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おんじぃの助言【19】 ( No.33 )
日時: 2013/06/03 22:32
名前: ゴマ猫 (ID: tHinR.B0)


と思われたが。

「おーい。おんじぃー」

おんじぃと呼ばれる爺さんが、杖を振り上げようとした瞬間に後ろから青山さんの声がかかる。

「……なんじゃ、美晴ちゃんじゃないか」

その声のおかげで杖を振り上げる腕が止まった。

「ダメだよー。話しも聞かないでそんな事しちゃ。ほら、昨日電話で話した羊神社の事知りたい人だよ」

一瞬、考えを巡らした後、おんじぃと呼ばれる爺さんは合点がいった表情に変わった。

「あぁ〜、昨日のか。ホッホッホッ。挙動不審の奴が居るから、わしゃてっきり泥棒だと」

「…………」

ホッホッホッ……じゃねー!!
こっちは、危うく死にかけたよ!?
この爺さん、俺を見てた目がマジだったもん。

「もう〜。しょうがないなぁ、おんじぃは」

青山さんは何事もなかったような笑顔だが、本当に大丈夫なんだろうか?
……色々と。

そんな不安をかかえながら、おんじぃなる爺さんは俺達を家の中に通してくれた。
玄関を通り、案内された所は6畳くらいの和室。
畳のどこか懐かしい匂いがして、木製のシックなテーブルと、和風の座布団が3つ置いてあった。

「まぁ、適当にかけなさい」

おんじぃにそう促されて、俺と青山さんは座布団に腰をおろす。
しばらくして、おんじぃが温かいお茶を持ってきてくれた。
そしてふたたび台所へと消える。

「わはっ、ありがとー。おんじぃ」

「……いただきます」

座布団の上に正座する俺と、足をくずしてリラックスモードの青山さん。
慣れているのもあるんだろうけど、あぐらはやめた方がいいんじゃないか?
そう思った俺は、小声で青山さんに言ってみる。

「青山さん。あぐらはやめた方が……」

「なんで?」

青山さんにキョトンとした表情で聞かれる。

「いや、ホラ、自分家なら良いけど、他の所じゃマズいっていうか、失礼っていうか」

「洋くんはマジメだねぇ〜。そんなにカタいと、モテないよ?」

青山さんは肩をすくめてそんな事を言った。
モテないってのは関係ないだろっとツッコミたかったが、青山さんに言っても、『そんな事より』とか言われて終わるのでやめといた。
そこに、おんじぃが煎餅の入ったお皿を持ってきてくれた。

「こんなものしかないが、遠慮せんで食べてくれ」

「はいはーい。喜んでいただきまーす」

青山さんは明るい声で、煎餅を取り、食べ始める。
俺はそんなに長居するつもりもないので、さっそく話しを切り出す事にした。

「……あの、それで羊神社の事を教えてくれるって話しなんですが」

「おぉ〜、そうじゃった、そうじゃった。すっかり忘れておった」

忘れてたのか……。

「むかーし、昔。ある所に、お爺さんとお婆さんがおったそうな……」

まるで、おとぎ話でも話すかのような語り口調でおんじぃが話し始める。
すでにうさんくさいのは気のせいか?

「お爺さんとお婆さんは、最近悪夢にうなされる事に悩んでおったそうだ。困り果てたお爺さんとお婆さんは、山に住むという、神様にお願いをしにいった」

一応、真剣に聞いている俺と、興味がない表情で煎餅を食べる青山さん。

「そこで、真っ白に光輝く神様に会った。お爺さんとお婆さんは神様になんとかしてほしいとお願いをする。すると、あら不思議、その晩から悪夢を見る事はなくなったそうじゃ……めでたし、めでたし」

「……は?」

あまりに、あっさりした物語に思わず間抜けた声が出てしまう。
しかもアバウト過ぎじゃないのか?
絶対どっかはしょってるよね。

「終わりじゃ」

「えっ……? 本当にそれで終わりですか? もっとこう、詳しい事は」

前のめりになって、おんじぃに問いかける。

「昔話ではそうなっとる。なんでもその神様が、羊に似ておったとかで、祈れば悪い夢や、悪い記憶を消してくれると現代に伝わったみたいじゃな」

おんじぃいわく、原因不明の悪夢に悩まされていたのは、老夫婦だけではなく、この辺りに住む人達のほとんどだったらしい。
そこで山の神様になんとかして下さいっと祈ったところ、羊に似た神様が出てきて、それから悪夢を見なくなった。
以来、この地域の人々は羊を神格化して、羊の像を神社にまつるようになったらしい。

今じゃそんな話しは聞かないし、本当か嘘かわからないけど、もしそうなら、俺が会ったのは神様って事になる。

「ふあ〜。なんか眠くなっちゃったよ」

小さなあくびをしながら気の抜けた声で、青山さんは退屈そうな表情をしていた。

「青山さん……自由人だよね」

「だって、この話し何回も聞いてたからさ〜。さすがにね」

「…………」

何回も聞いてるなら、わざわざ、おんじぃの家に来なくても直接話してくれて良かったのにと思ったが、青山さんだしなぁ〜と納得。
出会って間もないはずだが、既にそんなイメージが固着していた。

「な、なによ? その可哀相な子を見る目は?」

「いや、青山さんは、青山さんだよなぁ〜って思っただけだよ」

俺がそう言うと、青山さんは納得いかないっという表情をする。

「むぅー。洋くんがイジメる」

さらに、むくれた表情になり脇腹をつねってきた。

「痛いっ!! 痛いから」

「洋くんのくせに生意気だぞー」

青山さんは、すげー理不尽だった。
そんな様子を見ていた、おんじぃが小さく笑っていた。