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Re: 子羊さんとシェアハウス〜獣君の甘いこと〜【8/16更新】 ( No.86 )
日時: 2013/08/18 18:37
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

 第5章 子羊さん、祐夜君に会いに行く。

『遊ぶ』という単語はどうやら言ってはいけないものだったのだな、と私は思い知る。
 身体を離し、私は言う。
「じゃあ、タノシイコト、できる場所へ行きましょう?」
 そう言うと、祐夜さんは少し驚いたような顔をしてから、後ろをついてきた。
「——ゲーセンかよ!」
 一体、彼は何を期待したのか。想像は出来るけど口にはしなかった。
「仮にも生徒会長がこんなところで遊んでいいの?」
「確かに生徒会長ですけど、その前に一人の女子高生ですから」
 私は迷いなく入っていく。後ろでため息が聞こえたが、気にしない。
「庶民的なお嬢様だね」
「——そうかもしれないですね」
 蛍さんと同じようなことを言っている。確かに、庶民的だろう。ただ、こういう生活の方が性に合ってるから。
 とりあえず、私はシューティングゲームの方へ向かった。私を止めるように祐夜さんに肩を掴まれた。
「お前……シューティングゲームとかするの?!」
「え、しますよ? ほらほら始めますよ」
 そう言いながら私はお金を入れる。
 二人で始めた結果、簡単に私は負けてしまった。
「弱いな、お前」
 勝ち誇った笑みで笑う祐夜さんに腹が立ったので、私はクレーンゲームへと向かう。
「あのぬいぐるみ取った方が勝ち、でどうですか?」
 兎のぬいぐるみを指差しながらそう聞いた。
「いいよ、やってやろうじゃん」
 じゃんけんで順番を決めた結果、祐夜さんが先攻だ。これで良かっただろう。
 ——というか、何気にかなり楽しんでいるみたいだし、やっぱり少年なんだなあ、と感じてしまう。言ったら、怒られるだろうけど。
「くそ、はずした……」
 取れなかったみたいだ。
「じゃあ、私ですね」
 お金を入れ、クレーンを動かす。兎の耳に引っ掛けて、落とす。見事にゲット。
「私の勝ちですね」
 仕返しだ。勝ち誇った顔ををしてやろう。
「ま、まぐれだろ! 次はあれだ」
 祐夜さんが指差した先には、チョコレートの大きい箱が4つまとめて取れる——というクレーンゲーム。
「いいですよ?」
 ——5分後。
「何でまた取れるんだよ……」
 これ、皆へのお土産にしよう。
 結局、取れたのは私で祐夜さんは取れなかった。
「そんなの、全部計算してるからですよ」
 祐夜さんが驚いた顔でこちらを見てくる。
「角度、配置、間……すべてを計算して取り方を決めてるんです」
 だから、取れないものなんてほとんどない。
 祐夜さんの悔しがる顔を見れて良かった。

「……すっかり遅くなっちゃいましたね」
「お前が誘うからね」
 きついなあ。
「……まあ、案外楽しかったし……良しとするよ」
 その瞬間、祐夜さんが笑顔になった。いつものどうでもいい感じの笑顔じゃなくて……普通に「楽しい」というのが分かる笑顔。

「……祐夜さんって……笑うとすごくカッコイイですね!」
「……は?!」
 思ったことを口にしただけなのだが、祐夜さんはかなり戸惑っている。何でだろう。
「……恥ずかしい奴」
「え、何でですか!」
 顔を少し赤らめながらそう言う祐夜さん。
 
 少しだけ、距離が縮まったかと思った。


                        第5章 完