コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 幼き頃の約束は永遠に ( No.1 )
- 日時: 2013/08/02 08:40
- 名前: 明衣 (ID: J7xzQP5I)
〈1〉日常の崩壊【小学生編】
0.災い
頭の中が金槌で殴られているかのように痛い。
私の眼には赤く回る光が。足元の割れたガラスの破片には赤い鮮血が。
世界が赤い。赤一色に埋め尽くされていく。どうしようもなく私は、呆然と回る光を見つめていた。
頭の痛みは激しさを増すばかり。音の聞こえない世界に取り残されたよう。何もかもが止まって欲しい。
誰かの声が頭痛に割り込んで、響いた。誰だろう。
ああ。晃太郎だ。ねえ、晃太郎、わがままな末っ子の幼なじみで良いからさ。
「助けて……」
1.日常
「愛花、遅い」
唯花ちゃんが、私がマンションの一室である自分の家から出たとたんに睨んできた。
本気じゃないのは分かっているけど、ちょっと恐い。
「まあまあ、唯花だって遅いときあるでしょ」
同じなのにとても優しく聴こえる声。
やっぱり、鈴花ちゃんに言われるとなんにも言えなくなる。
双子の姉妹でもどうしてこんなに違うのかな?
顔はそっくりでも性格が真逆だよね、ほんと。
「分かったからさ、早く行こ」
ちょっとだけ反抗しようとしたけど、やめたのかな。
唯花ちゃんは諦めて学校の方向に歩き出した。
あれ、お兄ちゃんの手首のボタンとれてる。
「お兄ちゃん、ボタンとれてるよ」
「あ、ありがとう」
優しく礼を言ってくれた、お兄ちゃんこと和宮奏。高校二年生で、和宮家長男。ついでだから紹介しておこう。
大人っぽい、いかにも女子高生なのが和宮鈴花。自慢のお姉ちゃん。
もう一人の姉は和宮唯花。面倒だけど、ポジティブで明るい性格。
そして、私は和宮愛花、小学六年生。
エレベーターで一階まで降りると、管理人室の前に人がいる。
「ん、おはよ」
無愛想な感じで話しかけてくる同級生、というよりも幼なじみ。吉川晃太郎。
「おはよう」
適当に応えて自動ドアの外に出た。ここからはバラバラ。
「じゃあ、いってらっしゃい」
鈴花ちゃんは微笑んでお兄ちゃんと右へ行く。
都心の私学に通っているから、駅の方向なんだよね。
学校は違うけど二人とも結構頭良い学校なんだよって唯花ちゃんに聞いたことがある。
その唯花ちゃんは、弓道部に入りたくて地元の公立高校。
だから、近所の小学校に通う私と晃太郎と途中まで一緒に行くんだ。
「ね、唯花ちゃん」
「何?」
「まだ彼氏出来ないの?」
ちょっとした質問をしてみる。
「で、出来ないんじゃなくてね、必要としてないの!」
はあ、必死に弁解してますけど……。
私的には唯花ちゃんも鈴花ちゃんも可愛いから、出来ないのが不思議なだけなのになぁ。
- Re: 幼き頃の約束は永遠に ( No.2 )
- 日時: 2013/07/31 21:56
- 名前: 明衣 (ID: J7xzQP5I)
「じゃね」
唯花ちゃんとも別れると、晃太郎が突然口を開いた。
まあ、予想はしていたから突然じゃないか。
「昨日のどうする気だよ。加藤に謝らないのか?」
「謝ろうとは思ってるんだけどね、その……」
昨日の、というのは学校で起きた事件のこと。
クラスメイトの加藤七海が、私に頼み事をしてきたんだよ。
でも、出来なそうだったから断ったら泣かれてしまった。
「別に愛花が悪い訳じゃないと思うよ、俺だって。だけど、それが礼儀だから」
晃太郎はそう言うんだよね。
「頼み事が何だったのかを教えてくれれば、もっとアドバイスできるんだけど?」
晃太郎は若干不満げに言った。
そう、そう言う。それが出来たらどんなに楽なことか。出来ないから大変なのに。
七海ちゃんが私に頼もうとしたのは、ラブレターを渡すこと。
しかも、その相手は今この時、隣を歩く晃太郎。誰だって絶対無理だって思うはず。
もちろん、仲はすごく良い。でも、だからこそ無理ってこともあるんだよ。
もし私が、晃太郎にハートのシールで封のされた手紙を渡そうとしたら何かの冗談だと思われて開けずに返される。
