コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

デート【30】 ( No.75 )
日時: 2013/07/10 22:24
名前: ゴマ猫 (ID: ugb3drlO)


軽めの昼食を済ませると、再びパーク内を2人でまわる。その後、気になったアトラクションをいくつか乗ると、すでに夕方になっていた。

「橘さん」

「うん? なにかな?」

結構、色々乗れたし大分満足ではあるんだけど、最後に、ここに来るキッカケになった『あのアトラクション』に行ってみようかと思い、一応聞いてみる事にした。

「もし良かったらなんだけど、1つ行ってみたい所があって」

「うん、もちろん良いよ。どこかな?」

「新しくオープンしたアトラクションらしくて……ホラーハウスなんだ」

その瞬間、時が止まった。橘さんは笑顔のまま硬直してしまい、徐々に引きつった顔になる。

「……ホラーハウスって、ゆ、幽霊とかが出てくるやつ?」

「そう……だね。もちろん、無理はしないでいいんだ!!」

表情が曇っていく橘さんを見て、俺は慌ててそう言う。
橘さんやっぱり、ホラー系苦手なんだな。厳密に言うと、アトラクションだから本物の幽霊ではないんだけど。

「……だ、大丈夫。う、うん。行こう」

そう言って、橘さんは小さく頷く。
確かコースターに乗ろうって言った時もこんな感じだったな。

「む、無理してない? 別に行かなくても大丈夫だよ」

「……さ、桜井君が、そばに居てくれれば、大丈夫……だと思う」

俯きながら呟くように、話す橘さんを見ていると、顔が熱くなると同時に、なんだか嬉しくなってしまう。

「そう? じ、じゃあ、行こうか」

————

しばらく歩くと、俺達はホラーハウスに到着した。

古びた洋館をイメージして建てられてるみたいで、外壁に絡まったツタや、新しくできたはずなのに、まるで何十年も前からそこにあったかのような朽ちた感じが、不気味さを演出している。
外から見ると、3階建てぐらいの建物のようだけど、内部がどうなっているかはわからない。

「さ、桜井君。これ」

「うん?」

ホラーハウスの入口で、橘さんが小さな紙袋からストラップを出し、俺に渡してきた。よく見るとストラップの先に、麻で作られた羊の人形がついている。

「ほ、本当はもう少し後で渡そうと思ったんだけど……桜井君、占いの結果で少し落ち込んでたでしょ?」

「そ、そう見えた?」

上手くごまかしたつもりだったんだけど、見抜かれてたんだ。

「うん。占いの館を出たあと、桜井君に内緒で買っておこうって思ったんだけど……どれにしようか悩んでたら、時間かかっちゃって」

——そうだったのか。
急に居なくなった理由はそれだったんだ。
橘さん優しいな。わざわざ俺の心配してくれて、元気づけようと、これを買いにいってくれたのか。

「……ありがとう」

「ううん。あっ、魔除けの効果もあるんだよそれ。ホラーハウスに入るなら、つけた方が良いよね」

そう言うと橘さんは、色違いの羊ストラップを出して俺に見せてくる。
——魔除けって……アトラクションだから、ここは大丈夫な気もするけど。

「……ホラーハウスって言っても、本物の幽霊は出てこないと思うよ?」

「わ、わかってるけど、もし出てきたら怖いもん」

俺がツッコミを入れると、橘さんは頬をふくらませて少し拗ねてしまった。

……ん? このストラップって、もしかしてお揃い?
そんな事を思いながら、俺達はホラーハウスに入るのだった。