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- Re: 逆ギレマスカット【コメ下さい!】 ( No.34 )
- 日時: 2013/06/27 18:21
- 名前: 冬の雫 (ID: HU9qn.Bn)
★☆★
「……っ……、…」
わたしは恐怖もなにも突然の展開に、あっけにとられて鬼灯を見る。
鬼灯は疲れたようにため息をつくと、わたしの横にそれぞれついている両手を ずる、と下に下ろした。
「………??」
「…ダメだ…、力が出ねぇ」
「……はぁ?」
鬼灯は掠れた声でそう言うと、わたしの頭に優しく手を置いた。
「……っ…!?」
どくん、と心臓が跳ねる。
───こんなの、初めてされた……───
「…ほら、こんなんで驚くくらい女じゃねえか。強がんなよ。───あ〜もう、今日なにも食べてねえから力が出ねぇっ」
嘆くように鬼灯はそう言うと、よろよろと金網から離れた。
わたしは一瞬浮上していた意識を戻して、「……ぁ、どこ行くのよ」と強がって言う。
「戻る」
「教室に?」
「当たり前だろ」
「…はっ、バカ言わないでよ」
わたしは精一杯強がって、まだ治まらない心臓に少しの怒りを覚えながらも、ポカンとするマスカットに言葉を放った。
「あんたはこれから、わたしのお弁当を食べるしかないの」
★☆★
そのときちょうど、二時限めの終わりのチャイムが鳴った。
姫島は「お腹空いたんでしょ。今取ってくるから待ってて」と屋上を出ようとする。
「……お前、変なヤツだな」
「…はぁ?」
「強がったり優しかったり…ホント、変なヤツだ」
「……あんたに言われたくないわよ」
姫島は少し拗ねて、「いいから待っててよ」と最後に念押しをして屋上を後にした。
───なんか、疲れた。
そのままごろんと寝転がって、屋上の冷たいコンクリートの感触を後頭部に感じながら空を仰ぐ。
空はオレの心とは違って、綺麗に澄み渡っている。
なんだろうか、この気持ちは。
嫉妬といっては変だが、“何か”がオレを押しつぶすような気持ちに襲われた。
そう思うと、空の青さも、雲の白さも、全てにおいてオレの方が劣っているという考えに辿り着いてしまうようだった。
『ねぇ、もしも』
唐突に 記憶のかけらが、オレの頭の中に無造作に散りばめられる。
それは全て、閉まっておいた筈の結衣との記憶。
『もしもだよ、私が死んじゃったらさ』
結衣の懐かしいその声が、頭の中で無責任に鳴り響く。
───雲は、こんなオレを置いて悠々とのんきに流れて行くんだな。
『───舞透は、私を愛し続けてくれる?』
「───すか、……マスカット!!」
ぺち、と頬を叩かれた。
一度黒くなった視界が、空の青と姫島の顔を移していく。
「…あんた、今一瞬寝てたでしょ」
「……ぁ…?オレ寝てたの…?」
「一瞬ね」
姫島はそう言うと、はい、とピンクの包みを横になっているオレの横に置いた。
「弁当…?」
「あんたの為にとってきてあげたんでしょ。食べないならわたしが食べちゃうわよ」
「いやいや…オレ食べる」
状態を起こして、弁当を手に持つ。
───小さい。
「…お前…こんなんで足りんのか?」
「女子と男子の食事量は違うの。…文句言うんなら、あげないよ」
「いえ、遠慮なくいただきます」
さっきの怒りはどこへ行ったのやら、オレは睡魔に襲われながらも、包みを開けた。
「眠そうね、マスカット」
「マスカット言うな」
「いいじゃない。わたし、気に入ったわ」
「あだ名?」
「いや」
姫島は、くすぐったく笑う。
オレは姫島がなぜか結衣に見えて、ああヤバイな、と目を擦った。
「あんたのこと、好きかもね」
そう言ってくれて嬉しいよ、───……結衣。