コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

デート【29】 ( No.74 )
日時: 2013/07/09 19:24
名前: ゴマ猫 (ID: 7ZYwzC8K)


「いやぁ、あの占いズバズバ当たるよな。もうビックリだ」

「お兄ちゃんの、普段の生活態度まで当たってたもんね」

そう言って、男は隣りを歩く女の子に語りかける。
ナチュラルヘアの黒髪に、身長は高い訳でもなく、低い訳でもない。
多分、年齢も俺と同じくらいだろう。
女の子の方は、橘さんと同じくらい小柄で、綺麗なボブの黒髪に、無邪気な笑顔が印象的だ。
『お兄ちゃん』って事は、兄妹か。
兄妹で出かけるとか……うちでは考えられない光景だな。

「悪い、俺ちょっとトイレ行ってくる。その辺で待っててくれ」

「うん。迷子にならないでよ?」

「ははっ、気をつける」

笑うと驚くほど爽やかなその人物は、そう言うとひとり歩き出す。
女の子は、その姿を見送ると、俺の座っているベンチにやってきた。

「隣り良いですか?」

「……どうぞ」

俺は少しぶっきらぼうな対応をした後、ベンチの端による。
女の子は「ありがとうございます」と一礼した後、少し距離をあけてちょこんと座った。

この微妙な距離と、沈黙がつらい。
しばらく沈黙したあと、その女の子が、話しかけてきた。

「誰か待ってるんですか?」

「うん。一緒に来てる人が、急にどっか行っちゃって、今待ってるんだ」

「友達ですか?」

「えっと、何て言えばいいんだろ……」

説明が難しい。

でもそうか……よく考えたら、俺と橘さんって、『仲の良い同級生の友達』なんだよな。
ちょっと舞い上がってたかな? 占いの時も思ったけど、自意識過剰はよくないよな。

「わかった!! 好きな人ですね!!」

「——なっ!?」

頭の中で、そう納得しようとした時、いきなりそんな事を言われて、驚きのあまり言葉がつまる。

「あははっ、わかりやすいです」

俺の顔を見ながら、悪戯っぽい表情で女の子は笑う。
……もしかして、からかわれてる?

「なんだか、お兄ちゃんに似てますね」

「お兄ちゃんって、さっきの男の人?」

俺が問いかけると、女の子はゆっくり頷く。

「はい。お兄ちゃんったら、やっと付き合えた彼女が、その日に転校しちゃって。それからずっと元気なくて……今日無理言って連れ出してきちゃったんです」

「はぁ……そうなんだ」

なんとも不運な話しだ。ちょっとそのお兄さんに同情してしまった。
しかし……できた妹さんだな。
うちの杏なら、こんな事は口が裂けても言わないし、思わないだろう。最近は少し態度が軟化してきた気もするけど、まだまだ鬱陶しく思われていると思う。

「おーーい。優子〜!!」

その声に気づき、視線を声の先にむけると、少し離れた場所から、先ほどの人物がこちらに手を振っている。

「あっ、戻ってきたみたい。それじゃ失礼しますね」

女の子は立ち上がって、一礼すると、先ほどの人物『兄』のもとへ走っていった。
……なんだか、天然記念物を見た気分だ。

——にしても、橘さんどこ行ったんだ?
まさか迷子とかになってないよな?
携帯を取り出して、連絡をしようとしたが、重大な事実に気づく。

「……しまった。番号もアドレスも知らない」

学校で待ち合わせの時間やら、なんやら全部決めていたから、肝心の連絡先を聞くのを忘れてしまっていた。
なんたる凡ミス。

「……とりあえず、この辺りをちょっと探してみるか」

橘さんには「待ってて」と言われたけど、さすがに気になる。すれ違いにならない程度の範囲なら大丈夫だろう。
そう思い、俺は橘さんが駆け出していった方向へ歩き出した。


——見つけた。
探しはじめてから数分後。橘さんは占いの館から少し離れた所にある『幸運のアクセサリー』という、ちょっと怪しいお店で何かを買っている。

「橘さん」

「ひゃう!!」

俺が近くまで行き声をかけると、橘さんは慌てて自分の後ろにお店で買ったであろう『何か』を隠した。

「あんまり戻って来ないから心配したよ。お土産?」

「え、えぇっと、そ、そんなとこかな」

橘さんは、やけにうわずった声で、目も泳いでいる。
あんまり見られたくなかったのかな? だとしたら、これ以上はつっこむのはやめておこう。

「でも、無事で良かったよ。買い終わったなら行く?」

「う、うん。待たせちゃってごめんね」

「全然平気だよ。じゃあそろそろお昼にしようか」

「うん!!」