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- Re: 【9章更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.42 )
- 日時: 2013/07/03 01:53
- 名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)
■CHAPTER10■ 予想外の襲撃-Visitor-
「キリっ!」
叫びながら駆け込んできたのは、見知った顔だった。
綺麗な長い黒髪を靡かせて。その顔には安堵の表情が伺える。
「リィさん?!」
キリはそう叫ぶと、優雅に啜っていた紅茶のカップをガチャンと机に置いていた。
駆け込んできた女性を驚きに満ちた表情で見る。
「なんで、ここに?!」
「それはこっちの台詞よ、キリ」
そう言いながら珍しく険しい顔つきで歩み寄ってきたリィ。
キリは思わずギュッと強く目を瞑った。
——怒られるっ……!!
が、キリの予想に反して、キリはふわっと包まれるように優しく抱きしめられたのだった。
リィの良い香りがキリの胸いっぱいに広がった。
「キリ。……無事で、良かった」
優しい声色がキリを包む。
キリは、途端にぶわっと目に涙を溜め、リィにしがみついた。
「ごめんなさい、リィさん。私、リィさんの大切なもの、壊してしまって……。盗まれ、ちゃって。……本当に、ごめんなさい」
「いいわよ。キリが無事で、本当に良かったわ……」
「リィさん……リィさん……。ごめんなさい…………」
「キリ……」
ギュッと抱きしめるリィにしがみついて鼻水を啜るキリ。
そんな二人の世界を蚊帳の外で見ているしかない男衆。
リィがふとキリから身を離す。
「あら……」
男衆を一瞥し、キリに聞く。
「ところで、この人達、誰かしら?」
涙を流しながら苦笑いするキリに、イズミがリィに一歩近づいた。
「申し遅れました。僕はここウェルリア国で研究員をしています、イズミです」
次いでクラーウが慌てて口を開く。
「わしはこの時計店の主人、クラーウじゃ」
「オレはアスカだ」
「あらあ、キリがお世話になっています。ラプール島から来ました、キリの育て親のリィです」
3人は横一列になってリィと挨拶を交わした。
朗らかな表情で応答するリィ。
その顔を何故かイズミは無言でじっと見つめていた。
それに気がついたリィが声をかける。
「あの……何か、ついてます?私の顔に」
「いえ…………」
唐突にイズミがギュッとリィの白い手を握り締めた。
アスカとキリはその光景を目の当たりにし、思わず赤面する。
「えっと……。イズミさん?」
「貴方は…………」
手を握り締めたまま言うイズミの瞳は微かに揺らいでいた。
「一度何処かでお会いしたでしょうか」
「いえ……」
何が何やらさっぱりといったリィが疑問符を浮かべながらイズミの質問に答える。
イズミはふうと息を吐くと、その手を離した。
「そうです、よね。……突然すみません。僕の思い過ごしでした」
顔を伏せてリィから身を引く。
それから顔を上げると、その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
「さて。これから、どうします?」
イズミの言葉に、キリが慌ててリィに向き直る。
「そうなの。リィさん!」
ん?と微笑んでキリを見るリィ。
その表情にキリはグッ、と息を詰め、しかし、続ける。
「あのね、リィさんに渡された【小箱】なんだけど、ね。その……ウェルリア兵に取られちゃったの。だから、お城に行って【小箱】取り返してくる。だから、リィさんと一緒にラプール島には帰れない。…………だから……」
「キリ……」
「リィさん、お願い。この二人と【小箱】をお城に取り戻しにいく。ね、いいよね」
「…………」
しばらく困惑気味のリィであったが、キリの真剣な眼差しを見据え、頷いた。
「分かったわ。ありがとう、キリ。【小箱】、取り返してきてね」
「うん」
「無理はしないのよ」
「うん」
思いつめた様子でキリを諭すと、リィはイズミとアスカに振り向いて言った。
「キリを、よろしくお願いしますね」
「はい」
ゆっくりと頷くイズミ。
「必ず貴女の【小箱】を取り返してみせます」
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同時刻、ウェルリア城へと続くとある道にて。
クラーウ時計店から飛び出すようにして出てきたウェルリア兵二人が【小箱】を手に、悠々と歩いていた。
「王子探しに、とんだラッキー星が飛び込んできたな」
「【これ】でイズミを兵に連れ戻したら、俺たち、一気に昇格できるな!」
兵士二人はガハハハと大笑いしていた。
殺気立った複数の人間に取り囲まれていることには、微塵も気づかずに。
「止まれっ!!」
突然、道の路肩からガタイの良い男たちが数人飛び出してきた。
その顔は、三角折にしたバンダナで覆われていて、把握できない。
「なっ、何者だ貴様らはっ!」
いきなりの襲撃に焦る兵士。
慌てて銃を構えようとするが、しかして首元にナイフを突きつけられ、二人はあえなくホールドアップするしかなかった。
「その手にしているモノをこちらによこすんだ」
「こ、この【小箱】を、か……」
「つべこべ言わずに、こちらに渡せっ!」
その声は有無を言わさない迫力に満ち満ちていた。
兵士は湧き立つ震えを必死で抑えながら、おそらくは首領の男に、あっけなく【小箱】を手渡していた。
「確かに。【あの方】に言われた【例の箱】だ」
手渡された【小箱】を一瞥すると、男たちは一瞬にして現場から立ち去っていた。
あとに残されたウェルリア兵二人は、呆然と道端の真ん中で座りこんでいた。
それからしばらく、兵士二人は恐怖のために立ち上がれなかったのだった。
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