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彼女の場合2【橘 菜々編】 ( No.42 )
日時: 2013/06/19 00:33
名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)


暖かな陽光を浴びて、私はひとり屋上のベンチで昼食をとっていた。ここは、春から夏に入るちょっと前くらいまでが、一番すごしやすい気候だ。

つまり、今はちょうど良い。
ただ、日差しが強い日は、紫外線対策をちゃんとしとかないといけないんだけど。

「う〜ん、やっぱり外で食べるお弁当は良いなぁ」

軽く伸びをしながら、そんな事をひとり呟く。
屋上は意外に穴場で、人が少ないしお気に入りの場所だ。

もちろん、クラスの友達とも一緒に食べたいとは思うのだけど、昼休みは、ひとりで居たいなぁ〜という気持ちが勝ってしまって、結局こうなる。
うーん、人嫌いとかじゃないんだけどなぁ。

——ガチャン

「あ、あぁー、た、たまには屋上で、た、食べるのも良いよなー」

その時、屋上の扉が急に開き、感情が入っていないような、棒読み台詞を言いながら誰かが来た。

「うひゃ!! さ、桜井君?」

屋上の入口方向に視線を向けると、そこには桜井君が居た。驚きのあまり、また変な声を出してしまう。
どうしてこう、桜井君は人の不意をつくのが上手いんだろう?

「あ、あれー橘さん。ぐ、偶然だねー。よ、良かったら一緒に昼飯食べない?」

桜井君の声はうわずっていて、棒読みの用意してきたような台詞で、とても偶然とは思えない事は私もわかった。
わかるから、昨日の事に信憑性が増してきてしまう。そんな事を考えただけで物凄く恥ずかしくなってきてしまった。

「え、えっと、わ、私、よ、用事思い出しちゃった!!」

とてもじゃないけど、この状態で一緒に昼食なんて無理だ!!
まともな会話ができない。そう思った瞬間、私は駆け出していた。

「はぁ……はぁ」

教室近くの階段まできたところで一息つく。
最近走ってばっかだなぁ……。

「……桜井君に悪い事しちゃったかな?」

いくらなんでも、こんな露骨に逃げ出したら傷付くよね。
でも、ちゃんと話しを聞く自信がない。

「おっと、菜々発見!!」

ガシッと後ろから肩をつかんできたのは同じクラスの、よっちゃんだ。
席が隣りで、私とも仲が良い。

「よ、よっちゃん」

「ふっふーん。その顔は桜井に何かされたのかな〜?」

よっちゃんは、興味津々といった感じで尋ねてくる。
昨日の件で、私と、桜井君の事は、クラスの中で色々と噂になっていた。もちろん、よっちゃんも例外ではない。

「そんな、まだ何もされてないよ」

「まだ、ね〜」

そう言うと、よっちゃんはニヤリと笑う。

「それは違くて、言葉のあやというか、なんというか」

「まぁ、まぁ〜。あんな熱烈にアプローチされちゃ、ちょっとは心も動くよね〜。桜井、見た目はそんな悪くないし」

よっちゃんは、動揺する私を楽しそうな表情でからかってくる。
私が無言で抗議の目線をやると、よっちゃんは素直に謝る。

「おっと、からかいすぎたみたいだね。ごめん、ごめん。それより、たまには一緒にお昼食べようよ。隣りのクラスに私と仲良い子居るんだけど、その子と一緒にさ」

『他のクラスの、私が知らない人と一緒に昼食をとる』という、よっちゃんのこの提案に、人見知りな性格の私は躊躇してしまう。

「うーん、じゃあ心の準備ができたら」

「いつできるの?」

「……半年くらい?」

その瞬間、よっちゃんのチョップが私の額にヒットした。

「長いよっ!!」

「うぅっ……痛いよ〜」

額をさすりながら、若干、涙目になってしまう私。

その後、次回のお昼は3人で食べる事が約束させられた。
よっちゃんと色々話してたら、うやむやになっちゃったけど、今度ちゃんと桜井君に謝ろう……できたらだけど。