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Re: 【CHAPTER3 更新】眠れる華と紅い宝石【ファンタジー】 ( No.26 )
日時: 2013/07/03 01:47
名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)

■CHAPTER4■ 偽りの仮面-A prince's rumor-


「ところでお前、名前なんてーの?」
「へ?」

唐突にそう聞かれ、キリは思わず間の抜けた返事をしてしまった。
キリの反応に、アスカが訝しげに眉をひそめる。

歩き始めて約20分。
やっと沈黙を破ったのは、意外にもアスカであった。

「だから名前だよ、な・ま・え」
「あ、ああ……名前」
「別に、教えたくなければそれで良いけど」
「ち、違うわよ。そういうんじゃなくてえ」
「じゃあなんだよ」

ぶっきらぼうに言われ、キリはむっとむくれた。

別に教えたくないわけじゃない。
ただ言うタイミングを逃したから名乗るのが遅くなっただけだ。
何も、そんなぶっきらぼうに言う必要はないのではないか——。

キリは少し先を行くアスカに、小走りで追いついた。
ひたすら歩くことに集中しているアスカの横に並ぶと、自らもアスカの歩幅に合わせて歩き始める。
そうしてぴったりとアスカの横に張り付き、刹那、バッと勢いよくアスカの方に顔を向けると、

「……っ『キリ』。『キリ』よ。 私、ラプール島から来た『キリ』って言うの」

自分の名前を連呼した。
キリは、「これで文句はないでしょ」とでも言いたげにアスカの様子を伺う。

「ラプール島……」

アスカの表情が若干和らいだのは、気のせいであろうか。

「オレはアスカ。こっちは、シマフクロウのシィだ」

 目線は前を向いたまま、アスカは自分と相棒の自己紹介を終えた。
 そこでまたしばしの沈黙。
 
 シマフクロウのシィは「ホウ」と一鳴きし、大人しくアスカの肩の上で歩く際の振動に耐えている。

「………なあ」

沈黙になることに耐えられなくなってきたのか、またしても先にアスカが沈黙を破った。
キリは何事かと、アスカの方を向く。

「ラプール島から来たんだったらお前、……ウェルリア国には、詳しいのか」

——むっ。

キリは、突然の予想だもしない問いに、また反射的に頬を膨らませていた。

「詳しそうに、見えるの?」
「いいや」

即答で返されて、キリは更に頬を膨らませた。
キリは、スタスタと先を歩いていくアスカに言い返そうと大きく息を吸い——、

「これを見ろ」

不意にその言葉に遮られ、むくれているキリの目の前に翳されたのは、船上で配られていたあの『号外』であった。

「これ……」
「ウェルリア国内外に配られてるヤツ、だってよ。全く、こんなもんばら撒いて、何がしたいんだか」
「確か、王子がお城から逃げ出したんだってね」
「ああ。……みたいだな」
「王子様でも嫌になることって、あるんだねえ」
「まあな」
「そうだよね。王子様も、一人の人間だもんねえ」
「………」

アスカは黙りこくってそれを聞いていた。
シィが短く「ホウ」と鳴いた。


「……ねえ、アスカ、くん」

キリは石畳の隙間を目でなぞりながら、先ほどの会話でふと思ったことを口にした。

「なんだ」
「いや。………思ったんだけどさ、もしかしてアスカくんって、」

そこまで聞いて、先へ先へと足早に歩いていたアスカがピタリと立ち止まる。
アスカのこめかみから一筋の汗が流れたのを、キリは知る由もない。
無知なキリは、己の考えを目の前にいる張本人に話し出す。

「アスカくんってさ、」
「…………」
「もしかして、」
「な、……なんだよ。もったいぶらずに言えよ」
「王子様!(ここでアスカが反射的に胸を押さえる)……を、見つけ出そうとしてるでしょお! やっぱり賞金目当て? 違う? そうでしょ、そうでしょ!」
「ええ〜。じゃ、なんで号外を私に見せたわけ〜?」

気負いしていたアスカは、危うく膝ががくんと崩れ落ちるところであった。

「ち・が・う」
「えっ……。そ、それはだなあ……」

口を付きそうになる禁則事項。
アスカはコクリとつばを飲み込んで、その言葉を押しとどめた。
軽く咳払いをする。

「オレは、こんなモノに、興味は無い」
「興味ないのに私に号外を見せたの?」
「ぐっ……」

変なところで妙に鋭い女だ。
アスカは眉を顰めると、ぐっと息を飲んだ。

——落ち着け。

ゆっくり息を吸う。

——大丈夫だ。コイツになら、バレやしない。

「……ウェルリア国内は今現在、この話題でもちきりだ。街中には王子を探して様々な者たちが徘徊している。その異様な光景に、ラプール島から来たお前が慣れていないと思ってだな……。そ、そうだよ。うん。 そのことをお前にあんに伝えるために、オレはこの紙をお前に見せたんだ!」
「『暗に』って……。あんたが自分で言っちゃったら、『暗に』ならないじゃない」
「細かいことは気にするなっ!」

会話はあらぬ方向に進んでいるが、二人と一羽が向かう目的地には刻々と近づいていた。
キリは、今まで白を基調とした建物ばかりだった街並みが、徐々に変わりつつあるのを感じていた。

++++++++++++++++++++

「さて、これから、ウェルリア国の城下町に入るぞ」

アスカは静かにそう呟くと、道の真ん中で立ち止まった。
そうして、マントに付いているフードをおもむろに深く被る。

「アスカ……?」

キリは突然のアスカの行動に疑問をぶつけようと口を開く。
そんなキリに、アスカは「待て」とでも言いたげに手を翳した。
そして、

「今から城下町だ。オレには一切話しかけるな。分かったな?」
「へっ?……わ、分かったわよう」

アスカはキリの返事にゆっくりと頷くと、また先ほどと同じようにスタスタと歩き出した。

++++++++++++++++++++

城下町は、やはりたくさんの人々で賑わっていた。
それでもいつも以上に熱気が渦巻いているのは、街の住人共が賞金目当てで王子を探し回っているからでもあるのか——。

城下町に入ってから、キリは一つだけ気になることがあった。
街の人々がキリたちを見て、ヒソヒソとなにか囁いているのである。
確かに傍から見れば、"異国の格好に短剣を提げている少女"と、"フードを目深に被ってフクロウを連れている少年"の二人組が"無言"で歩いている光景は街中では異色の組み合わせだった。

(でも、なにも噂することないじゃないのよう……)

そう思ったキリであったが、アスカに言われたとおりに、ただひたすら無言で後について行っていた。

今から一体何処へ行くのか——キリには行き先も告げられていなかった。
今更ながら、こんな見知らぬ奇妙な少年についてきてしまったことに、キリは後悔を感じ始めていた。

しかし、このままリィのもとへ帰れるはずもない。
とにかく、ひたすら無言で、口をへの字に結んで、アスカの後を歩いていた。


———と。

突如、港の方で『ドーン』という大きな音起こった。
それは、大砲の音であった。

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