コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 日常の変化【38】 ( No.98 )
- 日時: 2013/08/06 17:33
- 名前: ゴマ猫 (ID: 7ZYwzC8K)
「ぷはーっ、狭かったぁ」
2人が居なくなったのを見計らって、掃除用具入れからやっと外に出る事ができた俺達。
「…………」
「どったの? 難しい顔しちゃってさ」
「いや、相手の男あまり良い感じの奴じゃないなって思ってさ」
なんか物騒な事言ってたし、放っておいたら橘さんが危ない目にあうんじゃないか?
「なーんだ。私はてっきり、こんな可愛い美少女と狭い空間に居たからドキドキが止まらないのかと思ったよ」
「……それ、自分で言わない方が良いと思うよ」
なんか前にもこんな事を言った気がする。
——にしても、橘さんの好きな人って誰なんだろうか。
————
空が茜色に染まる頃、俺は人気のない校舎裏に来ていた。
「お前が桜井か。ふーん、思ったよりパッとしない奴だな」
背がやや高く、長めの茶色い髪を後ろで纏めた、ガラの悪そうな男子は俺にそう言う。着崩した制服や、やけに細い眉毛など……言っちゃなんだが、全然似合ってない。
「こんな所に呼び出して、何か用なのか?」
「ふふん。用がなきゃ呼び出す訳ないだろ? 俺は意味もなくこんな所で野郎と話す趣味はないしな」
男は薄笑いをしながら、俺に近づいてくる。
「ハッキリ言おう。橘 菜々から離れろ」
一瞬、何の事かとつまりながらも、今日の昼間の出来事を思い出した。
こいつが今日、橘さんに告白してた相手か。
「断る」
見ず知らずの奴にそんな事を言われて、『はい、わかりました』なんて言える訳がない。
「やれやれ……お前のために言ってるんだけどねぇ。どうしても無理か?」
「当たり前だ」
問われるまでもなく無理だ。「なら仕方ない」と言って男は目を閉じると、いきなり男の蹴りが俺の脇腹に思いっきり当たり、一瞬息が止まりそうになった俺はうずくまる。
うずくまりしゃがんでいる状態から、さらに俺の顔面に蹴りが入る。蹴られた反動で横に転がりながら、仰向けの状態になった。
「……ゴホッ……」
「んん〜。早いとこ諦めるって言った方がいいぞ? 怪我しない内にな」
薄笑いをしながら、男は上から俺を見下ろしてくる。
——ぐっ、不意打ちとはいえ、情けない……こんな奴に。
「もうやめて!!」
叫ぶような声とともに、橘さんが走ってきて、俺をかばうように間に入った。
「桜井君に何か恨みでもあるの!? 暴力なんて最低だよ!!」
橘さんは声を荒げてそんな事を言う。
だが、男は動じない。
「嫌だなぁ。俺は君を守っただけだよ? こいつは君を利用しようとしてるんだ。そんな奴、何するかわかったもんじゃないだろ?」
男はでっち上げの嘘を、さも本当の事のように話す。
「桜井君はそんな人じゃない!! あなたなんかより、ずっとずっと誠実なんだから!!」
橘さんの言葉に男はカチンときたのか、口調がガラリと変わる。
「この、下手に出てれば……調子のってんじゃねーぞ」
——マズイ!! 橘さんを助けなきゃ!!
男が拳を振り上げようたしたその時、後ろから誰かが男の手首を掴んだ。
「……調子にのってるのはお前だ」
それは、今日の朝に出会った俺と親しいと思われる人物だった。
「——は、葉田。何でお前が!?」
男は驚きの表情でそう言うと、『葉田』なる人物を見ている。
「……三山。お前が俺の友達を傷つけようとするなら、いくら部活の仲間でも容赦はしない」
葉田がそう言うと、三山なる男の手首を力一杯握りしめ、絞り上げていく。
「い、いててて!! よせって!! わ、わかった。もう帰るから!!」
葉田が三山から手を放すと、三山は逃げるように走り去っていった。
「……ふぅ、大丈夫か? 2人とも」
「……た、助かったよ〜……」
橘さんは腰が抜けたように、その場で座り込む。葉田は俺の所へやってくると、手を差し出した。
「らしくないな。桜井なら、大丈夫だと思ってたんだが」
差し出しされた手を掴み起きあがる。
「…………」
返す言葉もない。
不意打ちとはいえ、葉田が来てくれなければ、橘さんを危険な目に合わせるところだったのだから。
「さ、桜井君は……」
すかさず、橘さんが違うと言おうとするが、葉田がそれを制する。
「わかってる、大丈夫だ」
今の『わかってる、大丈夫だ』には色々な意味が込められてる気がした。葉田は表情を変えずに橘さんにそう言うと、俺の方に向き直り、肩に手を置く。
「とりあえず、保健室だな。鼻血出てるぞ」
「——!?」
慌てて鼻を触ると、べっとりと血がついてきた。