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Re: 【番外編3*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.85 )
日時: 2013/07/08 16:04
名前: 明鈴 (ID: UPSLFaOv)

■番外編4■ 最終回(了)・ウィルア兄妹の日常-The volume on extra-


「アスカ王子、失礼致します〜」
「…………」

ウィンクがアスカの部屋をノックする。が、案の定、部屋から返事はなかった。

「し、失礼致します、よお……」

立派な装飾が施されたドアを開き、ウィンクは恐る恐る部屋の内部に入り込む。

部屋の中では、アスカが腕を組み、無言でパズルとにらみ合っていた。
ウィンクはアスカの座っている椅子の後ろまで近づくと、その場で勢いよく頭を下げた。

「さ、先程は申し訳ございませんでしたっ!」
「……良いよ、別に」
「は、い…………?」

あまりに素っ気ないアスカの言葉に、ウィンクは慌てて言いかえそうと努める。

「いや。アスカ王子、そのですねっ、ワタクシっ——!」
「"気にしてない"って、言ってるだろ」
「で、ですが……その……」

なおも何か言おうと焦っているウィンク。
アスカは黙り込むと、それから突然机をバンっと叩いて立ち上がった。

当然びくりと体を震わせて静まり返るウィンク。

「だから、もう大丈夫なんだって、……言ってんだから、さ。オレのこと、放っておいて欲しいんだ。…………この言葉が理解出来たんだったら、とっととこの部屋から出てってくれ。……ウィンク、"うるさい"んだけど」

その声はアスカの口から抑圧的に放たれた。
ウィンクに対する否定的な感情が顕著であった。

ウィンクはその言葉に薄っすら涙を浮かべると、

「もっ、申し訳ございませんんんっ……!!」

慌てて頭を下げ、それから猛ダッシュで部屋をあとにする。
扉付近まで来た時、またしてもスカートの裾を踏んづけてしまい、そこでウィンクは盛大に床にこけた。そしてそのまま起き上がることは、無かった。

アスカはその様子を黙って傍観していたが、いつまで経っても起き上がらないウィンクに小さく息を吐くと、ウィンクを助け起こすために椅子から腰をあげた。
と、そこへ、

「アスカ兄上ええええ……!!」

ドアの向こう側で中の様子を伺っていたのか、ユメノが扉を勢いよく開けて飛び込んできた。

その際にユメノの開け放った扉がウィンクに直撃し、ウィンクは床に突っ伏したまま、無言で頭を抱えてうずくまった。

「なんだ、ユメノ」

アスカが椅子から立ち上がり静止した状態のまま、突然の来客を冷めた目で見やる。

「あっ、兄上に、……お願いがあってきたのだ」

ぐっと唇を噛み締め、ユメノはゆっくりとアスカに近づいてゆく。
ウィンクが床に突っ伏して呻いているが、それは存在しない者として、今は努める。
アスカに歩み寄りながら、ユメノが言った。

「兄上。いい加減、機嫌を直してはどうだ?」
「…………」
「なんだ、黙り込んで。……一国の王子ともあろう者が。"器の小さい男"だな」

その言葉に、アスカは思わずユメノに詰め寄っていた。
対峙する兄妹。刹那静まり返る室内。

20センチ以上の身長差があるユメノを見下ろして、アスカが息を吸った。

「ユメノ、お前今、……言ってはいけないことを言ったな」
「なんだ? 本当のことを言ったまでだぞ。パズルごときでグダグダと……いつまでも不機嫌でおってからに」
「お前なあっ……! あのパズルはオレが半年もかけてやっと完成させようとしていたモノなんだぞ?! その言い草はないだろう!」
「そっ、それでも、……あれは、…………不幸な事故だったのだ」
「例え『不幸な事故』だったとしても、オレの半年間が無駄になったのには代わりないっ!!」

ぐっと拳を固めて言い合うアスカ。
ユメノは小さい体で懸命にアスカに向き合うと、身体を震わせながらも、なおも言った。

「それでもっ、……う、ウィンクを、………う……許してやって、欲しいの……だ」

最後の方は声が震えて、言葉にならなかった。
懸命にこらえているユメノの目から、キラリと光るモノが、一粒、二粒、こぼれ落ちた。
それは頬を伝って、ユメノの洋服に染み込んでゆく。
そして次の瞬間、その目からはとめどなく涙が溢れ出していた。

「うっ、……うわあああああんっ!!」

遂に堪えきれなくなって、ユメノは泣き出した。それでもアスカに向かって何か言おうとするのだが、しゃくり上げるので、上手く聞き取れない。

両手で涙を拭うユメノを目の前にして、途端にアスカの表情に困惑の色が浮かび上がる。

慌てた様子で、
「な、泣くなユメノ。な? ……っ分かったから。ウィンクのことは許すから。な?」
そう言いながら泣き喚くユメノの周りでオロオロするしかない。

と、ユメノはその言葉を聞いて、はたと泣きやんだ。

「それは本当か?」

ぴたりと止まる涙。
都合の良いものである。

「ああ、本当だ。男に二言はない」
「兄上っ……!」

ユメノは涙目のまま満面の笑みを浮かべると、

「う、わっ……! ちょ、ユメノっ…………お前っ……!」

アスカに飛びついていた。

しかし、その反動があまりに大きすぎて、ユメノを支えきれなかったアスカは、ユメノの体重を直に受けたまま後ろへよろめいて、

「っあ…………!!」

背後にあった机へユメノと共に倒れ込んだ。
机の上には、今回の元凶になった例のアレが。

「っああぁぁああああ……!」

アスカが大きな声を上げて思わず机の上から飛び退く。

悲壮感に打ちのめされているアスカの目の前に飛び込んできたのは、またしてもただの破片ピースと化してしまったパズルであった。

「せ、せっかく数時間かけて500ピースはめたのに……また一からやり直さないといけなくなってしまった…………」
「まあまあ。また手伝ってやるぞ。ユメノがな」
「お前なあっ……!」

ウィルア兄妹がそんな会話を交わしている中で、やっと起き上がったウィンク。

その様子を傍観しながら、ウィンクは、

「国王様、ウェルリア国は今日も平和です」

笑顔でそう呟くのだった。


後日談。そのパズルは結局未完成のまま放置されることとなったのは、言うまでもない。

【番外編】-Fin-