コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- . ( No.13 )
- 日時: 2013/07/06 21:49
- 名前: 〒... しあち。 ◆InzVIXj7Ds (ID: n6vtxjnq)
「雨、止まないわね」
「寧ろ本降りになってきてないかい?」
足りない食材を買いにスーパーへやって来た。
買い終わり、スーパーからでて少し歩いたその時、ぽつぽつと雨が降ってきた。直ぐに止むだろうと、私達は近くのこじんまりとした店の前で、雨が止むのを待っていた。
しかし雨は一向に止む気配が無い。
小さな店の前でいい年した大人二人が縮こまっている。傍から見ればさぞかし滑稽な画なのだろう。
幸いこの店は一本奥の道を入った場所にあり、人気は一切無い。
「まさか降ってくるなんてね」
「ホントだねぇ。おいちゃんすっかりぐしょぐしょだよ」
ふと、隣にいる頭一個分程身長差のある彼を横目で見た。水気を帯びた髪がべったりと額に張り付いているのを、鬱陶しそうに払う。普段は無造作に立てている髪も、今は雨と湿気で随分落ち着いている。
髪から滴り落ちる水滴が妙に……。
自分の頬に熱が集まるのを感じた。
横目で、とは言え見詰め過ぎたのか、視線を感じ取った彼は私の方を向いた。
「さっきから熱の籠もった目で見つめちゃって。おいちゃん照れるよ」
「あら、そんなに熱籠もってた? いやだわ隠し切れてなかったのね」
我ながら上手い返しだと思う。無意識に行ってしまう、自分を隠そうとする照れ隠し。よく友人に直した方が良いと言われていたっけ。
「私の熱の籠もった視線はお嫌い?」
「いんや、まさか。おいちゃん嬉し過ぎるくらいだよ。……ただあんま見つめられると、ねぇ、おいちゃんちょっとキツいかなぁって」
「そんな目つき悪いかしら」
「……そうじゃなくてねぇ」
こんな歯切れが悪い彼は初めてだ。それともう一つ。彼は一向に私と目を合わせない。
私は雨に濡れてよれよれになった彼のシャツを引っ張った。
「ねえ雅之さん、さっきから目を合わせてくれないけれど、どうしたの?」
体調でも悪くなったのかと心配していると、彼が「……はぁ」とため息をついた。
そして私に視線をやる。やっぱりどこか少し外している。
「自分の姿見てみな。雨に濡れて、凄く色っぽくてやらしいから」
「……え?」
予想だにしていなかった言葉が、雅之さんの口から紡がれた。
思わず間抜けな声を出してしまった私。少し恥ずかしい。
「だからねぇ、あんま見詰めたり見詰められたりするとおいちゃん、変な気分になっちゃうんだよ」
……変な気分って。
「そうなの」
「そ。そうなんだよ。だからね、杏奈ちゃん」
「なら私と同じね」
普段なら余裕たっぷりの彼が、ほんの少し間抜けな顔をしてやっと私の方を向いた。
それと同時に私は雅之さんの胸に右手を添えながら、唇を耳元へと寄せる。
「私も雨に濡れた雅之さんを見て変な気分になってたのよ。色っぽいな、って」
私の言葉にキョトンとしていた雅之さんだったが、「ね?」と言うとハッと我に返った。
「あ、杏奈ちゃん……? この体制、おいちゃんちょっと大変……」
「やだわ私ったら、発情期かしら?」
わざとらしく頬に手を添えて呟く。雅之さんは調子を取り戻したのか、目を細めた。
「杏奈ちゃんなら大歓迎だねぇ」
「あらありがと」
頬に触れられると、雅之さんの手の温もり。そっと目をやると、真っ直ぐ私を見る視線と絡んだ。
「杏奈ちゃん、水が滴っててホントえろいよ」
「雅之さんこそ」
互いに密着しながら笑い合う。
「さて、お互いに変な気分になっちゃったんだ、良いかい?」
「待って、ここじゃ嫌よ。帰ってからにしましょ?」
「そんな気にさせといておあずけかい。おいちゃん我慢出来ないんだけどねぇ」
「我慢してよ。帰ったら、……ね?」
私の言葉を聞き、にやりと口元が緩んだかと思えば、触れるくらいの優しいキス。
「もうちょっと深いキスしたかったけど、すると止められなくなるからねぇ」
「ええ、ここじゃ嫌だわ」
「だから帰ったら、たっぷりと可愛がってあげるさ」
「ふふっ、楽しみだわ」
いつの間にか雨は止み、綺麗な青色が雲間から覗いていた。
■ After the rain
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真夜中の産物。
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