コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ロイ〜ケダモノと呼ばれた少年〜 ( No.90 )
日時: 2013/07/04 22:17
名前: ぴんくのうさぎ ◆v8I1Bhr5SU (ID: 6U1pqX0Z)

お知らせ通り、作者がただ単に行事系の話は絶対書く!!という変な思いがあったせいでこの話ができました。本当に単純ですみません((泣 (参照>>79)

ちなみに、七夕とかそういうのってロイたちの世界にあるの、って思う方もいるかとは思いますが、とりあえずある、ということでよろしくお願いしますw

尚、お知らせ通り、これはまだロイの母親とロイが共に暮らしていた頃の話です。
話は二つあって、当日と、それより前の日のと二つです。

今回は後者の方です。ではどうぞ☆≡。゜.
(ちなみにこれは、2013/7/4に投稿したものです)

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特別行事企画 「七夕準備」


ある日の夜。一人の少年が、2階の自室にあるカレンダーの前で唸っていた。

「…………今日を入れてあと3日、かぁ…………」

シンプルなデザインのカレンダーの上を指でゆっくりとなぞっていく少年。行き着く先は7月7日、七夕だ。
右手にペン、左手に長方形の形をした紙を持っていて、おそらく左手に持っているのは短冊だろう。

「…………。あーっ、思いつかない!!」

投げやりに叫んで、ベッドに身を投げ出す少年。ただし、紙が破れないように気をつけながらだが。

「……うーん、どうしようかな……。」

何も書かれていない、真っ白な紙を掲げる少年。カサリ、と紙が鳴った。
……実は彼は今、とてつもなく焦っていた(らしい)。
さっきも書いたように、3日後は七夕。なのに、少年の短冊には何も記入されていない。
つまり……願い事がまだ思いついていないのだった。……欲がないというかなんというか。

「ロイー!ご飯できましたよー!」

すると、誰かが下から少年を呼んだ。それに応えるロイと呼ばれた少年。

「うん、今行くよー」

短冊とペンを机の上に置き、部屋を出る。そして階段をとてとてと降りてリビングに向かった。




「じゃーん。今夜はカレーですよ♪」

少年がリビングに着くと、金髪サラサラロングヘアーの女性が、カレーを持って来て笑顔で言った。

「……え?」

すると、少年の頬を、冷や汗がつたう。

「ね、ねぇ、僕、カレーはあまり好きじゃないって……」
「まぁまぁ、いいじゃないですか、たまには!」
「……え、で、でも……」

まだ反論しようとしたロイだが、女性から黒いオーラが滲み出ていることに気づき、言うのをやめた。
ロイは仕方なく席に着いて、スプーンを手に取る。それを見て、女性も椅子に座った。

「それじゃ、いただきます!!」
「…………いただき……ます……」

カチャカチャとスプーンと皿が当たる音が響く。恐る恐るスプーンを口に運ぶロイ。……そして……。

ぱく。

「ゲホォッッ!!!か、辛ッッッ!!!!!」

一口目を口に入れた次の瞬間、ものすごい勢いでむせるロイ。一方、涼しい顔で食べ続ける女性。

「お、お母さん、このカレー、辛すぎ……!!ゲホッ、ゲホッ」

涙目になりながら上目づかいで女性の方を見るロイ。

「……え、そんなに辛い?私は普通ですけど……」

ロイと対照的に、美味しそうに食べる女性。

「……うう……。だからカレーは好きじゃないって言ったのに……ゲホッ、ゲホッ」

……そう、ロイがカレーを嫌いなのはその辛さゆえだった。ロイは、まぁ普通のお店で出されるような辛さは平気なのである。しかし、さきほどからパクパクと食べ続けている女性……ロイ曰く『お母さん』は、甘党ならぬ辛党で、辛いものが大好きなのであった。

