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- Re: 【CHAPTER6更新】眠れる華と紅い宝石【参照100突破】 ( No.31 )
- 日時: 2013/07/03 01:50
- 名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)
■CHAPTER7■ 嘘つきの代償-Secret-
「あいつは……確か………」
「なに?アスカ、知ってる人?」
「………」
それにしても、とキリは思った。
アスカのこの反応。もしやこの青年は、アスカとなんらかの関係がある人物なのか——?
けれど、だったら何故こんなに焦っているのだろう……。
キリの心配をよそに、アスカは額から冷や汗を流しながらじっと押し黙って物置部屋の扉に耳をくっつけていた。店内の会話を把握するためであった。
「クラーウのお爺さんとこには、兵隊さんたち、まだ来ていないみたいですね」
青年が店内を見回しながら、言う。
「………」
クラーウは黙って青年を見据えている。その目は、訝しんでいた。
「嫌だなあ。そんなに警戒しないでくださいよう。怪しい者じゃないですよー。僕は只のしがない研究員ですって。ホラ」
マントを託し上げて、その下に着ている白衣を見せる青年。
「……って言っても信じられないのが人間の性さが、ですけどねえ」
「さっき、兵隊が家探しをしていると言っていたな」
「あ、そうですね。いやあ、なんでも王子様はウェルリア国城下町に逃げてきたという話で……。兵隊さんたちは家の中に王子様を匿っている可能性があると踏んで、一軒一軒見て回っているそうです」
「けどですね、」と一呼吸置いて、青年はにこやかに続ける。
「『王子を匿う』なんてことをしたらどんな目にあうか国民たちは知っているでしょうから、僕は国民の皆さんが王子を匿っている可能性は『ない』と思ってますけどね」
にっこり、と。
青年はクラーウを一瞥すると、近くの椅子に腰をおろした。
「ところで、一つお聞きしたいことがあるのですが、……よろしいですか?」
「なんじゃ」
ひっきりなしに首を傾げている青年に、クラーウは顔色一つ変えず答える。
「店内に入った時から思ってたんですけど、このお店、……お爺さんの他にも『誰か』いますよね」
青年のこの言葉にキリとアスカは思わずビクッと肩を震わせた。
対してクラーウ氏は、あくまで平然と対応する。
「いや。誰もいないが」
「あれえ、そうですか。んー。おっかしいなあ……」
首を捻りながら青年は一直線に、キリとアスカが身を潜めている物置部屋の前まで歩いていった。
「ほら。ここから息遣いが聞こえて来るでしょ?」
キリとアスカは反射的にお互いの口を押さえ合っていた。心臓はもう割れそうなほどバクバクと鳴っている。
ここでようやくクラーウの表情にも焦りが現れる。
「………何も聴こえんが」
「だとしたら余計におかしいですよ。……そうですねえ。この息遣いの感じだと、………ちょうど王子と同世代の子供が二人、……ですかね?」
「………」
時計店内の空気が音を立てて凍りついた気がした。
目を見開いて青年を直視しているクラーウに、青年はにこやかに言う。
「あ、その顔だと図星ですね。ははあ。やはりあの王子がこの店を出入りしていたという噂は本当でしたか。って、その噂を流した当の本人は、この僕ですけど」
何が可笑しいのやら、青年はそう言って笑った。
「あんた、何者じゃ……?」
クラーウの言葉に、青年は一瞬ぽかんとした間の抜けた顔をしたが、またすぐに穏やかな表情を浮かべた。
「ただの研究員、ですよ」
——ただの研究員がこんな芸当、出来るもんか。
物置部屋のキリとアスカは先程よりも更に息を潜め、事の成り行きを見守るしかなかった。
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