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- Re: 【CHAPTER5 更新】眠れる華と紅い宝石【ファンタジー】 ( No.28 )
- 日時: 2013/07/03 01:49
- 名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)
■CHAPTER6■ 王子の隠れんぼ-Runaway-
「で?お前さんたちは一体何しにこの老いぼれのところへ来たんだ、ん?アスカ。……はっ。お主まさか………突然女の子連れてきたしっ………駆け落ちかっ!」
「違うっ!」
アスカは断固否定的な響きを込めてビシッとそう言い放つと、キリを指さした。
「そいつが!……その、困ってるから。爺さんなら、直してくれるだろうって……な!」
同意を求められ、キリは慌てて頷いた。
そして、握り締めていた小箱をクラーウ氏に渡す。
クラーウはそれを受け取りながらアスカに向かって可愛く舌を出す。
「なーんてな。駆け落ちってのは、ちょっとした茶目っ気じゃ。(ここでアスカが一言、「可愛くない」。ぼそりとだが、鋭く言い放つ)……それにしてもなんじゃ、この箱は。ぺしゃんこじゃないかい」
「ここに来るまでに色々あったんだ。……いや、そんなことはいい。率直に言う。爺さんにその中身を直して欲しいんだ」
アスカの言葉を聞きながら小箱の蓋を力任せに開けて中身を確認したクラーウは、即答していた。
「無理じゃ!」
「なんだと!」
「いくらお前さんの頼みでもなあ……。見たところ、拳ほどの水晶玉のようじゃが……なんじゃこれは。粉々ではないか」
「それでも!……直して、欲しいんだ」
一連のやり取りを聞いていたキリは、第三者の意見として、流石にこれは直す術はないと実感していた。しかし、直してもらわないとリィの元へ戻れないと考えたキリは、食い下がるアスカの横に並んで、身を乗り出した。
「無理なことは分かってるんだけど、……お爺さん、お願い。直せませんか……?大事な、本当に、大事なものなんです」
切羽詰まった表情でそう言われ、クラーウは苦笑した。
——そんな顔されたら、断るに断れんじゃろうが。 全く……。
「………まあ、やってみるだけやってみることにしよう。アスカの頼みを聞かんと死刑になってしまうからな、ガッハッハ!………なあに。そんな顔をするな、アスカ。わしも一介の時計職人じゃ。クオーツ時計と言ってな、水晶を扱うこともあるんじゃよ。………よし。まずは大きな破片をくっつける作業からやってみるかの」
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。
突然クラーウがアスカに向かって「隠れろ」と合図を送った。
「誰かやってくるぞ、アスカ」
「なにっ……?!」
「………へ?」
呆然とその場につっ立っていたキリは、表のドアが開くとほぼ同時に、ぐいっとアスカに手首を引っ掴まれていた。そして、訳のわからぬまま店の物置部屋に引き込まれていた。
チリ——ン。
店の表側にあるドアのベルが軽やかに鳴り、一人の青年が入って来た。
砂よけのマントを纏い、フードをおもむろに被っている青年の表情は、よく分からなかった。しかし、その下に隠れている整った顔には人懐っこい笑みが浮かんでいる。
「こんにちは。クラーウのお爺さん」
フードをとって丁寧にお辞儀をする青年。
クラーウ氏は「ああ」と無愛想に返事をした。
ほのぼのとした雰囲気を纏った青年は笑顔のまま机越しにクラーウを見据えると、店の外を指す。
「外の騒ぎ、見ました?」
「王子がこの街に逃げてきたんじゃろ」
「そうなんですよ。いやあ、よくご存知で。しかし吃驚しましたよー。国王の命令で城下町に通じる道は全て塞がれるし港の桟橋は落とされるし、……ああ、そういえばここに来るまでにも兵隊さんたちが家探しをしてたのも見ましたよー」
キリ達は音を立てないように細心の注意を払いながら、物置部屋の奥へと移動した。物置と言っても5帖ほどのスペースで、子供2人が余裕で過ごせる場所があった。物も余りに置かれておらず、そこまで窮屈な思いをすることはない。
青年の話を物置の扉越しに聞きながら、キリは、国王がよっぽどの親馬鹿なのだと一人勝手に納得していた。
たかが自分の子供のために街の橋まで落とすなどという強行に走るとは……。
そう思いながらアスカを振り返ると、アスカは物置の隅の方に身を寄せていた。その表情は恐怖に満ち満ちている。
「………アスカ?」
薄い扉を一枚隔てた向こう側では、未だにクラーウ氏と青年が会話を続けている。
キリは、恐怖に震える唇でアスカがぼそりとこう呟くのを、はっきりと耳にしていた。
「あいつは……確か……」
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