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- Re: 【キャラのイラスト募集中】眠れる華と紅い宝石【ファンタジー】 ( No.22 )
- 日時: 2013/07/03 01:46
- 名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)
■CHAPTER3■ 梟と少年-Imperial prince-
微かに、荒い息遣いが聞こえてくる。
路地裏から。
「———っ?!」
突然の出来事に驚いたキリは、リィから預かっている【小箱】を危うく地面に叩きつけるところであった。
態勢を立て直してから頭を左右にぶるんぶるんと振ると、キリはその【小箱】をゆっくり且つ丁寧に、まるで触れるとすぐにでも割れてしまいそうなシャボン玉のように、そっと石畳の上に置いた。
——落ち着いて。
【小箱】の位置を目の端で確認するとキリは、凝った装飾が施されている鞘から、すらっと短剣を抜いた。
右手でしっかりと握り、右耳の横あたりで構える。
柄の部分にはめ込まれているルビーがキラリと光った。
——来るッ!
荒い息遣いが聞こえていた細い路地裏から、黒い影がさっと飛び出してきた。
と、同時に、
「とりゃあああっ! お命頂戴いいい!!」
勢いよく振りかぶったキリの短剣は、石畳の割れ目に深々と付き刺さっていた。
「……は、れ?」
外したっ……!!
慌てて短剣を引き抜こうとするキリ。
その目の前に、ふわりと何かが舞い落ちてきた。
「羽……?」
薄茶が若干混じった白色の羽だった。
見上げると、一羽のシマフクロウがバサバサと羽を羽ばたかせながら宙に待っていた。
「フクロウ……」
キリは、石畳の割れ目に突き刺さった短剣を引き抜くことも忘れ、柄の部分を握り締めながら、ただただ呆然と宙を見上げていた。
澄んだ青空に舞うシマフクロウの姿に、ただただ見惚れていた。
そのような状況下にあったので、キリの全神経はこの時、残念ながらシマフクロウに集中していた。
従って、先ほどの路地裏から新たに足音の主が息を荒げてやって来ている状況に瞬時に反応することは出来なかった。
キリがその人物の気配を感じ取った時には、もう、眼前に迫っていた。
「うわあああっ!」
「きゃああああっ……!!」
ドガッと鈍い音がして、キリはそのまま後ろへ仰け反った。
そして、
『ガッ』
嫌な音がした。
キリの右足の踵が何かを蹴っ飛ばした音だった。
「あれ……?」
そのまま態勢を大きく崩し……。
『グシャッ』
実際はそのような効果音では無かったのだが、キリの耳には確かにそう聞こえたのだった。
地面に置いてあった『何か』を『潰して』しまった音を。
「………」
顔面蒼白なキリは呼吸をするのも忘れて、自分の尻の下敷きになっている『何か』を恐る恐る確認する。
それは、元々【小箱】だった【モノ】であった。
キリの尻に敷かれ、最早原型をとどめていない【小箱】であった。
そのへしゃげた【モノ】を直視して、ショックのあまり凝固するキリ。
もはや救いようはない。
そんなキリと対峙する形で、一人の少年が尻餅をつきながら頭をさすっていた。
路地裏から飛び出してきた張本人であった。
キリとぶつかった時の痛みに声を漏らして、ゆっくり立ち上がろうとしている。
一方でキリは、未だに思考回路がぷっつり停止していた。
石畳に視線を落として、フリーズ状態である。
少年は立ち上がると、身にまとっていたマントに付着した埃をおもむろに手で払い、それから、無言でキリに手を差し出した。
「…………」
「…………」
反応、無し。
もう一度試みようとして、——やめにした。
どうせ結果は同じだ。
となると——。
「おい、お前。俺がせっかく手を貸してやってんのになあ……」
ぶっきらぼうに言い放って、慌てて言い繕う。
「そ、その、し、心配してやってんだよ。だ、大丈夫か」
その少年の言葉に、今まで血の気が引いていたキリの顔が、一気に上気した。
「『大丈夫』かああ?! 大丈夫な訳、ないじゃないの! 見て分からないの?! あんたのせいでね、私は終わったのよ! 何もかも!!」
「はい?」
見ず知らずの少女にいきなり胸ぐらを掴まれた挙句、捲くし立てられた少年は、なんのことか分からず、目を白黒させるしかなかった。
——突然喚きだして、なんなんだコイツは。
先ほどぶつかった反動で、自身の顔を隠すために深々と被っていたマントのフードが脱げていたが、少年はそれを気にする間もなかった。
「あんたのせいよ! あんたがぶつかってこなければね……!! これはね……!!」
「し、心配してやったのに、なんだ! その言い草は!」
負けじと少年も言い返す。
黙って責め立てられるのは、少年の性分にはそぐわなかった。
「女のくせに、生意気だぞ!」
「何よ! 意見をいうのに男も女も関係ないわよう!!」
こうして暫くの間、少年とキリによる「お前が悪いんだ合戦」が繰り広げられた。
——そっちが急に飛び出してきたのが悪いだの、だったら避ければ良かったじゃないか、だの。
ひとしきり言い合って、そろそろ呼吸も辛くなってきて、お互いに肩で息をしながらひと呼吸ついた時だった。
「だからっ……、私の、せいじゃ、無く、て……」
突然、キリの目にぶわっと大粒の涙が浮かんだ。
「いっ……?」
思わず顔を引きつらせる少年。
それに構わず、キリの頬にはとめどなく涙が溢れ落ちていった。
それこそ「滝のように」という表現がしっくりくるかもしれない。
「リィさんの……ひくっ、大事にしてた……、たっ、大切な……モノ、で……」
しゃくりあげながら【小箱】だったモノを拾い上げる。
綺麗な正方形だった小箱は、今や平行四辺形に変形していた。
外見がこうなっていると、もはや中身の安全は皆無に等しい。
それでもほんの少しの期待を抱いて、めちゃめちゃに歪んだ小箱の蓋を力任せに開ける。
「………」
案の定、小箱の中に入っていた【透明な水晶玉"だった"】それは、見事に粉々に砕けていた。
「うっ……やっぱり……」
キリはそのまま石畳にしゃがみこむと、感情に任せて思いっきり泣き始めた。
少年は眉を顰めたままどうすることも出来ず、ただその場につっ立っているしか無かった。
その様子は、傍から見れば「物を壊すいじめっ子」と「その仕打ちを受けて悲観にくれるいじめられっ子」の構図である。
幸いなことに、この近辺に人影は無く、変に誤解される心配はない。
しばらく少年は唇を噛み締めてその状況に狼狽えていたが、
「……来い」
くいっ——、と。
キリの服を遠慮がちに引っ張って、そう言った。
「ぐすっ……。え……?」
鼻を啜り上げ、キリは疑問符を浮かべる。
少年は手で自分の顔を覆うと、「何回も言わせるな」とぼやいた。
「だから。……直してやるよ、その箱の中身。それで、良いんだろ?」
「あんた……」
「『あんた』じゃない。アスカだ」
言うやいなや、アスカと名乗った少年はキリにくるりと踵を向け、スタスタと歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待って……!」
キリは腕でゴシゴシと涙を拭くと、まず、石畳の割れ目に突き刺さっている短剣を力任せに引っこ抜き、腰に提げた。
次に、地面にしゃがみこむと、スカートのポケットから布の袋を取り出した。
片手でその袋を持つと、いびつな形に歪んでいる【小箱】を、蓋を閉めてから、丁寧にその袋の中に入れた。
その袋をぎゅっと握り締め、それからキリは慌ててアスカの後を追いかけたのだった。
リィのいる喫茶店を背にして——。
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