コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

デート【27】 ( No.67 )
日時: 2013/07/05 22:31
名前: ゴマ猫 (ID: S9l7KOjJ)


「最後尾こちらでーす」

案内役の係員さんが、看板を持ちながら誘導してくる。
俺達が最初に乗るアトラクションは、急角度からの落下が人気のコースター、『オンソク』だ。
スピード感もさることながら、何度も落下する感じが、やみつきになるんだとか。

「いやー、こういうの乗るの久しぶりだな」

視線の先で、くるくると高速で回っては急上昇、急降下するコースターを見つめながらそんな事を呟いてみる。

「さ、桜井君は、こういうの得意なの?」

「そうだな〜、得意って訳じゃないけど、苦手ではないよ」

でも遊園地とかに行ったら、こういうコースター系のアトラクションに乗らないと、ほとんど乗るものがない気もする。

「そ、そっかぁ……やっぱり定番だもんね」

やはり、絶叫系は苦手なのだろう。橘さんの表情が先ほどから暗い。

「やっぱりやめとく? 別にこれに乗らなきゃダメって訳じゃないしさ」

「う、ううん!! せっかく来たんだし、乗らないともったいないよ!!」

「そ、そう?」

やけに力強く言われてしまったため、俺もそれ以上は言えなかった。
しばらくすると、俺達の順番がやってきた。

「どうぞー」

係員のお姉さんが、手でジェスチャーをして、俺達と、後ろに並んでいる人達を呼ぶ。

「一番前か……」

先頭はかなり怖い。橘さんの事を考えると、真ん中あたりか、後ろが良かったけど。

「橘さん、ダメだったら——」

「さ、桜井くーん……」

——ダメだった。
橘さんはすでに半泣き状態で、このまま乗ったら、今日1日立ち直れない気がする。
ここは、やめといた方がよさそうだ。
そう判断して、俺は係員のお姉さんのところへ行く。

「すいません。彼女、気分悪くなっちゃったみたいで」

俺がそれだけ言うと、係員のお姉さんに通じたようで、近くにある休憩所の場所を教えてくれた。一言お礼を言って、橘さんのところへと戻る。

「さっ、ちょっと休もうか」

「へっ? でも、これ……」

「大丈夫。ちゃんと事情は話したから」

俺は手招きして、橘さんを呼び、来た道を戻った。
——ちょっと思ったんだが、あの係員のお姉さんに『彼女』なんて言っちゃったけど、俺と橘さんは付き合ってないわけで……どう言うのが正しかったんだろう? 『連れ』とかか? 違う気がするな。

「桜井君」

「へっ?」

そんな事を考えていると、橘さんに不意に話しかけられて、間抜けた声で返事をしてしまった。

「ご、ごめんね。せっかく乗れるところだったのに……」

橘さんは少し俯きながら、胸の前で両手をキュッと握りしめている。

「いいって、橘さんが楽しんでくれないと、俺も楽しくないんだからさ」

これは本音だ。
橘さんが暗い顔してたら俺も楽しくないし、せっかく来たんだから一緒に楽しめなきゃ意味がないと思う。
俺がそう言うと、橘さんの表情が少し緩んだ。

「桜井君……優しいね」

「そ、そうかな?」


「うん。優しいよ」

なんとなく気恥ずかしくなって、橘さんと目が合わせられない。今日何度目だろう?

「橘さんが大丈夫そうなアトラクションってある?」

入口でもらった総合案内が書いてある小冊子を橘さんに見せる。
こうして恥ずかしさを、ごまかしてしまうのも何度目だろう?

「えっと、ここ行ってみたいかも」

そう言って橘さんが指差した場所は————