にドキッとした。
噂は知らないけど、実物を見た事はあるなんて口が裂けても言えない。
「なんでも、あそこでお願いすると、嫌な夢とか記憶を消してくれるらしいよ」
青山さんは楽しそうに話す。
「嫌な事とか忘れられるって素敵な話しだよね〜」
「……そんな良いものじゃないと思うよ」
青山さんが悪気があって言ったんじゃないのはわかっていたが、俺はちょっと冷たい言い方をしてしまった。
羊のせいで自分の記憶がなくなってしまうかもしれないのだから、安易に「そうだね」とは言えない。
「あっ、あれ? もしかして、私何か気にさわる事言っちゃった?」
「いや、そんな事ないよ。ちょっと羊神社の噂ってどうなんだろって思っただけだから」
慌てて取り繕うが、心に残った負の感情が消えず最後の方が嫌な言い方になってしまった。
「な、なんかゴメン……」
元気だった青山さんの声がシュンとしてしまう。
うっ……なんとかしなきゃマズい。
「いやいや、こっちこそゴメン!! その、そうじゃなくて、羊神社の事が気になるっていうか、噂じゃなくて真実が知りたいっていうか」
かなり明るい声で言ったが、テンパったせいか内容は若干意味不明だ。
だが青山さんは納得したような声を出す。
「おぉー、そうだったんだ。なら私詳しい人知ってるよ?」
「へっ?」