コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- デート【31】 ( No.78 )
- 日時: 2013/07/12 17:08
- 名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)
木製の厚みがある重い扉を開き、ホラーハウスに足を踏み入れると、中は薄暗い闇につつまれていた。
等間隔に配置された、ろうそくの灯りで足元と、少し先がやっと見えるくらいだ。
「く……暗いね」
すでに橘さんは入口から足が動かないらしく、なかなか前に進む事ができずにいた。
「明るいと雰囲気出ないからね……大丈夫だよ。アトラクションなんだし」
俺は、なだめながら前に進むように促す。
どっかで聞いた話しだけど、幽霊とかを怖がるのはイギリスなんかじゃ珍しいらしい。
むこうじゃ、悪魔とかの方が怖いんだとか言ってたな。
どっちもどっちな気がするのは俺だけかな。
「さ、桜井君は、落ち着いてるね」
「まぁ、いくら怖いっていっても、アトラクションだしね」
くどいようだけど、『アトラクションだから本物の幽霊は出ない』という事を、それとなく橘さんに言う。
さっきの魔除けのストラップといい、どうも本物も出るんじゃないか? と思ってるような気がするからだ。
俺から言わせれば、下手な幽霊なんかより、あの『羊』の方がよっぽど怖いと思う。呪いをかけて、勝手に人の記憶とか消してくし……。
俺達は、ろうそくの灯りを頼りに、少しずつだが歩を進めていく。
しばらく歩いていると、つきあたりの場所に、3つの扉が見えた。
「なんだ? お好きな部屋にお入り下さいって書いてあるね」
3つならんだ扉の上に、銀色のプレートが打ちつけられている。俺はそのプレートに書かれている事を読み上げる。
「……や、やっぱりここは真ん中かな?」
不安げな表情で橘さんは問いかけてくる。
俺は頷くと、ドアノブに手をかけてゆっくりとノブをまわし、部屋の中に入る。
「……ずいぶん散らかってるね」
部屋の内部は、奥行きがあり、かなり広いのだが、本やら、服やら、様々な物が床に散乱している。まるで、空き巣にでも入られた後のようだ。
「不気味な雰囲気ではあるよね。とりあえず、お邪魔しますっと」
床に散らかった物を踏まないように気をつけながら歩いていると、どこからか変な声が聞こえてきた。
『……いらっしゃ……い……』
「橘さん、何か言った?」
俺は橘さんに問いかけるが、ぶるぶると首を横に振り、「何も言ってないよ」と言ってきた。
——気のせいかな?
しばらく部屋を探索したが、どうやらここには何もないようだ。
「出口もないみたいだし、この部屋はハズレだったのかな? もとに戻ってみようか?」
「そ、そうだね。あんまり長居はしたくないし……」
アトラクションのはずなのに、今だに驚く所や、絶叫スポットがない。
普通、入って2〜3分ぐらいすれば、そういうポイントがあっておかしくないはずなのに。
「うん。戻ってみるか」
考えもそこそこに、部屋の入口に戻り、ドアノブに手をかけて扉を開けようとした、その瞬間——
『帰るな!!』
突然、大きな声が部屋中に響き渡った。
「うわっ!!」
「きゃあっ!!」
思わず体がビクッと反応するぐらい驚いてしまった。
——ん? なんだか、右手にやわらかな感覚がある。ふと隣りを見ると、橘さんが驚きのあまり座りこんだまま、俺の右手を握っていた。
「た、橘さん?」
「さ、桜井君……どうしよ……こ、腰が抜けちゃったよ……」
「へっ?」
——————
「……お、重くない?」
「全然。むしろ軽すぎるくらいだよ」
俺は、腰を抜かして立てなくなってしまった橘さんをおぶりながら、係員さんに案内され出口へと向かっていた。
係員さんに聞いてわかったのだが、あのアトラクションは、迷路と、謎解き、ホラーが組み合わさったものらしい。
システムをいまいち理解してなかった俺達は、散々迷ったあげく、各所にあった『緊急ボタン』を押して、係員さんに助けてもらった。
さすがに、橘さんをおぶりながら迷路と謎解きは厳しいし、それに結構ギブアップする人も多いらしい。
「ここを、まっすぐ行けば出口でございます。まだまだ楽しんでいってくださいね!!」
「ありがとうございました」
係員さんに軽く頭を下げてホラーハウスから外に出ると、さっきまで良い天気だった空に、真っ黒な雲が広がっていた。