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Re: 【企画募集中!!】眠れる華と紅い宝石【参照100突破】 ( No.33 )
日時: 2013/07/03 01:51
名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)

■CHAPTER8■ 招かれざる客-Red jewelry-


 店の外はまだ騒がしかった。道端では賞金目当てで王子探しを行う国民たちの必死の情報交換が行われていて、街中は様々な会話で溢れかえっていた。一方でウェルリア兵は、王子探しのために次々と家に押し入り、街の人々はなすすべもなく、ただ黙ってそれを見ているしか出来ない状況下に置かれていた。

 街中がそのような混乱の渦中にある中、クラーウ時計店内は——。

 『研究員』と名乗る青年が穏やかな笑みを浮かべて、店主のクラーウと対峙していた。
 奥の物置では、キリとアスカが息を殺してじっとその様子を見守っていた。

 しばらくして。
 その緊張感を破ったのは、あろうことか、青年その人であった。

「………って、疑われてるみたいですね、僕」

 眉尻を下げて、困ったように笑いながら髪の毛を掻きあげる。

「研究員なのは本当です。けど、……僕、実は元ウェルリア兵なんです」

 苦笑いをしながら、続ける。

「僕、この国の学校に入れられたんですけど、学校に入ったらそのままこの国の兵隊にならないといけなくて。仕方なく嫌々入隊してすぐに逃げ出して現在に至る訳です」
「それで息遣いで見分けられるスペックが身についておるわけか」
「まあ訓練させられてたんで、身についちゃったんですよね。……軍の先生たちは未だに僕の行方を探しているって噂なんですが………ホラ、『灯台下暗し』って言うじゃないですか。僕、今はこの国で研究員をやっているわけなんですけど、未だに見つかっていませんよ。さすが、『昔の人の教え』さまさまって感じですよね!アハハハハ」

 アハハハハと笑う青年に合わせて、クラーウも高らかに笑った。
 と、次の瞬間、青年は急に眉根を寄せると真面目な顔つきになり、笑っているクラーウを食い入る様に見つめた。

「僕の隠し事はこれだけです。さ、今度はお爺さんの番ですよ」
「………」

 先ほどまで高らかに笑っていたクラーウ氏は急に黙り込んだ。青年となるべく視線を合わせないように顔を下げると、クラーウはその視線の先にキリの持ってきた水晶玉の破片を捉えた。
 青年はその様子に気がついたようで、老人の視線の先を同じように辿っていき、小箱の中の水晶玉を認めた。

「水晶、ですか……」

 言いながら青年はクラーウに近づいていき、一つの欠片を手に取る。
 と——。

「な、なんだ……っ?!」

 突然、透明な水晶の欠片が石楠花しゃくなげ色にぼんやりと光りだした。手に持っている欠片は、その中心から紅色に染まっていく。

「…………これは……」

 青年は驚いた様子で輝く欠片を見つめた。
 その光は時が経つにつれて増幅していき、その刹那、欠片から放たれた一筋の紅い光が瞬時に物置へと伸びた。

「………」

 青年は口を一文字に結ぶと、水晶玉の欠片を机の上に置き、物置部屋を振り返る。そのままコツコツと足音を響かせて物置へ向かい始めた。

 物置部屋の奥の方では、キリとアスカが顔面蒼白で身を寄せ合っていた。

 物置部屋の前で立ち止まる青年。
 険しい表情を浮かべ、青年が物置部屋の扉にガッと手をかけた時だった。

 キリとアスカが「見つかるっ——」と身を固くした時だった。


——ドンドンドンッ。


 突然、店の表側のドアが激しく叩かれた。

「っ……。この気配、ウェルリア兵か………」

 軽く舌打ちをしてそう呟いた青年の言葉通り、扉の向こうには銃を構えた二人のウェルリア兵が佇んでいた。

「どこの誰じゃ」

 クラーウが否定的な響きを含んでドアの向こうの招かれざる客人たちに声をかける。
 それを皮切りに、ドガッと乱暴にドアが開かれ、ウェルリア国の軍服に身を包んだ二人の兵士が立ち入ってきた。


 店内に踏み込んだウェルリア兵たちがそこで目の当たりにした光景は、机に向かって時計を修理している老人と、その作業を、何をするでもなく、ただじっと見つめている青年の姿であった。

