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Re: 地獄はドSの手によって。【キャラ募集中】6舞夢の正体【1】 ( No.63 )
日時: 2013/07/07 11:20
名前: 冬の雫 (ID: JxRurJ5z)

7舞夢の正体【2】


いつも一人だった。


誰もいなくて、誰も頼れなくて、友達すら作れなかった。

だから、こんな自分はいなくていいのかもしれない。

そう思い始めていたのは、5歳の頃。
一人になってそう遅くはなかった。


「おめでとう、あなた、今よりもっといいセカイに行けるわよ」

唐突にそう言われたのは、オレが誰もいない路地裏で黒猫を 5歳の小さな手で撫でていた時だった。

その黒猫を見ていると、自分によく似ていると思った。

素っ気なく、人をあまり寄せ付けない。
人が来れば逃げて行く。

まさに今の自分だ、そう思った。

「は?」

幼いオレは言葉を零す。

───目の前に居る、“黒猫”に向けて。

「今…ネコが喋ったの…?」
「そうよ、私が喋ったの」

黒猫は、口を開けて、はきはきと喋っている。
……意味が、分からなかった。

そして、ああ、と思った。

自分は、寂しさのあまり幻覚を見てしまっているのか。

「虚しいな……」
「あなた、自分を責めてるの?…勘違いしないでよ、私は猫じゃないわよ」
「はぁ?」

ますます意味が分からない。

猫ではなければ、今目の前に居るこの黒い毛の小動物は一体なんだというのだ。

「私は死神。あなたを、迎えに来たのよ」

オレは状況が把握できず、「死神…?迎え…、…?」と繰り返すことしか出来ない。

…とりあえず、『迎え』という言葉に興味を持ったのは確かだった。

「…ぼくを…、迎えに…?」
「そうよ。あなたを、迎えに。」

黒猫は繰り返す。
その言葉とガラスのおもちゃのような瞳には、鋭い“何か”が感じられた。

「……ぼく…、死ぬの…?」

なぜか分からないが、そう呟いていた。
黒猫は喉を鳴らして、「さぁね」と背伸びをする。

「え…?」
「あなたがこれを拒否すれば、あなたは死なない。だけど、ずっとこの狭い世界で生き続けなければならない。」

その黒猫の言葉は、妙にその頃のオレの心を引っ掻いた。

死神、迎え、死、狭い世界。

オレが思っているよりも遥かに、黒猫はオレの心を見透かしていく。

オレは口を開いた。

言葉を紡ぐと───黒猫は、口角を上げる。

「───そう。分かったわ」

───このときのオレの『Yes』は、間違っていたのだろうか。

[地獄]

「……咫神クン、その子は何かネ」

地獄の門の前では、閻魔がポカンと口を開けて死神の咫神タガミを見ていた。
咫神は「ご覧の通りです」と腕に抱えている舞夢を優しく降ろす。

───幼い舞夢はすやすやと心地良さそうに眠っていて、閻魔は、つい「かわいい……」と言葉を漏らしていた。

「……?」
「あー…ゴホン。この子は死んでいるのかネ」
「はい。どうやら、死にたがってもいるようでした」

その歳でかネ、と閻魔は丸い目を見開く。
咫神は「今ドキ珍しくもありませんよ」と当たり前のように平気に言った。

「可哀想なことだネ…。今の人間界は、昔よりも悪いと聞く」
「…はい。ですがその為、ここの住人が増えるかと」
「そうポジティブなのは君だけだネ、咫神クン」
「そうでしょうか」

咫神は舞夢をチラッと見たが、直ぐに目を逸らした。
そして、閻魔に言う。

「この子を、亞代さんの所へ連れて行きます。亞代さんにはこの子が人間だと言うことを伝えない方がいいので、そこは適当に流してください」

はきはきと喋る咫神に閻魔は目を開き、そして頷いた。

咫神は、「では」と門を後にしようとする。

「ああ、待ってくれネ」
「なんです?」
「…その子は、これからどうやって暮らさせようとするんだネ」

閻魔のもっともな言葉に、咫神は「それは……、」と口ごもる。
閻魔は少し笑って、「じゃあ」と優しく見下ろした。

「そこは私が育てるネ。その子はいつか、大物になりそうだ」

地獄のスター、ですか、と咫神が少し冗談めかして無表情のまま言うと、閻魔は「そうだネ」と巨体を揺らして笑ったのだった。

[十年後、地獄]

「舞夢くん、針山地獄の配置は出来てるかい?」
「はい、問題ありません」

「舞夢さん!ハウシングでケルベロスが!」
「暴れてるのか、今から行く」

「舞夢、今月の御給料よ」
「……少ない気がするが」

15歳になった舞夢は、閻魔の言う通り地獄の長のような存在に上がって行った。
みんなからは親しまれ、舞夢自身も悩みなどなかった。

───だから。

この選択は、間違っていない筈だ。



───二年後。

地獄では、ある猫の死体が見つかった。

その猫は真っ黒な毛をした猫で、ある一角に、ポツンと落ちていたという。

それを見た舞夢は、震えた声で呟いた。


「……咫…神……?」


第七話、完