コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 子羊さんとシェアハウス〜獣君の甘いこと〜【8/30更新】 ( No.106 )
- 日時: 2013/09/06 20:52
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
企画番外編【あまい、からい……】
夏休み終了まであと一週間、私、藤咲麻耶は通常運転で暮らしていた。
特に変わったこともないし……休みだが、外に出る気もしない。もっと、こう、刺激が欲しいのだが。
「はあ……」
ため息をつきながら、冷蔵庫を開け、麦茶を取り出す。
「麻耶ちゃん」
名前を呼ばれ、後ろを振り向く。
「祐夜さんに皓雨君……どうしたんですか?」
「今日、俺ら出かけてくるから」
「あ、分かりました……どこへ行くんですか?」
そう尋ねると、皓雨君は少し声を潜め、話してくれた。
「もうすぐ蛍の誕生日だから、ケーキを探しにね」
その話を聞いて、兄弟で思い合ってるんだろうな……と考えながら、笑顔を返した。
「分かりました、蛍さんには内緒ですね」
「よろしく。……やっぱり紫季は来ないか」
仕方がない、という顔で祐夜さんは言う。
そのまま、二人は玄関を出て行った。
私は本を開きながら、ソファにもたれかかる。
「外に出ようかなあ……」
そんなことを呟いてみるが、やはり、外に出る気にはなれなかった。
「……麻耶」
その声で本から顔を上げる。
「け、蛍さん」
「なあ、何か甘い物ない?」
突然そう言われても……と悩む。チョコレートくらいあったかな?
「ねえ」
蛍さんがいる右隣とは逆に、左隣から声をかけられる。見ると、紫季さんの顔が近くにあった。
「俺は、辛い物が食べたいんだけど」
か、からいもの? 甘い物、辛い物、と言われ混乱し始める。
「はやく……」
耳元で蛍さんに囁かれる。身体が思うように動かない。
まるで、蛍さんに囚われてしまったみたいに——。
優しく耳に触れられ、思わず怯む。
「……っ」
少し息を飲む。それを見て、蛍さんは笑みを浮かべ、私の顔を自分の方へ引き寄せる。
「もっと……そういう姿見たいな。少し触れられただけで、そんな赤くなっちゃう麻耶のこと……」
なんで、そんな甘い言葉を吐くの。
そう思った時、今度は紫季さんの方へ引き寄せられる。
「なんで蛍ばっかり」
そのセリフに胸が鳴る。
「俺のことだけ見て、俺で感じて、そして、俺だけが見ててあげるから……」
首筋を撫で上げられ、くすぐったい。なんか、変な触り方——。
「……煽るの上手いよね」
「え、え!?」
動揺が増していく。
「も、もういやー!」
「何言ってんの」
蛍さんの声が聞こえる。
蛍さんと紫季さんがいた。何事もなかったような顔で。
……いや、本当に何もなかったのかもしれない。
「……夢?」
「あんな奇声上げるなんて、どんな夢見てるのか理解不能」
紫季さんがそう言ったのを聞き、あんな言葉を紫季さんが言うわけない、と我に帰る。
それから、あの夢を思い出し、恥ずかしくなってくる。
なんであんな夢を見たんだろう……。
「……なんか顔赤いけど」
紫季さんが無表情でそう言ってくる。
「や、な、何でもないです!」
そう言って、自分の部屋へ戻る。
私はもう二度と「刺激」なんて求めないと誓った。
完