コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【題名考えて欲しいです】キリと紅い宝石(仮)【ファンタジー】 ( No.12 )
- 日時: 2013/06/28 02:59
- 名前: 明鈴 (ID: OMeZPkdt)
■CHAPTER2■ 号外-An unknown place -
「うっわあああ! すっごいキレイー!」
目の前には太陽の光を反射してキラキラと輝いている海が広がっている。
キリは手すりを掴んで思わず身を乗り出していた。
ここはウェルリア国に向かう渡船の甲板の上。
船内は、出稼ぎや観光、買い出しなどの様々な目的でウェルリア国に向かう乗客たちで溢れかえっていた。
ちなみにキリとリィは1ヶ月分の生活用品の購入目的でこの渡船でウェルリア国へと向かっていた。
ラプール島にある建物は住宅がほとんどで、日用品を売っている店はほとんど無いに等しい。
島の住人のほとんどは、日常用品をこうしてウェルリア国に買いに出ていた。
++++++++++++++++++++
キリは、しばらく身を乗り出して潮風を浴びていた。
そうして、風に髪の毛をなびかせながら笑顔を浮かべているリィを振り返った。
「ねえねえリィさん、見て見て見てっっ! 海、キレイだよお!」
興奮で声が上ずる。
リィは船の甲板ではしゃいでいるキリを見て、クスリと笑った。
「ああ。そうそう、キリ」
「ん?」
ふとリィに声をかけられ、キリは、はたとはしゃぐのをやめた。
「なに?」
「ウェルリア国についたら、どこに行きたい?」
「え、好きなところ行って良いの?!」
「私も着いたら少し寄りたいところがあるし。帰りの船までたっぷり時間もあるし」
「わあっ」
「どこ行きたい?」
「じゃあじゃあっ、えーっとね、えーっとねえ」
キリの頭の中に、沢山の食べ物が浮かんでは消えていく。
「ウェルリア国名物ジャンボたこ焼きでしょお、元祖バニラ味のソフトクリームにい、……あ、この間お隣さんに貰ったマドレーヌも美味しかったなああ。あのマドレーヌ、ウェルリア国限定品なんだって! ……って、あれ。リィさん?」
よだれを必死で拭いながら指折り数えて話していたキリは、リィが左手で額を押さえていることに気がついた。
「どうしたの? あ、もしかして、船酔いした?」
「キリ。まったくあなたって子は……」
「ほあ?」
幸せそうな表情を浮かべるキリに対して、ため息混じりに「仕方がない子なんだから」と呟くリィであった。
「ごーがいっ! 号外だよお!!」
突如、一人の男性が声を上げた。
その声に驚いてキリがキョロキョロと辺りを見回すと、先ほど声を上げた男性がショルダーバックから紙を無造作にひっつかんで、船内にばらまいている姿が目に入った。
「号外、号外! ウェルリア国第一王子についてのニュースだよー!」
「ゴー、ガイ……?」
言葉の意味を模索しているキリの目の前にも、一枚の紙が降ってきた。
「『号外』っていうのはね、事件とかをいち早く私たち国民に伝えるために臨時で新聞を発行して、こうして配布してくれるもののことを言うのよ」
甲板に落ちていた紙を片手に、リィが教えてくれた。
「ほおお……。大事件、ですか」
「まあねえ。ウェルリア国にしたら、一大事なんだと思うわよ」
「へ?」
「ほら」
リィはそう言って、キリに紙を差し出した。
その号外を見る限り、どうやらウェルリア国の第一王子が城から逃げ出したらしい旨が書かれていた。
国王は国軍から兵士を手配し、王子を探しているが、依然消息は掴めておらず、捕まえた者には褒美を出す、とのことだった。
「王子様でも、何か嫌なこと、あったのかなあ」
「あらあ、王子様も立派な一人の人間よ、キリ」
「それは分かってるよう。……ああーっ! 王子様、かあ……」
「……キリ?」
リィは嫌な予感がして思わずキリの顔を覗き込んだ。
話の雲行きが怪しくなってきた。
「王子様よ、王子様っ。私がもし王子様だったらあ、毎日美味しいモノ、いーっぱい食べて、幸せに暮らすと思うんだけどなああ」
「………」
こうなったキリには何を言っても無駄である。
妄想世界へトリップしたキリは、聞く耳をもたない。
「もし私が王子様だったらねえ……。うふふふ。シュークリーム食べてえ、チョコパフェ食べてえ……、あ! ジャンボたこ焼きも良いなああ。ぐふふふ」
