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Re: 【題名考えて欲しいです】キリと紅い宝石(仮)【ファンタジー】 ( No.11 )
日時: 2013/07/03 01:38
名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)

■CHAPTER1■ 出発の朝-On a Lapool island-


「ほら、キリーっ。朝ですよー」

 下の階から、リィの声が聞こえてくる。
 きっと鍋の中身をかき混ぜながら、階段の所までやってきて叫んでいるのだろう。
 2階の一番奥にあるキリの自室にもはっきりと聞こえるのだから、そうに違いない。
 キリは、もぞもぞと布団の中で体勢を変えながら、そんなことを考えた。
 しかし、いっこうに起きようとはしない。
 そう、さすがのキリも睡魔には勝てなかった。

「起きなさーい!」
「んんん…。もう少し…」
「キリい、今日はウェルリアに行くんじゃなかったのー?」

 一瞬の間。それから、

「そそそうだったあああああ!!」

 キリの絶叫とともに、朝食を皿に盛りつけているリィの頭上で大きな鈍い音が響いた。

++++++++++++++++++++

 月に一度、キリ達は隣国のウェルリア国に買い出しに行っていた。
 『隣国』といえども、キリ達が暮らしているラプール島は『離島』、つまり周囲は完全に海で囲まれている。
 そこから船で1時間ほどの場所に、ウェルリア国はあった。
 世界でも1、2位を争う強国であるウェルリア国。
 島の人々はよくそこへ出稼ぎにでたり貿易をしたりと、ウェルリア国との交流を盛んに行っていた。
 現に、季節を問わず毎日1時間に2本のペースでラプール島とウェルリア国間の渡船が行き交っている。


「キリー? 行かないのー?」
「行きます、起きます、一気に支度しますっ!」

 言うや否や、ばっと布団をはねのけ、キリは急いでクローゼットからお決まりの黒のプリーツスカートに白のブラウスを取り出した。
 手早く着替えてから洗顔も済ませると、次に、肩あたりまである髪の毛をものすごい速度で梳かし始める。
 普段、どれだけ剣を振り回していても、どれだけ大食いでも、やはり女の子である。
 ゴムを口にくわえながら、ほつれている髪の毛を綺麗に梳かし、茶色がかった髪の毛を上の方で二つくくりにする。
 それから枕元に置いていた小型の短剣——柄の部分にはめ込まれた紅色の艶やかなルビーを主としていて、その周りに小さな宝石が散りばめられた、非常に手の込んだ装飾が施されている——を掴むと、腰に提げた。
 これでキリの普段のスタイルの完成である。

——この間、わずか3分半。


 キリは脱兎のごとく部屋から飛び出すと、1階へ駆け降りた。

「じゃあああん! ほら、準備完了! さ、早くウェルリアに行こう! 早く!」
「その前に、」

 誇らしげに胸を張るキリに、

「まずは、私の作った朝ごはんを食べましょうね」
「……はあい」

 終始笑顔のリィだったが、放った言葉は凍るようなトーンであった。

++++++++++++++++++++

 詰め込むだけ食べ物を口に詰め込んで、かき込めるだけ食べ物を口にかき込んで、牛乳で口の中のものを胃に流し込む。

「ごひほうはまれひた〜(ごちそうさまでした)」

 いっぱいいっぱいになりながら、ドンドンと胸板を叩いてむせ返るキリ。
 やはり一気に食べると苦しいものだ。
 キリは食卓から立ち上がると、ふと周囲が気になり、キョロキョロと辺りを見回した。
 今まで近くにいたはずのリィの姿が見当たらない。

「あれれ。リィさーん?」

 自室に戻ったのか。
 キリは2階に上がり、階段のすぐ脇にあるリィの寝室に向かった。
 ドアが閉まっている。

「リィさあーん…」
「………」

 ドアの向こうから、返事は無い。

「リィさーん、入るよー?」

 首をかしげながらキリはゆっくりとリィの寝室のドアを開ける。
 寝室の中に、人の気配はなかった。
 しかして、シン——と張り詰めた異様な空気が寝室に蔓延している。

「なんだろ……この感じ……」

 しばらく神経を研ぎ澄ましてリィの部屋に立ち尽くしていたキリは、そこで、机の上に無造作に置いてある小箱に気がついた。ちょうど、キリの両手にすっぽりと収まる大きさの正方形の箱である。
 この箱の周囲だけ、明らかに空気が違う。——気がした。
 キリは、思わずゴクリと生唾を飲んでいた。

『今ここで、この場で、この箱の中身を、確認しなければならない』

 キリの頬を冷たい一筋の汗がつたう。
 何故だか分からないが、瞬時にそう思ったのだった。


——中身を確認しなければ。

 ゆっくりと息を吐き出し、周囲を伺う。
——ドアを閉める。
 そして机に向き直ると、両手でそっと掬うように小箱を持ち上げた。
 蓋を開けようと左手を添えたところへ、

「キリー、もう食べ終わったのー?」
「っ……?!」


 声を聞くやいな、キリは小箱を元の場所に放り投げていた。
 次の瞬間、ガチャッとドアのノブが回り、ドアの隙間からリィが顔を出した。

「キリぃ。こんなところで、何してるの?」

 裏表もない、素直で率直な質問だ。

「あ、あの……あの……っ」
「ん?」

 焦ってろれつが回っていないキリに、リィは満面の笑みを向ける。


——ああ、笑顔が眩しいっ!

「り、リィさんを、探してたのよ。一体全体、どこ行ったのかなあーって。うんうん」
「ごめんごめん。洗濯物を取り込んでたのよ。用意はもう出来た? じゃあ、行きましょうか」
「う、うん」

 平然を装って、キリはリィの寝室を後にした。

++++++++++++++++++++

 玄関に向かう途中でリィが思い出したように声をあげた。

「ごめんキリ。大事なものを持ってくるの、忘れてたわ。取りに戻るから、キリは先に外に出て、待ってて」
「あ、うん」

 ごめんね、と眉尻を下げてパタパタと廊下の奥へと姿を消したリィを肩ごしに見送って、キリは靴をつっかけて表へ出た。
 青い空に白い雲。爽やかな風がキリのスカートをはためかす。
 今日は絶好のお出かけ日和だ。

「んーっ!」

 新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで、深呼吸。

「やっぱり朝の空気は新鮮だなあ」

——でも……。

 キリの胸の内は、もやもやしていた。

——さっきのあの箱、あれは一体……。

 嫌な感じがした。
 言い表せない何か。
 胸がざわつく……。
 気のせいだと思いたい、が。

「うんそうだよ。気のせい、気のせい!」
「何が『気のせい』なの?」
「うわわわわ!」

 背後から声をかけられ、思わず反射的にのけぞるキリ。
 もちろん、声をかけた人物は、リィその人であった。

「んな、なんでもないよ! うん!」
「そう?」
「ところでリィさん! 忘れ物、とりに戻れた?」
「ええ。ほら」

 リィが差し出したそれは、キリが先ほどから気にしていた例の【小箱】であった。
 相も変わらず、小箱は異様な雰囲気をまとっていた。

「あ、うん。そっか。それは良かった。です」

 取り繕った言葉でしか反応ができず、キリはひきつった笑顔を浮かべてその場を収めた。

『ボーッ』

 その時、船の出航合図の汽笛が辺りに響き渡った。
 身体を揺さぶるような汽笛の音と同様に、キリの心も不安に揺さぶられていたのであった。


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