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Re: 【コメ待ち;】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.72 )
日時: 2013/07/03 02:14
名前: 明鈴 (ID: 607ksQop)

■番外編■ ウィルア兄妹の日常-The volume on extra-


「ユメノお前なあっ! だからこっちに来るなって言っただろ!」
「なんで怒るのだっ。ユメノのお陰だぞ!」
「お陰で良い迷惑だ! もう、オレの部屋から出ていけーっ!」

 どんがらがっしゃんと物凄い音を立てて、ユメノは強制退室させられていた。
 アスカはそんなユメノに見向きもせず、20帖もある自室のドアを勢い良く閉める。その扉には凝った装飾が施してあり、ウェルリア王国の正当な後継者である威厳を示している。

「ひっ……」

 勢い良く閉め出されたユメノはドアの前に座り込み、大粒の涙をボロボロと溢した。
 ひくひくと勝手に鼻が動き、口元が引き攣る。しまいには一人で泣き喚いていた。
 
「兄上の、バカあああああっ!!」

 その耳をつんざく様な甲高い声は、だだっ広い廊下内に響き渡る。
 ただ、このような兄妹喧嘩は日常茶飯事であったため、別段周りからの反応は無い。
 しかして、ドアを隔てた向こう側でやかましい足音が聞こえた。
 その音が止むと、ドアの隙間から顔をしかめたアスカが顔を出し、

「だからうるさいって……!」

 ユメノの顔を一瞥して、ユメノが号泣していることに気がつく。

「言ってる…………」

 声は徐々にトーンダウンしていた。

——女を泣かせてしまうと、ロクな目に合わない。

 アスカは咳払いをすると、後ろ手にドアを閉め、座り込んでいるユメノに目線をあわせた。

「ご、ごめんってユメノ…………そんな……別に泣かそうとするつもりは…………」
「じゃあ続きもやらせてほしいのだ」
「それだけは断固として、拒否するっ!」

 勢い良く突っぱねるアスカ。

「あの『5000ピースのパズル』は、オレが完成させるんだっ!」
「じゃあやっぱり……ユメノは…………邪魔者……なのだな……」

 再度しゃくり上げるユメノに、アスカは困惑した表情を浮かべた。

 パズル5000ピース。半年かけて、やっと今日、完成の一歩手前まで来た。
 完成まで、残り三分の一。
 完成には自分自身の力でこぎつけたかった。
 しかし、先程、ユメノが部屋に勝手に侵入してきて勝手にパズルを四分の三ほど完成させてしまったのだ。

——悔しさ極まりない。

 なので、残りのピースは何としてでも自分の手ではめたかった。
 だが、今この状況下でユメノを無下にすることはアスカには出来なかった。
 思い通りにならなかったユメノの"復讐"は恐ろしいものなのである。
 今日の夕食会ではスープに"食塩"を大量に投入されるかもしれない。
 もしくは、今日の入浴中、着替えにクワガタムシを忍び込ませてくるかもしれない。
 
 こないだなんか、朝アスカが寝台の上で目覚めると、天井に首吊り状態で猫のぬいぐるみがぶら下げられていたのだ。——6歳の妹の心理攻撃。心臓に悪い。

 アスカは今までの悲惨な記憶にぐっと息を飲むと、言った。

「…………分かったよ。じゃあ。最後のピースはオレがはめるんだからな。一緒に、やろう」

 ユメノの涙が瞬時にとまった。
 その涙がもはや本物なのか偽物なのか、アスカにとっては、もうどうでもよかった。