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おんじぃの助言【20】 ( No.34 )
日時: 2013/06/05 17:56
名前: ゴマ猫 (ID: vysrM5Zy)


「仲が良い事は、いいことじゃな」

おんじぃは遠い目で俺達を見つめてそんな事を言ってきた。

「そんなんじゃないですよ」

「へっへー。まぁね」

即座に俺が否定し、青山さんが肯定する。
青山さんは基本的に、誰にたいしてもこんな感じなので、特別に仲が良いという訳ではないと思う。

「あーっ、何よ? こんな美少女と仲良くなれたってのに」

「美少女って……それ、自分で言わない方がいいよ」

青山さんは確かに可愛いと思うけど、自分でそんな事を言ってしまったら台無しだ。

——っと知りたい事はまだあるんだ。
一番の問題は、『羊』というワードを出してどこまで大丈夫なのか? ってとこにある。
前回の橘さんに聞こうとした時のように、うかつに聞いて記憶が全てなくなってしまったら、それこそ本末転倒だ。

それが怖くて、誰にも言ってないのだから。
(まぁ、言っても信じてもらえないだろうってのもあるけど)

ここからはちょっとした賭けになってしまう。
心臓の鼓動が不安で早くなり、言わない方がいいんじゃないか? という気持ちに駆られる。

気分は地雷だらけの場所を歩く感じだ。

「どったの? なんか顔色悪いけど、お腹でも壊した?」

黙り込んでしまった俺を見て、青山さんが少し心配そうな表情で見てくる。

「大丈夫だよ」

そう一言だけ青山さんに言い、意を決しておんじぃに尋ねる。

「あの、羊の事なんですが……過去にって言っても大昔とかじゃなくて、最近の話しで羊に会った事があるって人はいないんですか?」

心臓は爆発寸前だったが、どうやらセーフみたいだ。
激しい頭痛も襲ってこない。

「ふーむ、そういえば1人おったような気がしたな」

おんじぃは白髭を右手でさすりながら、思い出すように話す。

「確か……10年前くらいじゃったか、小さな女の子が、白い羊を見たと言っておってな」

10年前というと、俺が5歳くらいの時の事か。
近所だけどそんな話しは聞いた事がない。

「誰も信じなかったが、その子は言っておったな。羊さんが、お願いをかなえてくれる……とな」

「あの、その子他に何か言ってました? あと、その子の名前とかわかります?」

つい、前のめりになってしまう。

「なんじゃ? 初恋の相手かなんかなのか? わしも神社で偶然会っただけだからの。名前は……西村だったか」

何かの手がかりになるかもって思ったけど、西村なんて名前はありふれているし、とてもじゃないが、手がかりにすらならない。
少し気落ちしたが、次の質問をしてみる事にした。

「その、変な質問なんですけど、その羊の神様って人に呪いとか……かけたりするんですか?」

この質問もかなり危ない橋だったが、どうにかセーフだったみたいだ。

「ホッホッホ。そんな事はせんよ。よっぽど悪い事でもしなければ、バチなどあたらん」

「…………」

よっぽど悪い事したんだな……俺。
今さらだが、あの時の俺何やってんの!? という気持ちになった。

「もし、お前さんが言う呪いにかかったとしても、真摯に謝れば大丈夫じゃ」

おんじぃはおだやかな笑顔で言うが、俺の顔は若干引きつっていた。
真摯という面では、真摯じゃなかったと自分でも思うから。

「はぁ……」

曖昧な表情で返事をする俺を見て、おんじぃはさらに続ける。

「まぁ、何があったのかわからんが、若い時ってのは失敗の連続じゃ。とんとん拍子に上手くいく方が珍しいだろうて」

おんじぃは、俺が何かに悩んでいると思ったのか、励ましてくる。
あえて何に悩んでいるかを聞かないところは優しさだろう。
悩んでいるのは間違いないので、俺も素直に耳を傾けた。

「そうかも……しれませんね」

あの時、神社に行かなければ、あの時、ちゃんと謝れていれば、という後悔の念にさいなまれる。

「ただ、失敗した時に反省はしても、後悔はするな。こりゃ、わしの持論じゃ」

「…………」

「つまり、しっかり反省して次にいかせば良いって事じゃよ。それだけで失敗は大きな意味を持つからの」

俺に次はあるのだろうか?
だけど、おんじぃの言葉は俺の心にストンと落ちて、少し気が楽になった。

「ありがとうございます」

「いやいや、またいつでも来るといい。次回はもう少しマシなお茶菓子を用意しとくからの」

最初の印象からは想像できないくらい、おんじぃはとても優しい人だった。
ちなみに先ほどから静かだった青山さんは、隣りで熟睡モードに入っており、時折小さな寝息をたてている。

「ほら、青山さん帰るよ」

俺が肩のあたりをつかんで揺すると、にやけた顔になり、ブツブツと寝言を言っていた。

「おいてくよー?」

その一言で目を覚ましたが、寝ぼけ眼で駄々をこね始める。

「ねーむいー。歩けないー」

「子供かっ!!」

その後、やっとの事で青山さんを引っ張り出して帰路につくのだった。