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- Re: 【8章更新】眠れる華と紅い宝石【参照100突破 企画募集中】 ( No.37 )
- 日時: 2013/06/25 10:38
- 名前: 明鈴 (ID: c.0m5wa/)
■CHAPTER9■ 良心の呵責- conscience -
「詳しく説明してもらいましょうか。クラーウご老人」
いつもはクラーウの仕事場になっている机を取り囲んで、キリ、アスカ、クラーウは、イズミに問い詰められていた。
クラーウ氏がちらりとアスカの姿を確認すると、アスカは手をギュッと握って、項垂れていた。
「その前に。まずは、軽く自己紹介しておきますね」
イズミはそう言うと、にっこりと笑って、
「僕はイズミと言います。元々ウェルリア国の兵士だったんですが、訳あって今はしがない研究員をしています」
自己紹介を終えると、次にキリに名乗るように促した。
キリはしばらく自己紹介をしようか否かと戸惑っていたが、おほんと大きく咳払いをすると、イズミに向かって口を開いた。
「私はラプール島から来たキリ。さっきアスカに、とおーっても大事なものを壊されたんで、直してもらいにここにきましたっ」
言いながら、目線はバッチリと隣に座っているアスカを睨んでいる。
アスカが何か言いたそうに口を開き、それからすぐに押し黙った。
それを聞いていたイズミは大きく頷いた。
「キリさん、ですね」
名前を確認してから、
「ところでその大事なもの、というのは? 」
「ああ。それならこの机の上に……」
そこまでいって、キリは突然黙り込んだ。
無いのだ。見当たらない。
椅子から立ち上がって、辺りを見回す。
【小箱】は、いずこ……?
そんなキリの様子をみて、イズミが引き攣る笑みを張り付けて「もしかして、」と聞く。
「それって、歪んだ小箱だったり、します?」
「しますします!まるっきりそれです」
イズミはクラーウと目を合わせた。
間違いない。
ウェルリア兵が先ほど城に持ち帰っていってしまった、あの箱である。
- Re: 【8章更新】眠れる華と紅い宝石【参照100突破 企画募集中】 ( No.38 )
- 日時: 2013/06/28 03:37
- 名前: 明鈴 (ID: OMeZPkdt)
「あの、キリさん。実はですね……非常に申し上げにくいんですが…………」
キリが「ほへ?」と首を傾げる。
一呼吸のち。
「その大切な【小箱】、先程ウェルリア兵の皆さんによって、お城に誘拐されてしまいました」
「ええええええっ?!」
キリが机をバンッと強く叩いて立ち上がる。
無理もない。何せ、他人の大切なものを預かったにも関わらず"壊して"しまい、しかも"盗まれて"しまったのだから。
「リィさんに合わせる顔がない…………」
半ば放心状態のキリ。
そんなキリをよそに、その元凶でもあるはずのアスカがじっとりとした目でイズミを見ていた。
「で? オレは自己紹介しなくて良いのかよ」
アスカの言葉に、ああ、とイズミが爽やかに答える。
「それは大丈夫です。分かってますよ。ウェルリア国第一王子のアスカ……」
アスカが慌ててイズミの口を塞ぐ。
「なな何言ってるんだよ! 違うって! 元ウェルリア兵だか何だか知らないけどな、王子じゃないっ。オレは"平民"のアスカだっ! わかったな!」
声はイズミの二倍も三倍も大きかった。必死の形相だ。
イズミはこくこくと頷くしかなかった。
因みにアスカが一番このことを知られたくない人物——キリは、というと、【小箱】を盗まれたショックで未だ放心状態であった。イズミの発言は耳に届いていないらしい。
アスカ、間一髪。
「アスカ王子、い、息が出来ないので手を離してください……」
アスカの手の下で、手を退けるように言ったイズミは、アスカに「だから王子言うな」と突っ込まれる。
と、そこで突然甲高い声が響いた。
「決めたっ!」
それは放心状態であったキリが発したものだった。
「お爺さん、アスカ、イズミさん。【小箱】をお城に取り返しに行きましょ!」
突然の提案に呆気にとられる男衆。
しかし、この状況を創り出す過程を踏んだのは、間違いなくアスカとイズミである。これは動かし難い事実だ。
「てなわけだから、アスカ、イズミさん、一緒に来て!」
