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日常の変化【37】 ( No.97 )
日時: 2013/07/30 18:33
名前: ゴマ猫 (ID: 7ZYwzC8K)


「橘さん!!」

勢いよく屋上の扉を開けようとするが、ここに俺を連れてきた女の子に手を掴まれて止められた。

「ダメだって、洋くん!! 今出てったらバレちゃうでしょ」

「放してくれ。橘さんが困ってるんだ」

女の子は、はぁっとため息をつくと俺の手を掴んだまま『やれやれ』といった表情になる。

「あのね、本当にヤバイと思ったら私も止めに入るけど、まだ大丈夫だよ」

何がまだ大丈夫なんだ? そんなのわからないじゃないか。そんな俺の訝しむような表情を見て女の子はクスッと小さく笑った。
……いやいや、笑い事じゃないのだが。

「本当に好きなんだね。でもだからこそ、本音を聞けるチャンスだと思うんだけどなぁ」

「悪いけど、盗み聞きの趣味はないから」

そう言ってドアノブに手をやろうとすると、女の子は俺の足をおもいっきり踏みつけた。

「——っ!! な、なにするんだ!!」

「しっ!! 今重要なところだから静かにして」

……色々言いたい事はあるのだが、何から言おうか迷っていると、また扉の奥から声が聞こえてきた。ここから聞こえるということはかなり扉の近くで話しているのだろうか。

「じゃあさ、好きな奴とか居るの?」

相手の男が橘さんに尋ねているようだ。

「…………うん」

しばらくの沈黙の後、かすかにだがそう聞こえた。橘さんの好きな人……一体誰なんだろう?

「なるほど。でもまぁ、まだ付き合ってる訳じゃないし、俺にもチャンスはありそうだね」

男は軽い口調で、まるで気にしてないといった感じだった。

「そ、それは……」

「おっと、そろそろ戻らなきゃ昼飯抜きになっちまう。じゃ、またね橘さん」

橘さんの言葉にかぶせるようにして男はそう言った。
——ん? 出入り口はここしかないんだから、ここに居たらマズくないか?

「洋くん、こっち!!」

「って、おい」

手を引っ張られて、近くにあった掃除用具入れの中に無理やり押し込まれる。そして、すぐに女の子も入ってきた。
ってか、こんな狭いところに2人も入るなんてムチャだ。

「うーん、さすがに狭いね。ちょーっと我慢してよ」

女の子は小声で呟く。
お互いにかなり密着していて本当ならドキドキ展開なのだろうけど、得体の知れない相手(俺が忘れてしまっているだけなんだが)のせいか、そんな雰囲気にはならない。

「…………」

俺と君はどんな関係なの? という問いかけの言葉をギリギリのところで止める。
いけない、いけない。そんな事を尋ねたら怪しまれてしまう。
少しして、屋上の扉が開く音がした。やや低くめな男の独り言が聞こえる。

「橘さん……さて、どうやって俺に好意を向けさせるか……やはり、好きな奴とやらを潰しておくのが一番かな」

意味深な、それでいて穏やかではない言葉を呟いていた。