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Re: 地獄はドSの手によって。【コメ下さい!】 ( No.16 )
日時: 2013/06/24 23:00
名前: 冬の雫 (ID: VHEhwa99)

3 番犬はドSの手によって。

[地獄、門]

地獄の門では、巨体の閻魔が、しゃくを持って困ったようにうなだれていた。

前にいた閻魔の使いの戒徒カイトが、「どうしましょうか」とキリッとした顔のまま言う。

「私も…なんて言えば良いのやらわかんないんだネ」
「それじゃ困ります。俺は使いとして、任命を果たさなければならないんですから」
「……うー…ん……」

閻魔はもう一度うなだれると、「…とりあえず、今の状況を整理してくれネ」と息を吐くのと同時に、言った。

「地獄の住民たちの家の集まり『ハウシング』に、地獄の番犬ケルベロスの濠呉ゴウゴが乱入したんです。興奮しているようで、食料をいくつか奪いながら今も暴れています。」

戒徒はそこまで話すと、「もうイイでしょう、早く濠呉への罰を下してください」と急かすように言った。

「そこが問題なんだがネ…濠呉は、前にも一度こんなことがあって罰を下したつもりだったんだがネ」
「あいつはわがままですから。なんならこの手で切り裂いて犬鍋にしましょうか」
「いやそれは怖いからやめてくれネ」
「……ちっ……」
「今舌打ちしたネ!?」
「…なんでもないです。閻魔様、ご判断を」

片足を立てている戒徒が、真っ直ぐに閻魔を下から見つめる。
その青い瞳からは、「早く言え」と急かす気持ちと、「従う」という従順な気持ちが溢れていた。

「……濠呉を…とりあえず、ここに連れてくるんだネ」
「はっ」

戒徒は潔く敬礼をし、次の瞬間にはその場から素早く消えたのだった。

[地獄、ハウシング]

「オラお前らぁ!食料出せ食料ぉ!!」

ハウシングでは───只今、地獄の番犬ケルベロスの濠呉が絶賛大暴れ中であった。

濠呉は自らの蛇の尾を振り回し、食料を無造作に奪い取っていく。

「早く食料出せおら「おい」…あぁ!?」

濠呉が叫んでいると、後ろから低い声で呼ばれ濠呉は振り向く。

───すると目の前にいかにも斬れ味の良さそうな刀の先端部があり、勢い良く振り向いた為に先端部が濠呉の目に掠った。

「……いっっっったぁああっ!!!!」

濠呉は目に襲いくる痛さに悶え、叫びを上げる。
だが次には目から血を流しながらも、怒りでもう一度大勢を整え目の前の相手をよく見た。

「…誰だよてめっ…、…え…?」
「…濠呉、お前、こんなことしてどうなるか分かってるな」
「……ひ、ひぃっ…!」

怯え上がる濠呉。

濠呉の視線の先には───地獄一のドSとされる、地獄の番人舞夢がいた。

「…ま、まいむ…っ…、…」
「濠呉、そういえばお前の娘がさ」
「……は…?む、娘…っ?…あ、あいつがどうした!?」

濠呉の目の色が娘の心配をする親の色に変わるのを舞夢は見逃さない。
悪どい笑みで、笑った。

「…オレの所に夜中やってきて、一緒に寝たいって言ってたんだ」
「……!!!!
う、ウソだろっ!?お前はどうした!?」
「オレはなんもしてねぇよ……。ま、憶えてねぇだけかもだけどな」
「……お、お前ぇっ…!!」

濠呉は怒りよりも、娘に裏切られたという悲しみが大きかったらしい。
舞夢の言葉にまんまと挫折し、芽から出る血を拭わないまま濠呉はその場に倒れた。

「閻魔のじいさんからの罰をしっかり償え。……父親失格のケルベロス」
「……それは言われたくなかった…」

舞夢は鼻で笑うと、ざわざわとざわめくハウシングを後にしたのだった。

[地獄、広場]

広場には、そこを真っ直ぐに横切る着物姿の男が居た。

───舞夢だ。

舞夢は淡々と足を進め、横に付いてくる小鬼三匹に視線を移す訳もなく広場を横切っていた。

小鬼三匹は、緑のツノが雷地ライチ、黄色のツノが銘地メイチ、黒のツノが彩地サイチ
銘地だけ唯一女の、三人兄弟だ。

「舞夢サン、僕ら見ましたよ」
「言葉攻めでしたねっ」
「なんか不機嫌じゃねぇか、舞夢」

それぞれそう喋ると、反応しない舞夢に首を傾げた。

───そして 小鬼は耳が良い為か、遠くから聞こえた足音らしき音に同時に振り向く。

振り向いたと同時に、舞夢と同じ真っ黒の着物を着た人物が近づいて来た。

「…あのっ、すみません!」

その男は、息を切らして舞夢を呼び止める。
舞夢はピタリと足を止めると、ゆっくりと振り向いた。

「何か」
「…さっき、濠呉を仕留めた方ですか?」
「……はぁ…」

舞夢はやる気の無さそうな声でそう答える。
小鬼兄弟は、そんな舞夢を見てヒソヒソと話し合った。

「舞夢サン絶対眠そうだよね」
「うん、眠そうっ」
「だな」
「ところであの男の人誰なんだろっ」

銘地がそう言い、雷地と彩地は男に視線を向ける。
男はそんな小鬼たちは気にせず、言葉を発した。

「俺、閻魔様の使いの戒徒といいます。
……俺を、弟子にしてくださいっ!」
「……はぁ?」

戒徒の突然の言葉に、舞夢は唖然と戒徒を見た。

「あんたのあのドSっぷり、気に入りました!閻魔様には強引さが全然無いからいっつも困ってたんです!名前は?」
「…舞夢、だけど…」
「舞夢さんですか!俺をどうか、舎弟にしてくださいっ!」

小鬼も舞夢も、まだ状況を把握できずに素早く頭を下げる戒徒を見る。

───そして。

舞夢は考える間もなく、言葉を発した。


「……え、ムリ。」


第三話、完!!

(…ど、どうしてですかぁ〜っ)
(パシリならいつでも受付中だ)
(あ、じゃあパシリで!パシリでいいので俺をお側に!!)
(やっぱM嫌いだからムリ。)
(なんでですかぁーーーーっ!)