「わしは……?」と少し寂しげに問うクラーウに、キリは、
「お爺さんはお店があるからと思って」
「そうじゃな。ふむ」
あっさり納得するクラーウ氏。
それで良いのかと呆れているアスカに、キリの言葉が突き刺さる。
「だから、アスカとイズミさんに付いてきて欲しいの。元はと言えば、こうなったの、二人のせいなんだからねっ!」
「ぐっ……」
呻くアスカに、イズミがその頭に軽くポンッと手をのせる。
そして、
「そうですね。なんにしろ、僕もいずれはお城に行こうと思っていましたし、……ちょうど良い機会だ。お供させてもらいます」
笑顔で言う。
「よろしくね、キリさん」
「ありがとうイズミさん……!」
立ち上がって握手を交わす。
そして次に顔を伏せているアスカを見るキリ。
「アスカも、来てくれるよね」
「なんでオレが……!」
「なにようっ……!」
キリは口をつぐむと、溜めていたものを吐き出すかのように、喋り始めた。
「元はと言えば、アスカが急に飛び出さなければ小箱の中身は壊れてなかった。つまりここには来てなかった。つまりのつまり、ウェルリア兵なんかに小箱を持ち去られることはなかった」
弾丸のように口から溢れ出す言葉の数々。それらは次々とアスカの良心に突き刺さっていった。
——そう。全ての元凶は、オレ……か。
到堪れなくなって、アスカはまた下を向いた。
そして、
「分かったよ。行くよ、一緒に」
キリの顔がぱああっと輝いた。
かくして、キリ一行はこれから【小箱】を取り返す旅に出るのだった。
……半ば強引に。
- Re: 【9章更新】呪術師、眠れる華と紅い宝石【企画募集中】 ( No.39 )
- 日時: 2013/07/03 01:52
- 名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)
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一方で、その頃のリィはというと。
喫茶店を後にして、待たせていたキリに侘びを入れるつもりで勢い良く石畳の道に飛び出したリィは、そこでキリの姿が見当たらないことに気がついた。
「あら……キリ…………?」
慌てて辺りを見回すも、それらしい姿はない。
何処に行ったのかしら……。あのキリのことだから、まさか頼まれごとをされた状態で一人で何処かに行くとも考えられないし……。
じゃあ、何処へ?
とりあえず、手当たり次第にキリがいそうな場所を当たってみよう。
リィは急ぎ足でウェルリア国城下町に赴いた。
街中なら、なんらかの情報が手に入るかもしれない。
そう思って辿り着いたリィは、そこで、街中の異様な騒ぎに巻き込まれていた。
ウェルリア兵たちが複数人、街中を徘徊していた。
無理やりにでも家に押し入ろうとしている兵士。行き交う通行人に事情聴取を行っている兵士。
国民たちも国民たちで、必死に誰かを捜しているようなのである。それこそ、血眼になって。
頭の回転の速いリィは、その光景を見て、直ぐに察した。
そうか。皆はウェルリア国の正統な後継者である第一王子を捜しているのだ。
見つけたものには褒美を与える——王のおふれで、このような混乱を招いているのだ。
「全く……。親馬鹿にもほどがあるわねえ」
ため息混じりにそう呟くリィ。
しばらく混乱の渦中にある街中をゆったりと縫っていると、前方の店から二人組の兵士が現れた。
手にしているのは、見覚えのある【小箱】。
「え……?」
まさか、そんな。でもあの箱は……。
疑心暗鬼に駆られているリィは、息を殺して二人の後につくことにした。
もしかしたら、キリの行方の手がかりが掴めるかもしれない。
「しっかし驚いたよなあ」
「ああ。まさか"クラーウ時計店"にイズミがいるなんてな」
「王子探しでもしていたのかな」
「かもなあ。無一文だと思うからよ」
がはははと兵士共は下品に笑い、それから一人が急にトーンを落とした。
「で、この箱、なんなんだよ」
「分からん。中身は水晶のようだが……とにかく、城に持って帰るんだ。奴が取り返しに来るに違いない」
その言葉を盗み聞いたリィは、人知れず踵を返すと、周囲に目もくれず、走り出していた。
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