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Re: 子羊さんとシェアハウス〜獣君の甘いこと〜【10/4更新】 ( No.149 )
日時: 2013/10/08 22:39
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 第7章 紫季の秘密、麻耶の秘密

 その沈黙は短いようで長くて。
 とても息苦しいものだった。

「従兄妹——?」
 紫季さんが驚きを隠しきれない様子で口に出す。妙に現実味を感じる。
「そんなの……俺等だって知らねえよなあ?」
 蛍さんが皓雨君と祐夜さんに同意を求めるが、祐夜さんのいつもと違う反応に気付いたのだろう。

「祐夜……」
「——知ってたよ」

 この話をしはじめてからずっと口を閉じていた祐夜さんだったが、ついに口を開いた。

「俺は実質長男になる。俺が生まれてから、父さん達は紫季のことを黙っていることを決めたんだよ。紫季を本当の息子にしようとしたんだ」

 そう冷静に言い終えると、私に目で合図を送る。多分、ここからが紫季さんにとって苦しくなるのだろう。

「紫季さんは……本当の親に捨てられたと思っているんですよね」
「思っているんじゃない。捨てられたんだ」

「……頑固だなあ」

 私は呆れたように言い放ち、話を続ける。

「捨てられたのは——紫季さんのお母さんですよ。あなたの父親が、あなたの母親を捨てたんです」
「——は?」

 意味不明、という顔しながら紫季さんが反応する。

「お酒を飲むと暴走する人だったそうで……美月さんはついには捨てられ、一人で産み、一人であなたを育てたんです」

 ゆっくり、言葉を紡いでいく。

「——ガンだったんです。それで……お亡くなりになられた」

 紫季さんが少しだけ表情を暗くする。
 やっぱり、実の母親が亡くなった話をしているからだろう。

「亡くなる直前に南沢夫婦に紫季さんを頼むのですが……何と言ってお願いしたか、ですよ」

 私が紫季さんの目を真っ直ぐ見つめると、彼も見つめ返してくれる。

『「あなたの父親は私達を捨てた」なんて言わないでほしい。男の子にとって父親は正義であってほしいから。だから、私が捨てたことにしてほしいの』

 そう言った途端、紫季さんの目が泳いだ。
 完全に動揺している。

『この子に覚えていてほしいのよ。「自分の母親は最低だ」って。そうしたら——彼は一生私を忘れないもの』
 
「——無理をした笑顔で言っていたそうですよ」

「……どうですか? これでもまだ、あなたのお母さんは最低ですか?」

 紫季さんは無言で、でも、唇を噛み締めているのが分かる。

 だけど、その顔には、感謝が込められていると思った。



 その後、解散し、最後に祐夜さんにお礼を言われた。
「……助かったよ、ありがとう」
「いえいえ。祐夜さんも、紫季さんのこと気になっていたんですよね」
「……」
 ちょっと照れた様子だ。
 祐夜さんも戻っていく。
 これで、二人の心も晴れただろう。

 私は思いだす。
 紫季さんには言わなかった、美月さんのもう一つの言葉。

『愛してる、なんて紫季には言えないけど、紫季が大人になった時にでも気付いてほしいわ。
 ——私が、紫季をどれだけ愛しているかを』


                         第7章 完