「おいっ、クラーウの爺さんよお」

 銃を構えながら、ウェルリア兵たちが言う。

「オレらはウェルリア兵だ。国王様のご命令により、これからこの家を隅から隅まで洗いざらいに調べさせてもらうぞ」

 しかし老人と青年は、まるで聞こえていないかように、さっきと変わらず黙々と作業を続けている。
 そのような態度をとられ、プライドの高い兵士は憤慨した。
 その内の一人が悪態を付きながら、近くにいた青年の胸ぐらに乱暴に掴みかかった。
 次の瞬間、「あっ」と悲鳴に近い声を上げる。

「お、おおおお前は、兵を逃げ出した、イズミっ…………!!」
「おや。誰かと思ったらリークくんじゃないですか」
 
 イズミ——そう呼ばれた青年は、見知った顔の人物に、ふぅと軽くため息をつく。
 そして、

「何もそんな幽霊にあったみたいな声を出さないでくださいよ。僕のガラスのハートが軽く傷ついたじゃないですか」
「軽口叩くなっ!……お、お前、…………まだこの街にいたのか」

 イズミの胸ぐらを掴んでいた手が緩む。
 驚きを隠せない様子だ。

「僕がこの街にいるのは僕の勝手です。悪いですか?」
「せっ、先生たちが探してんだぞ。み、見つかったら……!」
「大変なことになりますねえ。けど、君たちが先生に告げ口さえしなければ、僕は今まで通り平和に暮らせるんですよ。ねえ?」
「………っ!!」

 イズミにそう言われ言葉に詰まった兵士は、周囲を見回すと、咄嗟とっさに机の上にあったいびつな形の【小箱】を掴み取っていた。
 そして、

「こ、【これ】を……。っ【これ】を返して欲しければ、せいぜいおめかししてお城に遊びに来るんだなっ!」

 勝ち誇ったように、そうわめく。
 そうしてもう一人の兵士に「帰るぞ」と命令すると、連れの兵士は敬礼して店の外へ出ていった。
 引きつった笑みを浮かべているもう一人の兵士もドアの前に立つと、 最後、振り向きざまに、

「イズミぃ!オレはな、お前を捕まえて、一番上のSランクになってやるんだからな!覚えてろよっ……!!」

 捨て台詞を残して、店を後にしたのだった。

 ウェルリア兵二人の姿が見えなくなったを見届けてから、途端にクラーウ老人は、溜めていた長い息を吐いた。

「全く……。えらい目にあったわい」

「良かったですね」
「まあ、お前さんに感謝じゃな。しかしお前さん、本当に元兵士だったん………あ、おいっ!」

 クラーウの話を背中で受け流しながら、イズミは先ほど邪魔が入って成し得なかった任務を遂行しようとしていた。
 無言で物置部屋の前に立ち、物置部屋の引き戸に手をかける。

「やめるんじゃ!」

 クラーウは思わず叫んでいた。

「裏口から逃げるんじゃ!アスカ!キリ!」

 その言葉を耳にし、キリは直ぐに立ち上がっていた。
 恐怖と焦りでバクバク高鳴っている心臓を押さえ込みながら、冷静さを必死に保とうとする。

「キリ!裏口はここだ!」

 アスカがいち早く物置部屋の隅に裏口を見つけた。が、あろうことか、裏口前には沢山の資材が積み上げられていた。

「爺さんの奴……。普段、ここ(裏口)使ってないだろっ……」
「早くっ!物を退かさないとっ……!」
「って言ってもなあ……、オレ一人じゃこんな大きなモノ……」
「私も手伝うから!ホラ、ここ持って!」

 必死になっている二人は、なりふり構わず共同作業で資材を退かそうと態勢を屈めた。その時だった。

『ガラッ——』

 その音は妙に乾いて部屋に響いた。
 イズミが物置部屋の引き戸を開けた音だった。

「これはこれは…………」

 目を丸くさせて、イズミが呟く。

 キリとアスカは互いに、はた、と顔を合わせると、即座に飛び退くようにして背中を向けていた。顔が火照っている。そんな様子を笑顔で見届けるイズミ。

「青春ですねー。それよりも、ハイ。観念して出てきた方が、身のためだと思いますよ?」

 穏やかな表情でイズミはそう言った。


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