コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 地獄はドSの手によって。【コメ下さい!】 ( No.11 )
- 日時: 2013/06/23 14:33
- 名前: 冬の雫 (ID: VHEhwa99)
2 地獄のひとたち【2】
[地獄、広場]
「小鬼、集合ー」
舞夢がそう言うと、広場の周りにある小さな家からはぞろぞろと小鬼たちが集まってきた。
舞夢は数々の個性あふれる小鬼が全員いることを確認してから、「なんで呼んだかは分かるよな?」と腕を組んで言う。
「舞夢サマの為ならなんでもするよ!」
「ダメ、あたしが先よ!」
「お前ら ケンカすんなよー…」
「あんたは黙ってなさいよっ」
小鬼たちが、口々にそう言う。
舞夢はうるさそうに「お前ら、一回黙れ」と騒ぐ小鬼たちを制して、一つ咳をして小鬼たちに告げた。
「お前らには、やってほしいことがある。
まず一つ目。
今この地獄は、不景気だ。食料は確保できてるが、何よりオレの給料が少ないことが許せない」
千円で何が買えるんだ、と舞夢が適当に小鬼を指差す。
指し示された小鬼、赤いツノの茂野は、「え、ワタシ?」と戸惑いながらも言葉を選んだ。
「…えーっと…、布団?」
「…布団…?…ま、まぁいい。───そうだ、布団しか買えない金を渡されて何が出来るんだってことだ」
舞夢は言いながら、「いやこれちょっと違うな」と思ったことはスルーしておくことにした。
「茂野、お前人間界へ言って金奪え」
「はい分かっ…、…え!?」
「なんだ、一人じゃさみしいか?別にさみしくてもそのまま行かせるが。」
「いやいやいや!待って下さい舞夢さんっ」
「なんだ」
舞夢はうるさそうに顔を顰める。
茂野は「それはさすがにダメですよ!」と主張した。
他の小鬼も、うんうんと頷く。
「お前、オレが誰だか分かってんのか?」
「……え、Sです。ドS」
「それを言うか」
そこは舞夢様だろ、と舞夢は文句を言うが、茂野には人間界へ行くことしか頭になかった。
それもそのはず、地獄の住人は、外の世界へ一歩足りとも出ては行けないのである。
出ると───世にも恐ろしい仕打ちが、待っているとか待っていないとか。
「とにかく、ワタシにはムリですっ」
茂野はそう言って───広場を、出て行った。
「……ったく、融通の効かないヤツだな。オレがこんな性格だって知っててお前らはたかってきたんだろ」
舞夢は顔を顰める。
「そうです、こんな性格だからこそ、舞夢様について行きたいと思ってます!茂野なんかじゃなくて、どうかあたしを!」
「オレはMは嫌いだ」
「えぇっ」
ガン、とショックを受けたのは、小鬼の鳳香。
鳳香はいつも舞夢を見かけては、「舞夢様っ」と引っ付いてくる青いツノの小鬼だ。
「あーらら、また小鬼ちゃんたちいじめちゃってんの?舞夢」
「───如月。余計なお世話だ」
声がした方に顔を向けると、悪魔の如月が居た。
舞夢は如月を見て、「というかお前」と不信そうに言葉を発する。
「悪魔は出入り禁止なはずだが」
「ああ、あんな弱い防備じゃ悪魔は防げないっていう」
「この地獄を治めているのは、実質オレだ。閻魔のじいさんは使い物にならいからな。あの防備は、お前専用に作った。
あれを…どうやって破った…?」
「まぁまぁ、そんなカリカリしないでよ」
如月は能天気に笑って、「せっかくの顔が台無しになるよ」と質問には答えずそう言った。
「うるさい。…というか、さりげなく話をずらすな」
「あはは、そういうとこは鋭いんだから」
「……お前と話していると、気分が悪くなりそうだ…」
大丈夫?とわざとらしく心配する如月を無視して、舞夢は広場を出て行った…───
[地獄、門前]
「舞夢さん舞夢さんっ」
少し不機嫌になりながら舞夢が歩いていると、色素の薄い天然パーマの小さな男の子が駆け寄ってきた。
舞夢は振り向いて、「なんだ、琴音か」と動かした顔を元に戻す。
「どうした」
「助けてください!たった今 広場で、亞夜がまた何かしでかしたるみたいなんです」
「亞夜が?」
鬼である琴音は、大きな瞳をうるうるさせながら「もう亞夜にはいつも困ってるんですよ」と嘆く。
舞夢は少し考えて、「いつものことじゃないか」と言い放って再び歩こうとした。
───亞夜とは、亞代の妹である。
見た目が本当にそっくりで、区別するために亞代は着物の花の柄の色を落ち着いた紫に、亞夜は明るい黄色に染めているのだ。
亞代はこの地獄を仕切っている舞夢に給料をやる程 上の立ち位置だが、一方の亞夜はよく地獄のみんなを困らせる存在だ。
───だからか、舞夢は亞夜があまり好きではない。
理論的に事を立証する亞代とは違って、亞夜は立証も何もない。
「行かないでください!ぼく、みんなが困ってるのほっとけなくて」
「放っとけ。亞夜を止めたってオレの給料が上がるわけないんだし」
舞夢は興味の失せた目でそう言うと、琴音は何も反論できなくなった。
舞夢は、「この地獄界の長は?」と尋ねた。
「……Sです、ドS」
「……。…そこは舞夢様、だろ」
「だってSなんですもん」
琴音は嘆いて、「つい先日は、ぼくの金棒割りましたよね」と、もうどうにでもなれというように涙目で言った。
「ああ、あれは事故だ」
「嬉しそうに顔が歪んでますけど!?」
「気にすんな、元からだ」
「いや違いますよね?普段の舞夢さんはもっとクールな顔してますから!」
舞夢はそんな琴音にもう一度「気にすんな」と言うと、無表情に戻って前を歩き始めたのだった。
舞夢のいない門の前で、琴音は「亞夜どうしたらいいんだろー…」と疲れたように掠れた声で言葉を零した。