しまいには変な声が漏れ出している。
今なら、「この子が王子を誘拐しました」と国王へ突き出しても通じるであろうほどの変質者っぷりである。
リィはそんなキリから少し離れた場所にあるベンチに腰を下ろした。
脇に紙を置く。
「………」
一息つく。
そこへ、ようやく現実世界に戻ってきたキリが駆け寄ってきた。
「リィさんっ」
「……キリ」
リィに駆け寄るために全力でダッシュしたことと、先ほどの妄想による興奮で息を荒げているキリ。
そんなキリを見上げ、リィは静かに息を吐いた。
その表情は、心なしか、憂いを帯びている。
「キリ」
リィの瞳が揺れる。
「私、一体何者なんだろうね」
- Re: 【題名考えて欲しいです】キリと紅い宝石(仮)【ファンタジー】 ( No.13 )
- 日時: 2013/07/03 01:44
- 名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)
リィの呟きは、キリの心にもズシンと重く響いた。
「自分は何者なのか」——それは、キリも分からなかった。
その昔、リィも記憶喪失でラプール島に流れ着いたという話は聞いていたが、キリ自身も、赤ん坊の頃にラプール島に流れ着いた身。
自分自身の生い立ちどころか、両親の顔もロクに覚えていない。
「何者、なんだろ。私」
——不安。
そうだ。王子様は、王子様であって、他の何者でもない。
では、と心の中で自問自答をする。
——私は、私であって……。何?
けれどキリは、もし自分が何者なのか分かっても、リィが何者であっても、ラプール島から離れることはないと思っていた。
リィとも、何があっても離れることはないと思っていた。
「……みんなが、大好きだから」
「ん? 何か言った? キリ」
「んーん。なーんでも無いっ」
++++++++++++++++++++
船は暫くして、港に着いた。
汽笛を背にして、キリとリィは海沿いの街を歩いていた。
「これから、まずはどこに向かうの?」
ひたすら石畳の道を縫っていく。
傍らには漆喰の壁で囲まれた住居が規則正しく並んでいる。
リィは周りには一切目を向けず、黙々と歩いていく。
うって変わって周囲に興味津々のキリは、見慣れない植物を見つけては立ち止まり、見慣れない昆虫を見つけては立ち止まり——そうしているうちにリィの背中が少しずつ遠のいていく。
キリはその度にリィの後を駆けていくのだが、また立ち止まっては周囲を見渡し、距離が開いてはまた駆ける——。
目的地にたどり着くまで、終始この繰り返しであった。
そのうち、一風変わった外見をしたモダンな建物が見えてきた。
リィの歩む速度が次第にゆっくりになっていく。
入口の前で立ち止まると、リィは少し遅れてやってきたキリを振り返った。
「キリ」
「ん?」
「これ、預かっておいてくれる?」
ギュッと押し付けるようにして渡されたのは、キリがリィの寝室で見つけた例の【小箱】だった。
「これはね、とっても大切なものなの。だから少しでも中の物を見たり、触れたり、ましてや壊してしまうなんてことは、絶対にダメよ。もし守れなかったら、ただじゃ済まないからね」
いつものように終始穏やかな笑みを浮かべているが、リィは脅しともとれる言葉を羅列して、もう一度キリに強く念を押した。
キリが「うん」とも「はい」とも返事をする間もなく、リィはそのまま吸い込まれるかのように建物の中へ入ってしまった。
「ほへ……」
表の看板には、『喫茶ジュリアーティ』と洒落た書式で書かれている。
「喫茶店……」
しばらく呆然と建物を見つめていたキリは、慌てて態勢を立て直した。
そして、
「なによお、リィさんのクセして。喫茶店なんだったら、なにも外に締め出す必要なんてないでしょうがっ」
リィに対する不平不満をひとしきりぶちまけて、ひと呼吸。
そして、どこかに休憩できる場所はないか辺りを見回すキリ。
が、周囲は白を基調とした住居しかなく、建物の間は細い路地が敷いてあるのみだった。
「……困った」
小箱をギュッと握り締める。
と、突如キリの耳に、僅かにだが、荒い息遣いが飛び込んできた。
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