「う〜ん、休み時間にでも謝っておくよ」
「あ、誤魔化した。俺に言えないようなこと頼まれた訳?」
あ、やっぱりバレたか。何となくスルーしておとなしく謝ることにしようと思ったのに。
「そういうことにしておくよー。あ、彩月!」
もう適当に言っておく。
逃げるようにもう一人の幼なじみの姿が見えたのでそちらへ向かう。
「おはよう!あのさ、昨日七海が泣いちゃったヤツ、どうするの?」
「あ、うん、もう謝ることにしたから!はい、学校行こ!」
ここで救われたと思ったのに、彩月までもとは……。
「まったく、俺にも誤魔化すんだけど、どう思う?」
晃太郎って意外としつこい性格かもしれない。
面倒くさくなって二人の背中に背負われているランドセルを押す。
「はいはい、学校学校!」
現に、急がないと遅刻しそうなの気づいてるのかなあ。はあ。
教室、六年三組の教室に入ると、案の定私たちは遅いグループだった。
和宮の「わ」により、私は窓際の一番後ろの机に背負っていた物を置く。
「愛花ちゃん、あのさ」
「何?あ……」
声のした方を向くと、そこには七海ちゃんが。
とても悪いタイミングですよねえ。
「ちょっといいかな。廊下で話したいの」
七海ちゃんは笑いも怒りとも良く分からない表情をして訊いてきた。
うん、本当は宿題を出したりしなくちゃいけないんだよね。
でも、礼儀だからしょうがないか。
「いいよ。行こう」
- Re: 幼き頃の約束は永遠に ( No.3 )
- 日時: 2013/06/18 16:17
- 名前: 明衣 (ID: J7xzQP5I)
廊下に出ると、七海ちゃんが先に話し出した。
「昨日の、ごめんね。無理なお願いしちゃって。私が泣いたのは変だったって、すごい反省したの」
「こちらこそ、ごめんなさい。断り方が少し雑だったよね」
ああ、こういう雰囲気苦手なのよ〜!
しかも、地味に斜め前の扉の裏で彩月と晃太郎が話を聞いているんですけど。
「でね、自分で渡そうと思うの。晃太郎くんへの——」
「ちょ、ちょっと待って!」
ヤバいよ、何か良く分からないけど、晃太郎に聞こえちゃいけない話だよね?!
あ、七海ちゃんが遮られてあからさまに不審に思ってると感じるのは気のせい?じゃないよね……。
「ご、ごめん。あのさ」
私は七海ちゃんの耳元に口を近づける。
「七海ちゃんの斜め後ろに、晃太郎がいるから、聞こえないようにしないと……」
「え、嘘?!」
七海ちゃんは本当に驚いたように目を見開いた。
嘘じゃないんだよ〜。えっと、どうしようかな。
「そういうことだから、また後でね」
私はあえて大きめの声量で言う。
七海ちゃんも頷いたけど、若干顔が赤い。多分、聞こえていたらどうしようって思ってるんだろうな。
教室に戻ると、隠れきったと思っている彩月たちが話しかけてきた。
「どうだった?」
「どうだった、じゃないよ!まったく、盗み聞きとはいい趣味ですよねえ」
皮肉たっぷりに言ってやった。
だって、彩月たちが悪いんだもん。
「あはは、バレてたか」
笑って言うけどね、結構怒ってるんだからね!
ちょっとふてくされたような顔をしてたのか、私が怒っていることに気付くと、晃太郎が謝ってきた。
「悪かった。盗み聞きは良くなかったな。だけど、何で愛花が教えてくれないのか気になったから……」
晃太郎が口ごもると、彩月がまだ笑いながら言った。
「あ、晃太郎、寂しかったんだー!愛花に秘密にされて」
「何言ってんの?」
冗談っぽく彩月が言ったからか、内容が内容だったからか、晃太郎の声が鋭い。ちょっと恐いんですけど。
というか、そんなに本気にしなくて良いでしょ。冗談に決まってるじゃない。
「図星当てられて怒ってる訳?面白い〜」
「彩月、それ以上言うか?」
晃太郎もそうとうだと思ったけど、彩月も結構しつこいんだ。
幼なじみのはずなのに知らないこと多いんだなあ。
いろいろ考えてると、担任の大河内佐紀が教室内に入ってくる。
ぞろぞろとみんな自分の席に着く。私の隣は渡辺である彩月。そして前は吉川である晃太郎。
偶然にも三人とも名字が後ろの方。だから同じクラスだといつも席替えまで一緒の班。