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Re: 逆ギレマスカット【12話更新】 ( No.171 )
日時: 2013/08/08 20:50
名前: 冬の雫 (ID: J1W6A8bP)

13試合は実力と勇気と恋心【後半】

試合の前半の結果は、僅差で音高の勝ち。

───後半で巻き返さなければ、大地のチームは負けになる…。


「……まぁこのまま負けてもらった方がありがたいんだけどねー」

すっかりカラになったオレンジジュースの容器をいじくりながら、花はポソッと呟いた。

今は後半試合の真っ最中で、金髪の大地は結構目立つ。
近くにいる観客が「あの兄ちゃん眩しいなー」と笑っていたほどだ。

「そう言ってやるなよ。応援しに来た意味がないじゃん」
「……あんたはいいわよね、気楽で。なんならあんたも大地に何かする?」
「大地におめでとうって言う」
「普通じゃん!」

花はため息をついて、「あ、大地がシュートキメた」と残念そうに言うのだった。

★☆★


『残り時間、あと10分になりました』


試合の時間はあっという間に過ぎて行く。

俺は自分で思うよりも焦っていて、ボールの行く先を、ただただ目で追うことしか出来なかった。

「宮本、パス!」

ビッ、と仲間の手からバスケットボールが離れ、俺の手に渡る。

焦りなんか感じるより先に体が動いていて、ボールをそのまま相手に取られないように仲間にパスした。

「ナイスパスー!」

近くにいた天道がわざとらしくそう叫んで、俺を見てニッと笑う。

そして、「焦るな、大丈夫。まだ二点差」と俺の安心する単語を次々と言っていった。

───そう。

あんなに強いと言われていた音高とは、たったの二点差。

ここでフリースローさえ決めてやれば、もう勝ちも同然なんだ。

大丈夫、誰かが決めてくれれば……───


『残り時間、あと5分です!』


だんだんと強くなっていくその声は、選手の俺たちを更に焦らせるようだ。

あと───5分……───



「宮本っ、決めてくれ!!」



………え?



「頼む宮本!」

そんな声が聞こえたと共に、俺の手元に投げられたのは───バスケットボールだった。

………え。

俺にパスをした奴を見ると、まるで「いけ」というように汗を流しながら一つ頷いた。

それは───俺に賭けている、と受け取ってもいいわけで。

俺はバスケットボールを持ったまま、混乱していた。

「…っ宮本!シュートだよシュート!」

天道が大きくそう言って、はっ、と目が覚めたように視界が明るくなる。

聞こえるのは、選手たちの荒い息遣いと、集まる熱を帯びた視線と、───……観客の、声。

霞む視界に目を擦れば、俺を真っ直ぐに見る姫ちゃんが見えた。


………そうだ。



───…………打たなきゃ。



ダンッ



バスケットボールの弾む音。
俺にはそれしか聞こえない。
さっきまであった観客の声なんてウソのように───バスケットゴールしか、見えなかった。


『残り時間一分でーーす!!!』


マイクから貫かれた声と共に───ガードを一心不乱ですり抜けて、


周りの音が


一瞬止まった。



───ように思えた。



スパ、と音がする。


俺のシュートは───綺麗に、バスケットゴールの網を貫いた。


咄嗟に、遠くにいる姫ちゃんを見上げる。

すると───姫ちゃんはそんな俺に気付いたのか、あどけなく笑った。


「う……わ……───」


やばい。
これはやばい。

姫ちゃんが、俺を見て笑ってる。

あの姫ちゃんが……───


「……かわいい…」


これはやばいだろ。


『セット終了ーーっ、勝者…───』


ワァァッ!!と観客が狂ったように盛り上がる。

俺たちの高校のパネルが、大きく掲げられる。


ウソだろ、俺たち……

「勝った!勝ったぞ宮本!!」

そう言って、天道が駆け寄って抱きついてきた。
俺はどうしたらいいのかわからなくて、とりあえず眼をうるっとさせる。

…ぁ、泣くな俺!!

「天道ぉ……」
「すげーよお前!ほんっとうにありがとう!!」

結果は───俺たちの勝ちだった。

盛り上がる観客は、全て。

目に入らずに、姫ちゃんしか俺には見えなかった。


───────────────


こうして試合は、幕を閉じた。


俺は───姫ちゃんに告白する。