コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

デート【26】 ( No.64 )
日時: 2013/07/04 19:28
名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)

何事も事前の準備というか、入念な下調べが大事という事が痛いほどわかった。
——こんなに時間がかかるなら、近場でも良かった気もする。

バスに揺られる事1時間、ようやく目的地に着いた時には、もうお昼近くになっていた。

「橘さん大丈夫? もし、お腹減ってるなら、先にお昼にしようか?」

バスを降りて、テーマパークに向かう途中、橘さんに聞いてみる。

「うん。私は全然大丈夫だよ。でも、桜井君がお腹減ってるなら、お昼にする?」

下から覗き込むような上目づかいに、思わずドキッとしてしまう。

橘さんと俺は身長差があるので、普通にしててもそうなってしまう。
ちょうど俺の胸くらいに、橘さんの頭がくる感じだろうか? 俺より背が高い葉田なら、もっと差が出ると思う。

「桜井君? どうかした?」

橘さんの顔をジッと見つめたまま、黙ってしまっていたため、心配そうな顔で問いかけられてしまった。

「いや、何でもないよ!! じゃあ、とりあえずもう少ししたら、お昼にしよう」

俺は慌てて顔を背け、ごまかす。
——でも、橘さんも最初より緊張が解けたみたいで良かった。そんな事を思いながら歩いてると、テーマパークの入口に着いていた。

「いらっしゃーい」

やけにフレンドリーな受付のお兄さんが、チケット売り場の小窓から声をかけてくる。

「えーっと、大人2枚お願いします」

窓越しに俺がそう言うと、お兄さんは満面の笑顔で、「はいはーい」と返事をする。
お金を払い、チケットを受け取る。

「さ、桜井君。私の分」

橘さんが、自分の分の料金を財布から出して、俺に渡そうとしてきた。

「いやいや、ここは俺にかっこつけさせてよ。せっかく2人で遊びにきたんだし」

なんていうか、デートでワリカンって、カッコ悪いと思ってしまうのは俺だけだろうか? ……いやまぁ、女の子と2人で遊びにくるなんて初めてだし、その考えが正しいかわからないんだけどさ。

「——でも、悪いよ」

橘さんは申し訳なさそうにそう言って、表情が曇る。

「えっと、じゃあ、今度来た時、橘さんに出してもらうから」

「……今度?」

「うん。今度」

橘さんは少し考えた後、恥ずかしそうに、「わかった」と了承してくれた。
もちろん次回来れるか、わからないし、来ても俺が出すつもりだけど、橘さんが気を遣う事がなくなるなら、そんな嘘もありかなって思った。

ようやくゲートの入口をくぐり、全体を見渡すと、様々なアトラクション施設が見えた。多分下手な遊園地よりよっぽど凄いかもしれない。
人も意外にたくさん居るし。

入口近くには、大きな花壇があり、その中に綺麗な花が咲き乱れている。(花の名前はわからないが)少し前に進んだ所には青々とした芝生が敷き詰められて、設置されたベンチで休憩できるスポットもある。

「わぁ〜、すっごい広いね」

目を輝かせて喜ぶ橘さん。橘さんのこんな表情が見れただけでも来て良かったかもしれない。

「なんでも、このパーク内の広さは国内でも1、2を争うらしいよ」

「そうなんだ〜。1日じゃまわりきれないね」

閉まるのが20時なので、今の時間からじゃおそらく、というか、絶対まわりきれないだろう。

それでも、主要なアトラクションをおさえておけば大丈夫だと思う。
ここで有名なのは、急角度から落下するコースター系の乗り物と、自然にかこまれて、青空を見ながらのバンジージャンプ、超高度から落下するフリーフォール……って、絶叫系が多いな。
後は、新作『廃屋』をテーマにしたホラーハウスか。——橘さん大丈夫かな? イメージだと全部苦手そうな感じがするんだけど。パーク内の案内が書いてある小冊子を見ながら考える。

「橘さん、絶叫系とか大丈夫? ここ、そういうのが人気みたいなんだけど」

「ぜ、絶叫系?」

俺が尋ねると、橘さんが少し硬直したような、引きつった表情になる。

「も、もしかして、苦手だったりする?」

「ぜ、ぜ、全然大丈夫!! う、うん!!」

「…………」

あまり大丈夫そうには見えないけど……。
とりあえず俺達は最初のアトラクションに向かう事にした。