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Re: 恋芽生え、愛咲く〜『喜恋・悲恋』恋愛〜【短編集】 ( No.44 )
日時: 2013/07/07 13:54
名前: 珠紀 (ID: XpbUQDzA)

『甘〜いチョコレートの味』【オリジナル】

谷島樹理 Juri Tanishima

久住雅人 Masato Kuzumi

*Start*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

バレンタイン2週間前。
浮き足立つ世の中で…
告白するとか以前の問題がここに。

「………」

また失敗した。

私、谷島樹理は料理が大の苦手である。
だからこうして、バレンタインに近いということで開かれていた『チョコレート教室』に通っているのだが…
初めてからこの日…成功した試しがない。

「何でだろう…みんなと同じ材料を使っているのに」
「うーわっ何すかそれ。ありえねー」

後ろから悪態の声が聞こえる。

「雅人君!へ、下手だからこそここに通ってるんです!」
「一向にうまくなってないですけどね」
「う…」

分かってるもん。
私だってこんな失敗作、誰にも見られたくないよ…
だけど、ここには
憧れの人がいるから

私は奥の厨房に目を向ける。
そこに立っている男の人が私の憧れの人だ。
『里人さん』

そして、この雅人君はその人の弟。

「樹理ちゃん」
「ひぇ!へいっ!」

いきなり里人さんに呼ばれて声が上ずってしまった。

「へいって…」

雅人君はお腹を抑えて爆笑中。

「雅人君!」
「ははっ樹理ちゃんは可愛いですね」

ポンっと頭に里人さんの手をのせられる。
…やっぱり、優しい。

「ほら、樹理さん帰るんだろ?早く行こ」

ぐいぐいと雅人君に引っ張られ、外に連れ出されてしまった。
…ちょっ
ちょっと〜!?

「もうっ!せっかく話すチャンスだったんだよ!?だいだい何でいつも帰りについて来るの?」
「あーはいはい。すみませんでしたー」

なんという棒読み。

「つか、何で兄貴がいいの?あんた不器用なのにショコラティエ狙うなんてよっぽどバカ?」

ぐぅ…
グサリとくる言葉。

「半年前…学校で落ち込むことがあってね?その時に元気をくれたのが里人さんだったの」
「へー」

自分から聞いてきたのに、興味がないような雅人君。
ってかなんか…怒ってる…?

「あ!そうだ!今日またクッキー作ろうと思うから毒味してよ」
「え…」
「私の家にあがってって」

私がそう言うと雅人君は『は?』っと言うように固まった。

「あ、大丈夫。親はいないから、遠慮しないで」
「帰ります」

即答だ。

「いいからいいから」

私は無理やり雅人君を家に入れたのだった。

                  …***…

「はい、どーぞ」

作ったクッキーを雅人君に出す。

「あれ?見た目はいいんすね」
「それ、どーゆーこと」
「いや、いつも見た目も最悪的なんで」
「ちょっと!」

そんなことを言いながらパクパクと食べ始める。

「ど、どう?」
「…ん、うまい」

雅人君は驚いたように口へクッキーを次々と運んだ。

「本当!?…よかったぁ。これ明日、里人さんにあげようと思ってるの」

ピタリと雅人君の手が止まる。

「ね?里人さん、喜んでくれると思う?」
「いつも…里人、里人…。兄貴ばっかり」
「へ…っきゃ!」

ーだんっ!ー

「い…たた」

急に雅人君に押し倒される状況になってしまった。
唇が近くなる。

や…うそ…

「…やっだっ!ふざけないでっ!」

抵抗をしようと顔を左右にふる。

「ふざけてないです」

え?

真剣な目で見つめられ、心臓がどくんと跳ねる。

「俺、樹理さんのこと好きなんです。ずっと…!」

で、でも…
私は

「でも樹理さんは兄貴が好きだもんな」
「ぅ、うん」

そう…だよ
私は里人さんのことが好きで
…あれ?

「…分かりました。もういいです、さようなら」

パタリと玄関の扉が閉まる音がした。

…これでいいんだよね
本当のこと言ったんだもん
なのに…なんで
こんなに胸が苦しいの…

ー次の日

「あれ?今日は雅人と一緒にいないんですね?」

里人さんが心配そうに話しかけてくる。

「は、はい…」
「僕がバラしちゃうのも何ですけど…雅人の奴、樹理ちゃんのことが本当に大好きなんですよ?毎日送ってあげたり、あとこの間僕が渡した樹理ちゃんの練習メニューを考えたのも雅人なんです。口止めされましたけどね」

え…
雅人君、が?

「これからも仲良くしてやってください。根はとてもいい奴ですから」

そうだ
雅人君はいつも優しかった…
私が気がつかなかっただけで…
私は

「雅人君!」
「え…」

雅人君の方に駆けて腕をガッチリと掴む。

里人さんへの気持ちは憧れで…

「雅人君、ごめんね!私鈍くてっ…雅人君が好きって気づいたの」
「遅い」 
「へ」

勢いよく抱き締められる。

「あーーー…もうっすげー嬉しい」

人を幸せにする一番の魔法は『甘〜いチョコレート』よりも

〜恋する気持ち〜

*End*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー