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幼い頃の記憶2【橘 菜々編】 ( No.38 )
日時: 2013/06/11 21:01
名前: ゴマ猫 (ID: QXDbI9Wp)


参道を通って、お賽銭箱の所に着くと私はお願いをする事にした。
お金を持ってきてないので、お賽銭は入れられないけれど。

「どうか、お父さんとお母さんが仲直りできますように」

両手を合わせ、目をつぶって祈る。しばらくして目を開けると、賽銭箱の奥の扉が開いている事に気づいた。
何となく気になった私は、靴を脱いで中に入る。

「ここは……」

中は神聖な雰囲気が漂っていて、ところどころ隙間から月明かりが差し込み、夜だというのに明るく感じる。
その中で気になったのが、中央の台座から傾いて横になった羊の像。
さらに不思議だったのは、その羊の像の周りを、青白い光の球がくるくると回っている事。

「なんだろうあれ」

ひとり呟きながら、羊の像に近づく。
すると、青白い光の球が消えた。
こんな状況なら普通は怖いはずなのに、不思議と恐怖もなく、落ち着いている。
なんとなく私は、傾いていた羊の像を直す。台座が低い位置にあった事と、傾いていただけで下に落ちてはいなかったので、子供の私でも直す事ができた。

「これで大丈夫かな。でも、さっきの光はなんだったんだろ?」

その瞬間、目の前に真っ白の羊があらわれた。
何がなんだかわからないまま、その羊を見つめていると、なんと羊が喋りだした。

「……幼子よ。こんな夜更けにどうした? それと、私の体を元に戻してくれた事、礼を言う」

愛らしい見た目とは裏腹に、重々しい声で話す羊。
私は驚きのあまり、問いかけられた質問にこたえる事ができない。
すると、羊は目を瞑って沈黙し、しばらくして目を開き、ふたたび話しはじめる。

「……なるほど。そのような理由か」

「へっ? へっ?」

訳がわからない私は、間抜けた声が出てしまう。

「だが、私にはそなたの願いをかなえる事はできない。つらい記憶や、悪夢なら消してやれるが?」

羊さんのその言葉を聞いて、自分の考えている事を口に出してないのに、わかった事に気づいた。

「す、すごい!! 羊さんって話してないのに私が考えてる事がわかるの!?」

怖いとかそういうのより、素直に凄いと思ってしまった。
だって、そんなのお話しの中でしか聞いた事がなかったから。

「人の心を読むくらい、どうという事はない……それで、どうするのだ? そなたのつらい記憶を消すのか?」

「記憶を消すって、どういう事なの?」

いまいち意味がわからない私は羊さんに尋ねる。

「そなたにわかりやすく言うなら、思い出だろうか。そなたが楽しいと思った事や、悲しいと思った事を覚えているだろう? それが記憶と言うものだ。その中で、そなたが悲しいと思っている部分をなくす……伝わったか?」

「なんとなく」

つまり、お父さんとお母さんがケンカして私が悲しいと思っている事を、悲しくないって思うようにするって事なのかな。
——でもそれじゃ。

「でも、それじゃお父さんとお母さんは仲直りできないって事だよね?」

「……そういう事になるな」

「じゃあ、しなくていい。仲直りできないなら意味ないもん」

私がそう言うと、羊さんは少し困ったような表情になった。(気がする)

「そうか……ならば、そなたが別の何かで困って力が必要になった時、私が必ず助けになろう」

「うん」

「さて、そろそろ人が来る。またいつの日か会おう」

次の瞬間、羊さんは消えて、それからまもなく、外で大きな声が聞こえてきた。

「菜々ーーっ!!」

お母さんの声だった。
私は、急いで外へと走りだす。

「お母さん」

「菜々!!」

お母さんが駆け寄ってきて、私を抱きしめる。

「ごめんね……菜々」

そう言うと、私の肩にお母さんの涙がこぼれ落ちた。


その後、お父さんとお母さんは離婚する事になり、私はお母さんと一緒に暮らす事になった。
名字も、西村から橘へ変わり、家も引っ越す事に。
お父さんと一緒にいたかったけど、お母さんを1人にはできなかった。