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- 葉田の憂鬱2【番外編】 ( No.27 )
- 日時: 2013/05/25 21:16
- 名前: ゴマ猫 (ID: vysrM5Zy)
ある日の昼休み。
いつものように、購買で買った焼きそばパンを食べていると、突然教室に1人の女の子が慌てて入ってきた。
「はぁっ、はぁっ……だ、誰か手伝って。桜井君が急に倒れちゃったの」
そう言った人物は、橘 菜々 最近、桜井がご執心の女の子だ。
この間は、クラスが見てる中で告白しようとしてたくらいだから相当なのだろう。
……と今はそれどころじゃない。
「桜井が倒れたって?」
「あっ、は、はい!!」
俺が橘さんに話しかけると、彼女はビクッとする。
「それで、桜井はどこに?」
「は、はい!! 屋上です」
なぜか敬語な橘さんを連れて屋上へ向かう事に。
屋上に着くと、桜井はうつ伏せでうずくまるように倒れていた。
「おい、桜井大丈夫か?」
「……うぅっ……」
低い苦しそうな声を出す桜井。
とにかく保健室に連れていくか。
「橘さん、俺が桜井を運ぶから橘さんは先に行って、保健室の先生に連絡して」
「わ、わかりました!!」
そう言って、橘さんは屋上を出て行く。
俺は桜井を抱きかかえると、お姫様抱っこの要領で持ち上げて保健室まで歩く。
男同士でこれは少し恥ずかしいが、緊急時だし仕方ない。
保健室に着くと、扉を開けて橘さんが待っていた。
俺はベッドに桜井を降ろす。
「橘さん、先生は?」
「すいません。扉は開いてたんですけど、先生が見当たらなくて……今、職員室見てきます」
そう言うと橘さんは、保健室をダッシュで出て行く。
俺は椅子に座りながら、桜井の様子を見ていた。
「……うぅっ……ひ……つ……」
とても苦しそうだが、俺は医者ではないので原因がわからない。
外傷ならある程度の事はわかるんだが……。
「……ひ……つ……」
ひつ……?
先程からうわごとのように何かを言っている。
「桜井、大丈夫か?」
「……き……お……く……」
きおく?
何か夢でも見ているのか? だが、けして楽しい夢ではない気がする。
ふと、最近桜井の様子が変な事を思い出した。
物忘れが激しくなったっというか、昨日話した事をまったく覚えてなかったりするのだ。
少し前から感じていた違和感。
その違和感は考えはじめたら大きくなっていった。
桜井は何かを隠している?
苦しそうな桜井の手をそっと握る。
昔、ばぁちゃんが教えてくれた魔法だ。
痛いところに、手をあてると痛くなくなるんだとか。
本当かどうかは知らない。
痛いところはわからなかったので手にしてみた。
別に他意はない。
すると、桜井は少しニヤけた顔になり楽になったみたいだった。
それからしばらくして、桜井が目を覚ました。
「やっと目を覚ましたか」
「…………」
話しかけるが、桜井はギョッとしたような表情で俺を見つめる。
あぁ、手を握っているのが不満だったのかっとすぐ気付いた。
「なんだ? 不満だったのか?」
「……満足だったら、危ない関係になっちゃうだろ?」
それもそうだ。
自分で尋ねておいて、おかしくなってしまう。
それにしても、誰を想像してニヤけてたのやら。
桜井は、すぐさまパッと手を振り払ってくる。
「それより、橘さんは?」
「桜井が倒れたって、慌てて教室に戻ってきて俺がここまで運んだ。橘さん今は保健の先生を呼びに行ってるよ」
まず最初に橘さんの事が気になるなんて相当だな。
大方さっきのニヤニヤも橘さんの事を考えていたのだろう。
「ありがと。助かったよ葉田」
「いや、気にするな。それより体調は平気なのか?」
「あぁ、問題ないよ。ちょっと疲れてたのかもしれない」
桜井は少し困ったような表情でそんな事を言った。
疲労している……という感じには見えないが。
気になった俺は先ほどの疑問をぶつけてみる。
「本当か? 最近の桜井は少し変だぞ?」
「へ、変って何がだよ?」
「違和感があるんだ。ついこの間、話した事をまるで覚えていない」
「それは……ただ、俺が忘れっぽいだけで」
桜井はさっきよりさらに困ったような表情になる。
触れてほしくない事なんだろうか?
だとしたら、あまり踏みこむのは良くないかもしれない。
「まぁ、何かあるなら相談してくれ。微力だが力にはなる」
それだけ言って、後は聞かない事にした。
桜井が本当に困って相談したくなったら言ってくれると思うから、それまで俺は何も聞かない。
聞かない事も優しさの1つだと思う。
その後、良くなったら戻って来いとだけ言って保健室を後にした。
あとでわかった事なんだが、橘さんが俺に敬語で話していた理由は『背が大きくて、なんか怖いから』という事だった。
そんなに怖いのだろうか?
鏡を見てみるが、答えはでなかった。