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Re: 逆ギレマスカット ( No.160 )
日時: 2013/08/07 06:17
名前: 冬の雫 (ID: viAVUXrt)

11恋に揺れるマスカット

「おい鬼灯」

一方、大地をいじってご満悦の舞透が帰るために廊下を歩いていると。

そんな声が聞こえて、アクビをしながら歩いていた舞透は「…あ?」と眠たそうに振り向いた。

「…なんだ、ウサミミか」
「だからウサミミじゃないと言ってるだろう!学習能力のないヤツだな」
「わかったわかった。…何の用?」
「……お前に、話があるんだ」

翔はそう言って、舞透をまっすぐと見つめる。
舞透は「話?」とあからさまに面倒くさそうに顔を顰めた。

「ああ」
「ヤだよ。面倒くさい」
「お前は顔に出した表情をそのまま見事に言ってくれるな」

翔は息をついて、「別に、聞き流してくれてもいいことなんだ」と目を伏せて言った。

「………ふーん」
「聞く気はおきたか?」
「…うーんまぁ…聞き流してもいいんなら」
「……お前はなんて酷い奴なんだ…」

まぁそれはわかっていたんだが、と翔が悩むように眉間を顰めると、舞透は「嘘だよ。話ぐらい聞ける」と相変わらず面倒くさそうに言った。

「…よしわかった。こっちに来い」
「はっ?」

翔はホッとしたように言うと、舞透の腕を掴んでズンズンと廊下を進んで行った。

「ちょ、お前…っ、腕掴む意味あんのか?」
「お前が逃げないためだ」
「…まー紳士なこと」

舞透が意味ありげにボソっとそう言うと、翔は舞透にチョップをしたのだった。

★☆★

「…着いた」

翔がそう言って屋上の扉を開けると───優しい風が、柔らかく二人の間を吹き抜けた。

まだ屋上へと足を一歩踏み入れただけの翔は、「もう話していいか?」と早速言葉を紡ぐ。

まるで、早く言ってスッキリしたい、とでもいうように。

「え?あ、うん」

曖昧にそう零す舞透は、どこか眠たそうだ。

翔は舞透に少し目を細めて、ゆっくりと言葉を運んだ。


「……実はな、オレと弥生…───

付き合うことになったんだ」

「………!」


え、ホントに?と信じきれないように舞透が翔を見る。
翔は、「嘘言ってどうする」と少し怒った。

「…うん。弥生先輩、そっちのが絶対合ってるよ」
「まぁ不良のお前と居るよりはな」
「…言ってくれるじゃん」

舞透が「まぁ、良かった良かった」と自分に言い聞かせるように頷く。

翔はそんな舞透を少し見て───そして、口を開いた。

「お前は?」
「………は?」
「いやだから、お前は好きな人とかいないのか?」
「………は?」
「連続で訊くなよ……」

呆れるように翔が零すと、舞透は「……ん…?」と一瞬頭が回らなかったように視線を上に向けて顔を顰めた。

「……好きな人…?」
「そーだよ。もしくは大切な人。お前の外見だけだったら彼女いてもいいだろ」
「あ"ぁ?」
「あー出た、不良のガンつけ」

翔は半ば舞透で遊びながら、「どうなんだよ?」と急にニヤニヤして舞透に攻めよった。

「……オレは…、」

舞透は考えて、言葉に詰まる。


───あれ、オレに……


大切な人なんていたっけ……?


「過去の彼女とか」

そんな翔の言葉は、適当に言いながらも舞透の図星をついていく。

───結衣。

過去の彼女、と言われると、そんな二文字が浮かんで舞透は「いやでもなぁ……、」と言葉を零した。

死んだ、なんて言えない。
死んでも言えない。

「………今は、いない」
「……ふーん」

今は、ねぇ…と翔が意味ありげに零すと、舞透は「もういいだろ」と半ば面倒くさそうに言った。

「…まぁ、もしいたとしても生徒会長のオレに言ったってどうなるわけでもねぇしな」
「そーゆーこと。…もう帰っていいか?」
「とことん人を苛立たせるヤツだな。……また明日な」

背を向ける舞透に、翔はそう言って軽く手を上げた。
舞透はそれを後ろ目で見て───屋上を後にした。


「───オレの好きな人、か…。」


舞透の脳裏に浮かぶのは、亡くなった愛しい人と───生意気な、あの同級生だった。


ようやく気付いた


好きなキモチ。