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彼女の場合4【橘 菜々編】 ( No.48 )
日時: 2013/06/21 21:38
名前: ゴマ猫 (ID: ugb3drlO)


「はぁ〜……でも本当に無事で良かった」

——桜井君が屋上で倒れてしまったあの後。
教室に着いて助けを求めると、葉田君が手伝ってくれて、何とか桜井君を保健室に運ぶ事ができた。
桜井君は思いのほか元気そうで安心したけど、本当に大丈夫なのかな?
私は調理部の部活があるから、放課後は桜井君に付き添えなかったけど……。 

「それにしても——話しってなんだったんだろ」

結局、桜井君の話しは聞けずじまいだった。ただ私が想像していたものと違うとなると、とても気になってしまう。
——あと、桜井君ってちょっと抜けてるとこもあって、親しみやすいのも新たな発見だった。
葉田君は背が高くて、ちょっと怖いけど……。

「橘さん!! こげてるわよ!!」

「ひゃう!?」

部長の一言で、調理中のハンバーグが真っ黒になってしまっている事に気づいた。
ちなみに今は部活中であり、調理室で今日のメニューを作っていた。

「か、換気扇、換気扇」

フライパンから煙がもくもくと立ち上っており、私は慌てて火を止めて、換気扇のスイッチを押す。
うぅ……失敗。

「さっきから、ひとりで呟いてたけど、具合でも悪いの? それとも悩み事?」

話しかけてきた人物は、調理部の部長。
私より、2つ上の部長は、とても美人で優しい先輩だ。肩まである綺麗なセミロングの黒髪に、整った顔立ち、背も高いし、まるでモデルさんみたいだ。

「い、いえ、そんなんじゃないんですけど、ちょっと考え事をしてました。すいません!!」

私が深々と頭を下げると、部長は小さく笑った。

「別に咎めるつもりはないのよ。橘さんが、調理中にボーっとするなんて珍しいから気になっただけよ」

まるで気にしてないといった表情で、部長はそう言った。

「まっ、今日はこれくらいにして、帰りなさい。片付けとかは私がやっておくし」

「——でも」

「いいから。部員のメンタル面に気を配るのも、部長の仕事なのよ」

部長にそんな事を言われてしまっては帰るしかない。
私はもう一度深々と頭を下げると、調理室をあとにした。


——数日後——

私はまだ早い朝の教室で、自分の席から、教室の入口で桜井君と、謎の女の子が楽しげな会話をしているのを横目で見ている。

桜井君が倒れてしまってから、なんとなくタイミングが合わないまま、数日が過ぎた。
放課後は、何かと予定が入ってしまう私がいけないのだけれど……いつの間にあんな可愛い子と仲良くなったんだろ?
私より少し背が高く、明るい笑顔が魅力的で、綺麗な黒髪をサイドで纏めている。

「むぅ〜」

変な声と同時に、若干しかめ面になってしまう。まぁ、桜井君が誰と仲良くなっても私には関係ないんだけど。

「おぉー。三角関係とは……桜井もすみには置けないね〜」

「わぁっ!!」

「おっはよ。菜々」

そう言って後ろから声をかけてきたのは、よっちゃんだ。
私の隣りの席で、仲が良い友達でもある。

「驚かせないでよー。心臓止まるかと思ったよ」

「なはは、ごめん、ごめん。にしても、美晴とは……正直意外だわ」

よっちゃんは、興味深そうに桜井君とその女の子を見ている。

「美晴って、よっちゃんあの女の子と知り合いなの?」

「うん。ほら、前に話した私と仲良いって子だよ。って、そういえば菜々お昼の約束……」

「あぁ〜っと……それより、ほら、美晴さんってどんな人なの?」

ヤブヘビになりそうだったので、話しを強引に変える。
よっちゃんは、やれやれと言いながらも話しだす。

「美晴は、私と性格が似ていてさ。結構、自由人ていうか、話していて楽なんだよね」

「ふーん」

よっちゃんいわく、裏表がない人物で、話しも合うし、付き合いやすいんだとか。

「まぁ、菜々が気になってるのは、そこじゃないよね?」

「へっ?」

「美晴が、桜井の事好きかどうかってのが気になってるんでしょ?」

よっちゃんは、胸をはってどこか得意気だ。

「べ、別に、そんなんじゃないよ」

少し不満をこめてそう言うが、よっちゃんはまったく意に介さない。
むしろ、この状況を楽しんでる感じだ。

「隠さない、隠さない。今度、美晴に聞いといてあげるからさ」

パチッと目配せをして、よっちゃんは自分の席についた。
美晴さんは、桜井君の事を下の名前で呼んでるみたいだし……そんなに親密なんだろうか?
途中で葉田君とも何か話してたみたいだけど。
なぜだかわからないが、胸がモヤモヤしている自分がいる。

ずっと、見ていたせいか、美晴さんと話しおえて席に戻った桜井君と目が合ってしまった。

すると、桜井君が小さく手を振ってきたのだが、とっさに私は顔をそむけて無視をしてしまう。

また話せなかったと後悔するのは桜井君が帰ってからの事だった。