「……お母さん、聞いておくけど……唐辛子とか、そう言う辛いのって、このカレーにどれくらい入ってるの……?」
「……うーん。辛いの、って言うか……。とりあえず冷蔵庫に入っていた唐辛子の半分は入れましたね。それとタバスコ1瓶全部。私的にはまだ足りないんだけど、いつもいつもロイが辛い、っていうから、今日は少なめなんですよ?」
「れっ、冷蔵庫に入ってた半分……!?と、タバスコ1瓶!?」

そりゃ辛いはずである。

(お母さんの味覚は一体……。でも、とりあえず食べないと、怒られるよね……。はぁ……)

仕方なく、二口目を無理矢理口に突っ込む。そして、やっぱりというか、なんというか……。

またむせた。

「うっ!!!ゲホッ、ゲホッ!!や、やっぱりもう無理だよ……」

皿をテーブルの真ん中の方へ押しやるロイ。相当辛いようだ。

「……あら、残しちゃうの?勿体無い。なら母さんが食べますよ?」
「……う、うん、そうして……」

スッ、と自分のもとにお皿を引き寄せる女性。食欲も尋常じゃないようで、カレーは彼女の口の中にどんどん消えていったのだった。




「……あのさ」

女性が食べ終わり、片付けをしてからロイが静かに言った。

「もうすぐ七夕じゃない?」
「……あぁ、そうですね。そろそろ笹も出さないと」
「いや、笹のことじゃなくて……」

言いにくそうに下を向く少年。

「?どうかしたの?」

覗き込むように少年の顔を見る女性。しばらくロイは黙っていたが、小さな声でポソポソと呟くように言った。

「……願い事が……思いつかないんだよ……」
「…………え?……あぁ、短冊に書く?」

コクコクと頷くロイ。

「前からずーっと考えてるんだけど、『願い』が思いつかなくて……これじゃあ七夕までに間に合わないよ……」

うな垂れる少年。困りきった顔をしていた。

「……うーん、願い事、ねぇ……。お金持ちになりたいとか、スーパーマンになりたいとか、別になんでもいいのよ?」

優しく話しかける女性。しかし、それを首を横に振って否定するロイ。

「お金持ちなんて、願うだけじゃなれっこないし……スーパーマンは、選ばれた人たちだけがなれるんでしょ?願っても無理だな、ってことばかり思いついちゃって……。一向に決まらないんだよ……」

なんだか幼い少年が発する言葉ではないような気もするが、確かにごもっともである。

「……えー……じゃあ、そうね……。……あ、母さんが一生幸せでありますように、とかはどうかしら?」

女性がからかうように言う。

「それもダメ」

しかしバッサリと切り捨てるロイ。それを聞いて、ちょっとムッとしたのか、眉間にしわを寄せて聞き返す女性。

「どうして?」
「…………え、だって……」

少し間を空けて、少年は言った。

「それは『願い』じゃなくて、僕の『義務』だから」
「…………!!ロイ……!!」

ガバッ、とロイに抱きつく女性。

「惚れてまうやろっ!!!」(←言葉遣い崩壊 笑。By,作者)

抱きつきながら、頭をナデナデする女性。それをくすぐったそうに受け取るロイ。

「…………でもねぇ……それじゃあ、結局どうするの?」

しばらくナデナデすると、ロイから離れて椅子に座る女性。

「……うーん、どうしようかな……」

また振り出しに戻る。

しばしの沈黙のあと、女性が明るく

「まっ、時間はまだあるんですから。ゆっくり考えればいいんじゃないですか?」

と言って笑った。それは、見る人を安堵させる笑みだった。

「……そう……だね。……うん、じっくり考えてみるよ。」

少年は、ありがとう、と女性に言うと、自室に戻っていった。




「…………ふぅ……久々にカレーなんて食べたから、汗かいちゃいました」

ロイの姿を見送ったあと、窓を開けて一人たたずむ女性。外から入ってきた爽やかな風が、女性の金色の髪をなびかせた。

「……今夜は……月が綺麗ね……」

深い深い空の色に、控えめに輝く月がよく映えていた夜だった。